第247話 ロボット
この程度の力じゃ、属性増幅すればいくらでも防ぐことは出来る。
だが、もう既に「ある程度の情報だけ収集して退散」なんて簡単な話ではなくなった。
微力とはいえ光魔法の能力を再現し、しかも《闇魔法》の存在をインプットされたロボット。放っておくなんて選択肢は絶対に無しだ。
「スイ!」
『分かった!』
一度伏せて魔法を解除。わたしの髪の毛数本がレーザーで焼き切れるのを感じた。
しかし、次の瞬間には。
『ガガッ……ギンイロノ、カミ、カクニン』
『データショウゴウ―――データナシ』
「《時間停止》!」
この体の髪は銀色に代わり、ロボットは混乱し始めた。
その隙をついてスイが三機のロボットの時を止めたことによって、ロボットは固まったように動かなくなった。
「ふぅ……さすがに時間魔法のデータは入ってなかったか」
『時間操作の対策が出来るほどの技術が向こうにあったら、それこそ最悪でしたね』
機械による魔法の再現。言葉にするのは簡単だが、魔力というかつての世界の知識では説明出来ない力によって動かされているこの世界では明らかに異質な技術だ。
だが、光魔法や四大元素の魔法であれば、まだ再現出来ていても納得は出来る。現実に現象や物質として存在しているから。
時間、闇などの概念すら再現できるなら―――この技術は、明らかにこの世界にとって異常な発展だ。
『……スイ、計画変更です。このロボット持って帰りましょう』
『多分、誰かが潜入したってバレるよ?めっちゃ警戒されるかも』
『それでも、この未知を放っておくよりはマシです。革命軍を勝たせるとかそういう話以前に、ノア様にとって危険な技術である可能性があります』
『……だね。でも全部持って帰るのは無理そうだから、一機だけ貰って行こうか』
『はい。オトハには悪いですが、人を誘拐していくのは諦めましょう。それよりこの辺りを歩き回って、どれくらいの数、どれくらいの種類このロボットがいるのかを調べるのが先決です』
『オッケー』
スイは立ち上がり、再び壁に沿って歩き始めた。
暫く歩くと、二階へ続く階段があったが。
『シンニュウシャ!シンニュウシャ!』
「《時間停止》」
二機のロボットが挟撃を仕掛けてきた。
しかし、スイの初見殺しの時間停止で止め、二階へ上がる。
その後も幾度となくロボットの攻撃をかわし、時を止め、やむを得ない時には消去し。
数時間かけて人が集まっている最上層の一歩手前、六階までくまなく調べ終えた。
『ここまで暴れまわって誰も人間が来ないってことは……』
『向こうはロボットの動きを把握していない可能性が高いでしょうね。それに、ここまで進行しているのにサイレンなどが鳴る気配もない、監視カメラのようなものも見えない。あんなロボットを作れるなら、それくらいは作れるでしょうに……』
『どうする?ここまで来たら、人間の誘拐も出来そうだけど』
『……やめておきましょう。ここまででロボットの総数二十七体、その数だけ時間停止もキープしたままのはずです。そんな制限状態で未知のフロアに飛び込むのは得策ではありません』
『うーん……実はそんなにつらくないんだけど』
『まだいけるはもういけない、です。一機だけ拝借して帰りましょう』
結局、ロボットは全機同じ形をしていた。
正確には色は多少違ったが、剥げていてほとんど同じに見えた。
しかし、スイの時間魔法のデータがないと判断するやいなや、様々な攻撃を繰り出してきた。
炎、水、風、土、光、毒、弾丸その他、果てには電撃まで。
一つ一つの威力は、現代で優秀と言われるレベルの魔術師に勝るとも劣らない威力で、わたしたちであれば簡単に防ぐことが出来た。
しかし、これが並の魔術師相手となると話が変わってくる。
こんな狭い通路でろくに魔法も使えない状況でロボットの一斉放射を食らえば、かなりの被害が出るだろう。
間違いない。政府軍を不動たらしめたのは、このロボットたちだ。
「レベルとしては、上位魔法を使える魔術師レベル。しかも確認できただけでも十以上の属性を操れる。ルクシアの染色魔法と似て非なる能力ってとこだね」
『一機ですら、その辺の四大魔術師を何人も相手取れるでしょうね。そこに地の利も混じって、二百年もの間この要塞を守り続けることができたのかと』
「しかもそれだけじゃないよ、多分。こいつの装甲も詳しく調べないといけないね」
一階に戻り、一機を持ち上げ―――るのは重すぎて出来なかったので、頑張って引きずっていった。
途中から気配遮断と遮音を再開し、ロボットを持ったまま外に出て、一旦ロボを置いて汗を拭う。
「ふぅっ……脱出は出来ましたね。後は帰るだけです」
『……ところでクロ。どうやって帰る気なの?』
「歩きますよ。あなたの加速を使えば二日くらいあればつくでしょう」
『こんな重いもの持って?』
「……四日くらいあればつくでしょう」
『冗談でしょ!?』
「冗談じゃありません。すべては我々の勝利のためひいてはノア様のため。それくらい我慢しなさい」
『無理でしょこんなきついの!食べ物も飲み物も最低限なのに!』
「そんなこと言ったって他に方法がありません。ですがたしかにこのロボットを引きずっていくのは現実的ではありませんね、リヤカーでもあればいいんですが」
『リヤカーも嫌だよ!』
「……文句が多いですね。仕方ありません、では一時間くらい我慢して歩いてください。この近くに革命軍の要塞監視のための基地があったはずです。そこから馬と荷台かなにかを拝借しましょう」
『拝借ってどうやって。ボクらが味方だなんて言っても信じてくれないと思うよ?』
「強奪するんですよ、それ以外に何があるんですか」
『……クロって、たまにすっごい物騒なこと思いつくよね』
「誰のせいですか誰の。わたしだって一応は手を組んだ軍に対して強盗なんて働きたくありませんよ」
根も葉もない風評被害をぼそっと呟くスイに若干イラっとしながら、わたしはロボットの首根っこを掴んで引きずりつつ、基地の方向を確認した。