第249話 もう一つの発見
「科学?」
「ええ。間違いありません」
「科学、科学……どこかで聞いた響きですわね」
「この世界では広く認識されているものではありませんから。要するに魔法に頼らずに様々な事象について研究や再現といったことを行う分野のことです。あなたの毒劇魔法も、魔力は介していますが調合という点については科学に入ります」
この世界に、科学という概念はない……わけではない。
例えば、一部地域では炎属性の魔道具の代わりに電灯を使っているそうだし、この地域の毒ガス兵器や銃火器なども立派な科学だ。
ただ、魔法というあらゆる科学的法則をガン無視するものがこの世界にはあるため、そこまでよく知られているわけではないし、レベルもかつての世界に遥かに劣っている。
言い方は悪いかもしれないが、魔法は正しい練習を行えば誰でも適正属性なら『なんとなく』で使うことができる。
わたし自身、勿論魔法発動の式自体は意識しているが、術式自体がどんな意味を持っているのかまでは分からない。かつての世界で携帯電話の仕組みを良く知らずに使っている人が大多数だったのと同じようなものだ。
だが科学の場合、魔法文明で受けた常識を放棄したうえで、全てを研究し、理解し、応用しなければいけない。労力の対価は大きいかもしれないが、余程のもの好きでなければやりたがらないだろう。
そういうわけで、この世界の科学というのは『あるにはあるが一般人の認識率は低い』程度のものだ。
「魔法ではない、科学技術を用いた敵……思った以上にアルスシール政府は強大な敵かもしれませんわね」
「ああ、いえ。それは大丈夫だと思います。おそらくこれを作ったのはアルスシールではないので」
「え?」
「疑問、どういうこと?」
「だってほら、このロボットはかなり老朽化が進んでいます。素材が分からないので年代までは分かりませんが、二人があれだけの魔法を使わないと破壊できない素材がここまで傷だらけになるということは、明らかに作られてから十年二十年程度ではありません。加えてアルスシール政府の不動伝説が始まったのは二百年前」
「疑惑、まさか二百年前から動いているとでも?」
「あくまで可能性の話です。しかしそうでなかったとしても、ここまで老朽化しているにも拘らず修理の形跡が全くありません。更にあの要塞には、これほどのロボットを作れる技術があるならば製造可能なはずのもの(監視カメラや電子トラップなど)が何もありませんでした」
「確かにおかしいですわね。もっと言えば、このろぼっととやらを作る技術が政府軍にあるならば、もっと量産でもして革命軍を襲えばいい話ですし」
「はい。以上のことから、おそらく政府軍はロボットを作ったわけではなく、第三者あるいは第三国が作ったこのロボットを流用して自分たちの護衛に使っているということが推測できます」
「納得。ということはウチたちの目標が一つ増える。革命軍に勝たせることと―――」
「あのロボットを作った者がどこの誰なのか、どう作ったのか。そういったことの調査の方が大事になりますね」
「なかなか素敵なおもちゃのようですし、お嬢様もお喜びになるかもしれませんわ。……んんっ!」
オトハが最後に体をくねらせたのは、ご褒美にノア様に頭を踏まれているところを想像でもしたか。
最近はちゃんとしていたが、やはり根っこの変態は変わっていないようだ。
「そうときまれば、早速手始めにあれをバラしましょう!」
「そこは同意見です。まあ見ても分かることは少ないかもしれませんが」
「信用、異界の知識を持つのはクロだけ。何かわかるとすればクロしかいない」
「いや、享年十四歳の最低限一般常識すら知っていたか怪しい子供に何を求めますか。もはやあの世界よりこっちの世界にいた時間の方が長いんですよわたし」
リーフの期待の眼差しを躱し、ロボットの体を闇魔法で複数に分解する。
ロボットの中にはびっしりと緑色の基盤やコード、謎の炉のようなものなど、見覚えこそあるがなにがなんだかわからないものが詰め込まれていた。
「やっぱり分かりませんね。そもそもわたし文系でしたし」
「ブンケイ?」
「気にしないでください、こっちの話です。……うーん電気が使われているのは確かのようですが、それ以外はさっぱりわかりません。何か変わったものは……変わったものしかありませんね」
軽く探ってみたが、中学の技術の時間で少しだけ基盤に触れたことがあるだけのわたしなんかは何が何だかさっぱり分からない。
あの時の授業内容も全然思い出せない。ただの勘だが、重要な記憶というわけではなく単純にわたしが死ぬ前にはもう覚えていなかっただけだと思う。
こんなことになるならもう少し真面目に取り組んでおくべきだった。
こういう時はステアが羨ましい。
「理解は諦めましょう。それより、何か目立つものなどは?」
「発見。ほら、腕の部分」
リーフがぶらぶらと手に持っているのは、巨大な火炎放射器やスタンガンだった。
「ああ、腕に仕込まれてたやつですね。なるほど、やはりこれは電気を使って動いていたようです。しかし、風はどうやって起こしたのやら」
「あっ」
腕を受け取ってマジマジと見ていた時、足を調べていたオトハが声を上げ、一部分を凝視していた。
「何か見つけましたか?」
「いえ、見つけたというかただの傷かもしれませんが。ここ、ものすごく小さいのですが何か彫ってあるような」
「どこです?」
「ここですわ、ここ。傷にしてはちょっと妙な気がしまして。まあ見たこともない形ですし気のせいかも―――」
「……ぇ?」
わたしはオトハが指をさした部分を見て―――頭が一瞬真っ白になった。
そして同時に、謎が解ける。
この世界で明らかに発達しすぎている科学技術が、どうして今よりも昔に作られているのか。
それが、なんとなくわかった。
「クロさん?」
「クロ?」
それは、傷などではなかった。
雑に、しかしたしかに書かれた『イニシャル』―――このロボットの制作者のものだろう。
たしかにそこには、『N.T』と彫られていた。
……アルファベットで。
「これ、は……」
当たり前だが、この世界にアルファベットなんて存在しない。
いつも使っている言葉もこの世界のもので、子供の頃に死ぬ気で覚えたものだ。
ここ数年、わたしは日本語すら使ったことはない。もう一人の異世界人との会話すらこの世界の言語だった。
だが目の前には簡素な、しかし普通の傷とは到底思えない、二つの文字が刻まれている。
わたしが忘れかけていた、あの世界の文字が。
「間違い、ない……」
「なんですの?何が分かったんですの?」
確信した。
このロボットの製作者は、異世界人―――わたしと同じ、あの世界からの転生者だ。
最近友人と飲みに行ったんですが、1時間くらいとあるアニメの誰が1番可愛いかという議論でガンガン盛り上がってました。
あえてどのアニメとは言いませんが、重曹or妹or天才演者と見事に全員別れ、議論白熱。なんか隣にいたおっさんが「重曹ちゃんが1番可愛い!」と友人が熱く語る度にうんうんと頷いてました。
私は全あかね派を代表して見事議論を延長戦まで持っていきました。なお、まだ勝負は付いてません。