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第258話 クロのイカサマ

「お嬢、提案」

「あら、何か思いついた?」

「ん。人気の、無い場所に、転移する」


 ルシアスの空間魔法で、船の接近に気付かれる前にスギノキに転移してしまえばいい。

 入国さえしてしまえば、情報収集は私がいればいくらでも出来る。


「いやいやステアよぉ。それが出来んなら苦労はねえぜ?俺の魔法で転移できるのは正確に場所をイメージ出来る場所だけだ、無理無理」

「分かってる。私が、一肌、脱ぐ」


 私は、船に備え付けられている望遠鏡を指さした。

 星を観察するためのものだからか、倍率はかなり高いはず。


「あれで私が、スギノキ、遠くから、見る。見えた、適当な人間の、記憶読む。人気なさそうな、森とか山とか、あったら、ルシアスに、送ればいい」

「は?いや、無理だろ。たしかに望遠鏡でギリ見えるくらいの距離なら連中にバレることもないだろうが、そんな無茶苦茶な距離で魔法が使えるわけ……」


 私は真っ直ぐルシアスを見た。


「……え、届くのか?マジで?」

「まじ」


 今の私の魔法の発動範囲は、半径約十八キロ。

 その距離で、顔を知っている人に対してなら魔法をかけられる。

 勿論ちゃんと姿を視認していたり、距離が近かったりする方が強くかけられるけど、その辺の一般人なら顔さえわかれば問答無用で支配できる。

 《範囲掌握(エリアグラスプ)》で範囲内の人間の意識を共有すれば、その内の一人でも顔が分かっていれば同じ魔法の影響下に置くこともできる。スイとの特訓の成果だ。


「む、無敵すぎるだろお前……」

「冗談抜きで僕らの最大の幸運って、ステアが味方だったことだよね」

「実際、才能は前世の私すらはるかに上回ってるわ。その気になれば私を押しのけて世界を手中に収めることも出来るでしょうね」

「興味、なし。お嬢と、みんなが、いればいい」

「ありがとう。流石は私の自慢のステアね」

「むふー」


 お嬢に頭撫でられた。満足。


「じゃあステアの作戦でいきましょう。ついでに万が一ステアが良い感じの場所を見つける前に誰かに船が見つかる可能性を考えて、この船はこのままスギノキに突っ込ませましょうか」

「ん。それなら、スギノキの、異国船に対する、対応も、見れて、一石二鳥」

「相変わらず鬼畜なこと提案する女だなあんたは。ま、こんなクズ共なら良心も傷まねえけど」

「偽装された奴隷船なんだっけ?リーフが潰した連中のところの」

「ん。あの国の、商会の、裏の顔」


 出発前にリーフに言われて、あの町の領主が帝国からの拉致民をちゃんと帝国に送り届けるように操作してきた。

 あとはこの船さえ壊せば完全にあの事業はつぶれるはず。


「ああ、あの連中のな……」


 オウランが顔を赤くしてる。

 そういえばクロが、オウランがリーフに恋したのはその奴隷商たちを潰した時だと言ってた。

 思い出してるのかな。


「おいオウラン、戻ってこい」

「はっ!……ゴホン。それでノアマリー様、入国後はどうするんです?」

「どうもこうも、まずはステアにお願いして情報収集しないことには始まらないでしょう?今の所あの国の有益な情報はゼロなんだから。つまり事前準備や相談は意味をなさないし、何もかも入国してからよ」

「なんだ、じゃああと何日かまじで暇なのか」

「そうなるわね。まあ各々魔法の練習を欠かさないようにするのは前提として、後はゲームでもする?トランプあるわよトランプ」

「いや、ステアがいるのにトランプで勝てるわけないだろ……」

「クロさんが教えてくれたゲーム、基本的に全部ステア圧倒的有利な運ゲーだし」

「ぶらっくじゃっく、ぽーかー、おいちょかぶ、ばから……なんか全部遠い目しながら教えてくれたよなあ」

「気になって聞いてみたけど、案の定前世のゴミ親にやらされた賭け事だったみたいね。逆にオーソドックスなゲームはほとんど知らないらしいわ」


 前に聞いた時、「えと、なにがありましたっけ……おば、抜け、いやばばあ……ん、ジジイ?」ってすごいこと言ってた。

 あとは……。


『闇カジノっていうのがあってですね。平々凡々に見えるビルとかでヤから始まる方々が運営してまして。かつての世界はこっちと違って賭博罪というのがあって勝手に賭け事をするのは禁止されていたんですが、まあ当然うちの親にそんな倫理感あるはずもなく、十三歳の頃から年齢偽って出入りさせられました。……え、苦労してる?面白いこと言いますね。腎臓かかってる丁半とか5分の1ロシアンルーレットに比べれば、イカサマし放題のカードなんて苦労の内に入りませんよ。ふふっ』


