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第246話 ガシャン

 当然の如く内側に入る門は閉まっていたし見張りもいたが、空間を歪めて隙間を作ることであっさり侵入に成功。

 内装は思っていたよりも整然としており、コンクリートのような素材で全面が覆われ、上には小さなシャンデリアが並んでいる。

 不気味なほどに静まり返っており、少し足を動かしただけで周囲に音が響いたため、自分の発する音を消して防いだ。


『かなり遠くで生体感知に反応があります。政府要人は随分奥にいるようですね。……ですが』

『何か気になることあるの?』

『ええ、兵士がいないんですよ。わたしの現在の感知範囲は約250メートルですが、その範囲で動いている反応がありません』

『こんなでっかい要塞に、兵士がいない……?』


 兵士がいない状況で考えられる可能性として、強力な罠が各地にあって兵士の巡回で作動する可能性が高い、というのが一番に出てくる。

 なら、未来視で事前に罠を回避できるスイの力を借りる方がいい。


『スイ、何か嫌な予感がするので代わってください』

『分かった』

『気配と音は消したままですが、魔法は使えますか?』

『未来視くらいなら出来るね。でも攻撃系や拘束系は使えないかな』

『十分です。いざとなったら消音は解除します』


 スイは歩き始めた。

 スイと体を共有していることによって、わたしにも未来の状況が見える。

 しかし……。


『あの、スイ。未来と現在が同時に見えている感覚で酔いそうなんですけど』

『慣れて。それしかない』


 わたしの目には、スイの現在見ている視界と重なって、二秒後のスイの視界が色褪せて見えている。

 いつもとあまりに違う感覚に、3D酔いに近い感覚がわたしを襲う。


『ピンチの時だけ発動する未来視とかないんですか……』

『あるけど、複雑な魔法だから今発動するのは無理だよ』


 目を瞑ってしまいたいが、スイに体を貸しているのでそれも出来ない。

 この状態のわたしは、スイと完全に感覚を共有するか完全に遮断するか、0か100かしかない。

 しかも遮断すると魔法が解除される。

 なんて不便な体だ、どうしてこうなった。


『それより、この迷路みたいな要塞をどう攻略するかを考えようよ』

『迷路ならどちらか片方の壁に常に沿って歩いてください。それで攻略出来ます』

『そうなの?』

『まあ、ゴールできないタイプの迷路もありますが。あてずっぽうで動くよりはマシでしょう、帰る時も便利ですし』

『へえ、それも異世界の知識?』

『はい。どうやって知ったのかは覚えてませんが』


 スイはわたしの言う通り、左側の壁に沿って動き始めた。

 しかし、何分歩いても―――罠らしい罠はない。


(……?簡単すぎる。これが不動の要塞?)

