第244話 劣等髪の扱い
「あそこですね」
時にリーフの魔法で加速しつつ、一日もかからずに革命軍本拠地へと辿り着いた。
道中にここを隠すためのギミックや罠が無数に仕掛けられていたが、途中からスイと代わって未来視ですべて先読みしてもらうことで解消、無傷で到着できたのは幸いだ。
「オトハ、ここからはわたしたちはリーフの部下という設定でいきますからね」
「承知してますわ」
「では行きましょうか、リーフ様?」
「……奇妙、クロにそう呼ばれると違和感しかない」
「耐えてください、わたしだって本意ではありません」
「まったく、お嬢様以外の人間を様付けで呼ぶ日が来ようとは……はぁ。ほらリーフ様、さっさと踏み込みますわよ」
「呆然、こっちに関しては敬われている感じがかけらもない」
「オトハ、もうちょっと何とかしてください。リーフをノア様だと思……うのは貴方の場合無理でしょうし仮に思われてもリーフが迷惑ですので、自分で考えて敬意というものを滲みだすんです」
「なんだか今凄く馬鹿にされた気分ですわ」
オトハはそう言って口を尖らせ、そんな急に言われても出来ませんわよとでも言わんばかりに首を傾げてしまった。
しかしわたしは、そこで妙案を思いつく。
「ルクシアのところのケーラを参考にしてみては?」
「はあ!?何が悲しくてあのアバズレの部下を真似なきゃいけませんの!?」
「敵も利用してこそのノア様の側近です。ほら、早く出来ないとノア様に会う時間がどんどん減っていきますよ」
オトハも上手く乗せられているのが分かっているんだろう、ぐぬぬ…と唸って葛藤したが、やがて頬をぺちぺちと叩き、次の瞬間にはまるで令嬢のような素敵な笑みを浮かべ。
「それでは向かいましょう、リーフ様。何かあれば私がお守りいたしますわ」
「パーフェクトじゃないですか」
オウランの姉だけあって器用だな。
ノア様の前でもこれくらい大人しくして、常に冷静かつ最適な対応を取れるこのモードを維持できれば、この上ない最高の味方なのに。
リーフは感心と呆れの半々顔をしてオトハを見ていた。
「請願、その状態を維持したまま……《風重圧》!」
「!」
だが直後、革命軍本拠地の方角から複数の銃口がこちらに向けられ、瞬きとほぼ同時に発射された。
わたしとオトハはここから表立って魔法を使うわけにはいかない。それを察しているリーフが魔法で弾丸をすべてはたきおとした。
「な……なにっ!?」
「加速させた弾丸を無傷で抑えるとは、相当な手練れのようだ。油断するな!」
耳を澄ませるとそんな声が聞こえてくる。
これはおそらく、わたしたちが政府軍と勘違いされているパターンだ。
「リーフ様、説得をお願いできますか」
リーフは頷くと、一瞬で敵との距離を詰め、竜巻を起こしてすべての武器を宙に浮きあがらせた。
「なんっ!?」
「指令、落ち着け。敵じゃない」
「騙されるかよっ!」
なんだか血の気が多そうな男が、拳に炎を纏わせてリーフに殴りかかった。
強さを目の当たりにしているとはいえ、問答無用で女性に殴りかかるとは碌な男じゃないな。
案の定リーフは小さくため息をつき、無言で風の弾を複数はなって男を気絶させていた。
すかさずリーフに第二陣の銃が突きつけられるが、撃たれるより早くリーフは懐から紙を取り出し。
「送伝、話を聞け。ウチはディオティリオ帝国皇帝直下、皇衛四傑が一角、リーフ・リュズギャル。革命軍幹部の面々に話があってきた。こちらに戦いの意思はない、武器を収めてほしい」
そのリーフの言葉と、素人目でも上質なものと分かる紙と帝国皇帝の印に、その場にいたわたしたち以外の全員が顔を見合わせた。
「……つまり、帝国は俺たちの支援を行ってくれるってことかよ!?」
ニ十分後、わたしたちは二十人程度の幹部がぎっちりといるむさくるしい部屋に通された。
そしてリーフが端的に説明すると、幹部のほとんどの目が輝く。
「肯定、端的に言えばそうなる」
「凄い凄い!あのディオティリオ帝国がバックにつくなら、僕たち無敵じゃん!」