 ……とも、死んだ目で笑いながら話してた。

 超怖かったから、ろしあんるーれっとというのが何かはクロ自身から聞かずに知識を覗いて、見なければよかったと後悔した。


「で、その賭けゲームでステア以外誰もクロに勝ったことねえんだよな」

「イカサマしてるのは明白だから気を付けてるのに、見た感じ何もしてないんだよね……で、気づいたら負けてる」

光魔術師()の動体視力で分からないんだから、あなたたちじゃ無理でしょうね」


 お嬢は悔しそうに歯噛みしながら言った。

 お嬢のことだから、クロの技を見破って自分で使おうと思ってるのに、分からないから悔しいんだと思う。


「あ、そうだわ。こうなったら私たちでなにかイカサマを考えて、クロを負かしましょう。あの子の悔しがる顔って見てみたいのよね」

「成程、クロが悔しがる顔か……確かにレアだな、見てみてえ」

「えー、クロさんを騙すってことですか?ちょっと気が引けるんですけど」


 なんかおかしな話になってきた。

 私はクロに勝ったことあるからどうでもいいけど、負けっぱなしの三人、特に負けず嫌いのお嬢とルシアスはわくわく顔になっている。オウランも口では否定してるけど、ちょっと楽しそうな口角が隠せていない。


「じゃあ、こんなのどう?まずはこのカードを重ねて―――」

「それだと右側から見たらバレるな。じゃあこの際、三人がかりで―――」

「三人で組んでやるなら、まーじゃんでも―――」


 クロの悔しがる顔が見たい。なんでそんな気持ちになるんだろう。

 何度も見たことがある私にはよく分からないな。


「……クロ、会いたい」


 話題に上がって、記憶から表出してきたクロの顔が思い浮かんで、思わずゴラスケを顔が半分潰れるくらい抱きしめた。

 何日か会ってないだけなのに、もう悲しい。

 またホットケーキ作ってほしい。撫でてほしい。褒めてほしい。


「………」


 少し乱れた感情を、一周目で鍛えた感情コントロールでぐっと抑える。

 よし、もう大丈夫。もう二度と、感情の乱れで魔法が使えなくなるなんてことはない。

 でも……いっぱい頑張って、早く終わらせよう。

『本編に入れるほどのことでもないその後のオチ』

手を組んで打倒・クロを目指す三人。


『麻雀の場合』

(あ、これ三人手組んで打ってるな……。会話に当たり牌のヒントを混ぜるやつだ。じゃあどっちかが振り込むはずだからわたしも待ちを変えて)

「ロン!」

「ダブロンです。四暗刻単騎のダブル役満」

「あれ!?」


『ポーカーの場合』

(ああ、親が都合よくシャッフルしてるパターンか。指摘してもいいけど、まあ小細工されてもあんな雑なやり方じゃせいぜいツーペアの最低保証くらいが関の山だから……)

「フルハウスだ!」

「ストレートフラッシュ」

「なんで!?」


『ブラックジャックの場合』

(ノア様が何か仕込んでるな。……微妙にカードからインクみたいな匂いがする。蛍光剤?オトハに作らせたのかな。ノア様だけが光魔法でブラックライトみたいに見えてるわけか。……放っといていいや、私が親の時にシャッフルをいじってどうやっても小さい目かバーストしか出来ないようにノア様を狙い撃ちして飛ばせば、あとの二人はカードカウンティングでどうにでも出来る)

「はい、21。わたしの勝ちですね」

「どうして」

「イカサマが甘い。一朝一夕の雑な手でわたしに勝てるわけないでしょうに。全勝ちしたら賞金でしたよね?ください。ほら早く」

「「「………」」」


その後、クロは賞金でステア、リーフと美味しいもの食べに行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロの壮絶な前世が知りたくなる。クロが今世で幸せな生を歩めることを祈るばかりです。 [一言] クロたちがゲームでわちゃわちゃイカサマしあうところもっと見たいです。
[一言] クロが不憫で泣きました ロシアンルーレットは当たり(生存)が1/5なのかハズレ(死亡)が1/5なのかが気になる......まぁそれだけ生と死の間を潜ってきたのならそりゃ否が応でもイカサマとか…
[良い点] クロかっこいい、すごい、強い
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