『ねえ、なんかおかしくない?』

『スイもそう思いますか』


 スイがどこか不安そうな声を頭に響かせた。

 わたしも同意見だ、いくらなんでもここまで何もないのはおかしい。

 道中に集団でないと発動しない罠でも仕掛けられていたか、奇跡の神回避をしていたか。

 そんな可能性をいくつか頭の中にリストアップしていると。


『……ん?』

『どうしました?』

『いや、今何か聞こえなかった?ピーッっていう変な音』

『ピー?』


 考え事をしていて気づかなかったが、集中してみると。



 ……ピーッ。ガシャン。



『……聞こえますね』

『何の音、これ?』


 ―――ガシャン。ガシャン。


『ねえ、なんかやばくない?』

『かも、しれませんね』

『千年の間、こんな音聞いたことない……ちょっと、見に行ってみようか』

『……ええ』


 嫌な予感がするが、わたしたちはその嫌な部分を調べにきた。

 見に行かないという選択肢はない。

 スイはゆっくりと元来た道を戻り、音のする方向へと近づいていった。



 ―――ガシャン。ガシャン。ジャキッ。……ガシャン。



『なんか……聞き覚えのあるような音が』

『こんな妙な音に聞き覚え?』


 怪訝そうな声を出すスイだったが―――角を曲がろうとした瞬間に足を止めた。

 その理由はわたしにも分かった。未来視に、この世界の常識ではありえないものが映っていたのだ。


『は……?』

『な、なに……これ』


 スイは警戒しながらも、顔をそーっと出して曲がり角の先を確認した。

 そこにいたのは、未来視に映った形に、赤や青の塗装がされた―――、



『シンニュウシャハッケン。タダチニハイジョシマス』


『……ロボットォ!?』

「なにそれ!」


 スイの疑問に答えるよりも早く、目の前にいた三機のロボットの腕が変形。

 四門の砲弾が現れ、それが回転し。


「うわああああ!?」


 凄まじい量の銃弾が一気に発射された!


『ガトリング搭載ってマジですか!』

「なんで気配も音も消えてるのにボクらのことが分かるの!」

『熱源感知とか動物探知とかそういう類いのものです!多分!』

「そもそもあれなに!?土人形(ゴーレム)!?」

『あれはロボットです!機械で出来た自動人形とでも思ってください!一旦体制を立て直しましょう、退却です!』


 スイは慌てて何度も角を曲がり、ロボットを撒いた。

 ……と思ったのだが。


「ねえ、音めっちゃ近づいてくるんだけど!」

『さっきわたしたちと離れたところから起動音がしたということは、おそらくあらかじめ設定されていない人間の反応が一定範囲内に入ると起動して自動的に迎撃するシステム……ロボットに気配は関係ありませんから、わたしたちにも気づいたんでしょう』

「なんかいやに落ち着いてない!?」

『いや、スイと違ってある程度あの手のロボットのことを知っているので。とりあえず代わってください。わたしが何とかします。未来視は解除を』


 体の主導権を元に戻し、ついでに意味をなさない消音と気配遮断も解除した。

 これで十全に闇魔法を使うことができる。


「しかし、潜入がバレると政府軍が警戒して守りを固めるかもしれない……ロボットは破壊できませんね」

『じゃあどうすんのさ!』

「彼らの全装備を使わせて、手の内をすべて見てから逃げます。あるとすればそうですね、ビームとかロケットパンチでしょうか。わたしもあまり興味なかったのでイマイチ知らないんですが」

『……あのろぼっと?が起動したこと自体が政府軍にばれてたら?』

「その場合はもう仕方ありません、こんなの予想しろという方が無理です。リーフとわたしたちの火力でゴリ押しするしかありませんね」

『脳筋じゃん』

「臨機応変と言ってくださ」

『シンニュウシャ!シンニュウシャ!』


 凄まじいスピード―――よく見たら背中にジェット噴射が付いている―――で追いついて来た三機のロボットは、いきなりガトリングをぶっ放してきた。


「《漆黒の大楯(ダークガーター)》」


 しかし弾丸一発は小さいため、闇魔法で簡単に防御できる。

 これで防ぎ続けて、相手のすべての行動を―――。


『ガガッ……カイセキカイシ』

『ダンガンノ、ショウシツヲ、カクニン。クロイカミ、カクニン』


『99.98%ノカクリツデ、《ヤミマジュツシ》デアルト、ダンテイ。タイショコウドウヲ、オコナイマス』


「――――!?」


 思わず「はあ!?」と叫びそうになったが、そんな余裕はなかった。

 三機のガトリングが変形、一つの巨大な砲門に変化。何かを収束するような耳障りな音が響き。

 砲門から、()()()()が撃たれた。


「ぐっ……!?」


 慌てて防いだが―――これは。


 ほんの少しずつだが、闇が浸食されている。


 全機が同じ所を撃ってようやくわたしの闇を僅かに削れているだけなので、一機ずつの威力はノア様には全く及んでいないが、問題はそこじゃない。

 つまりこのレーザーは―――()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

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