「あの腐った政府軍共を皆殺しにするチャンスってわけだ!」
随分とはしゃいでいる。
まだほとんどリーフは説明してないんだが、大丈夫かこいつら。
なんだか平均年齢も若いし、革命軍というよりはチンピラ集団みたいだ。
本当にこれが幹部なのかと疑いたくなる。
まさかとは思うが、その幹部って取った敵の首の数で決まるとか、そんな阿呆なことないだろうな。
「それで、どんだけ兵を貸してくれるんだ?」
「武器は?司令官は?作戦は?」
「えーっと……」
わたしがどことなく呆れていると、詰め寄られたリーフがあたふたしていた。
現在のトップはリーフだ、ここは耐えてもらうしかない……と思っていたのだが、リーフはわたしの所に来てわたしをずずっと連中のほうに押し込み。
「代替、あとは彼女が説明する」
「は!?ちょ、リーフ…様!?」
「命令、あと頼んだ」
この女、面倒くさくなったらしい。
平手打ちの一つも見舞ってやりたいところだが、リーフの部下という現在の立場ではそれも出来ない。仕方なく前に出る。
「えー……では説明を引き継がせていただきます。まず」
「おい。おいおいおいおいおいおい」
せっかくわたしが話を続けようとしたのにそれを遮ったのは顔中ピアスだらけの緑髪だった。
彼はわたしのそばに無造作に近づくと、わたしの胸倉を掴み。
「なんで帝国の使者に劣等髪が混じってんだ?奴隷かと思って放置してたけどよ、俺らと話そうとするってんなら話は別だ。出しゃばってんじゃねえよ雑魚」
…………。
あ、なるほど、こういう手合いか。
最近あまりそういう機会が無くて忘れかけてたが、そういえばこの世界でわたしたちみたいな希少魔術師はこういう扱いだった。
なんだか久しぶりな感じだ、こういうの。
「……怒気、彼女を放せ。ウチの部下に何をしている」
「怒気はこっちの台詞だよ。ディオティリオ帝国は世界有数の侵略国家って聞いてたが、まさかこんな雑魚を自分の部下に据えるくらい余裕がねえのか?あ?」
「嘲笑、彼女たちを甘く見ていると痛い目を見る。手を離した方が賢明」
「はっ!魔法も使えねえ劣等髪を甘く見ずになにを甘く見ろってんだ?ディオティリオ帝国も大したことねえなあ、こんなゴミを徴用するなんてよぉ!」
「お、おい!よせジャム!」
彼の顔にあるのは、侮蔑、敵意、そして憤怒。
恐らく彼は、戦争にわたしたちに介入されるのが気に入らないのだろう。
仲間と相談もせずにこうして問題を起こすとか愚か極まりない救いようのないバカだが、今回に限っては正しい判断をしている。
わたしたちを受け入れれば、その先に待つのは死なのだから。
しかし、この手法は悪手だ。
「通告、これで最後。彼女を離した方がいい」
「ばああか!クズに生まれて来た劣等髪が、俺らに何もできるわけねえんだよ!この女も、そっちのピンクもな!」
……今のは少し、イラっとした。
「リーフ様、いかがなさいますか」
「指令、殺しはするな。そのうえで、主導権がどちらにあるかを教えてやれ」
「かしこまりました」
完全にこっちを舐め切っている馬鹿の腹に手を置いた。
そして闇魔法の力で、一瞬だけ思いっきり、内臓を歪める。
「ごがあああ!?」
たまらず吐血して地面に伏せようとしたところを、顎を蹴り砕いて仰け反らせ、髪を掴み机に叩きつけた。
「クロさん、やりすぎですわ」
「殺してはいないので大丈夫ですよ」
「で、でめ、ぶっごろ」
まだこっちに反抗的な目をしていたので、こんどは肩に触れて骨の形を歪めて脱臼させる。
闇魔法は「消したもの」は元に戻せないが、「歪めたもの」であれば戻すことができる。
そのため、こんな風に何らかの技術を使って相手を潰したと見せかけるには便利だ。
最もこんな雑魚、魔法を使わなくても倒すことは容易だが、こういうところは徹底的にやっておかねば。
次回、次々回の投稿お休みします、すみません!
尚、この投稿休みはあくまで個人的な非常に大事な予定が入っているだけであり、ゼ○ダの発売日と被っていることは一切関係ございません。
今作、回想シーンだけでもミファー出ないですかね。