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第242話 サイコメトリー

「……まあ、もしかしたら指揮官なり参謀なりはしっかりと考えているかもしれませんし。一概にくだらないと言い切ることは出来ないかもしれませんがね」


 わたしを含む全員のモチベーション低下を防ぐために言ったが、ないだろう。

 先を見据えた戦なら、尚更末端の兵士までその目標を伝えるはずだ。

 仮にわたしの言ったように参謀なり指揮官なりは将来を見据えていたとして、その志を共有せずに兵士を駒のように使っているなら、どの道くだらない連中が率いてるくだらない軍だ。


「提案、さっさと済ませてノアたちと合流する」

「同感ですわ。お嬢様と離れているという今この瞬間だけでもこの身を万の矢に貫かれている気分だというのに、よりにもよってこんなアホらしい国だとは。これはもうお嬢様のキスは二回……いや三回……いえ五回して頂かないと割に合いませんわ!」

「それはノア様と交渉してください。さあ、行きますよ」


 荒く息をしながらこの国に負けず劣らずアホな顔をしているオトハを引きずりながら、先ほどオトハが指さした方向に歩を進めることにした。

 駐屯地なら探れる情報も多いだろう。


「その駐屯地を見つけたら、わたしが探ってきます。二人は遠くで待機しておいてください」

「意見、流石に一人では危険」

「問題ありません。気配を魔法で消していきますし、いざとなればスイもいますから。そもそもわたしの魔法じゃあなた方は連れていけないんですよ」

「闇魔法で消した後に戻せるのは自分だけですものね。私たちの気配を消して、その後一生透明人間はごめんですわ」

「そういうことです。意外と不便な魔法ですよ」

「納得、ウチたちが待機の理由は分かった―――ところでその魔法、何かの拷問に使えそう」

「相手の気配を消して、誰にも気づかれない人生を送らせるってことですか?」

「そう」

「無理じゃありませんの?消すのが気配なら、いくらなんでも触れられたり注視されたりしたら気づかれそうなものですが」

「気配を消すならそうですね。ですが、存在感を消すならリーフの言ったような運用も可能です。最も、絶対にやりませんが」

「疑問、なぜ?」

「そんなことして恨みを買えば、最悪の暗殺者に常時狙われているようなものじゃないですか。そんな目に合うくらいなら最初から殺します」

「まあ、そうですわよね」

「やっぱり拷問はオトハに任せますよ。あなたほど人の苦痛に精通している人もいないでしょう」

「ちょっとクロさん、人をSМのプロみたいに言わないでいただけます?」

「ドМって意味ではあってるじゃないですか」

「ですから私はお嬢様から与えられる苦痛にしか興味がないからМとは言えないと言ったではありませんの」

「わたしはそれに対して心底どうでもいいと言ったはずですね。……ほら、くだらない話をしていたら見えてきましたよ」


 少し歩いただけで、目の前に複数の白いテントが見えてきた。


「あれですかね」

「おそらくは」

「意見、ではオトハとウチはこの辺りで一旦待っている」

「分かりました。では少し行ってきます、《消える存在(デリートサイン)》」


 オトハの目の前で手を振っても反応がないのを確認し、急いで目的地の方へと向かう。

 思ったよりも広いが、一ヵ所一ヵ所調べるのは面倒だ。

 二人を待たせすぎても悪いし、出来るだけ迅速に情報を集める必要がある。


『ねえクロ、早速で悪いんだけど変わってくれない?』

『その心は?』

『まあまあ』


 怪訝に思いはしたが、何か策があるようなので言う通りに代わってみることにする。

 わたしとスイは使っている肉体が同じのため、闇魔法では魂と精神以外は同一人物として扱われる。

 そのため、スイに切り替えたとしても《消える存在(デリートサイン)》の効果は継続され、かつ元に戻すことも可能。

 更に《消える存在(デリートサイン)》使用中、わたしは他の魔法は使えないが、スイは簡単な魔法なら使えるというオマケつきだ。


『一応言っておきますが、大声は出さないでくださいよ。存在感を消していても勘が良ければ気づかれかねませんから』

『分かってるよ。じゃあちょっと失礼っと』


 切り替わった瞬間、スイはいきなり駐屯地の中心までずんずんと突き進んでいった。

 自分で魔法を使っているわけでもないのにこの堂々とした姿、わたしを信用しているのか胆力が異常なのか。あるいはどっちもか。

 いずれにしろ、これくらいじゃないとかつてのノア様の副官は務まらなかったんだろうというのは想像に難くない。


 そんなことを考えていると、スイは地面に手をつき、目を閉じ、集中し始めた。


「さて、と。《過去思念読解(サイコメトリー)》」


 スイが魔法名を唱えた瞬間、共有している脳に次々と情報が流れ込んできた。

 ここで起こった事件、機密、人数。

 断片的にだが、まるで実際にこの場で見て来たように脳に刷り込まれていく。


『これは……』

「記憶を読み取るのは精神魔術師(ステア)の特権じゃないよ。まあ生物の過去を読めるステアに対して、ボクは空間や物質の残留思念を読み取れるだけなんだけどね」

『いえ、そっちはステアには出来ないので、素晴らしく有用な魔法だと思います。この調子でお願いします』

「了解。あ、あのテントならよさげな過去を持ってそう」


 スイは人にぶつからないように回避しつつ、お目当てのテントに近づいて触れた。

 その情報はわたしにも共有され、脳に収まった。


「ふむふむ、そういうね。クロ、メモ持ってる?」

『鞄を開いて左から二番目に』

「あったあった。几帳面だなあ。ボクらはステアと違って完全記憶なんてないからね、メモしとかなきゃ」


 スイはさらさら、と目の前で視えた情景を書き留めていった。

 時間魔法、相変わらず便利な魔法だ。


『スイ、未来の情報は視えないんですか?それが分かると今後何かとやりやすいんですが』

「ああ、それは無理。未来っていうのはほんのちょっとのきっかけで分岐していくから、そのすべてを確認するなんて不可能だ。だからボクが視える限界は、分岐が少なくてかつ起こる事象が99%確定してる、二秒くらい先までだよ」

『それは残念』


 それはそうか。

 もしスイに遥か先の未来が見えるなら、千年前の戦争でルーチェにハルが負ける道理がない。


「あらかた情報は集め終えたかな。クッソどうでもいい情報も結構あるけど……一番はこれだね、革命軍総本部の位置と指揮官の動向。それに、政府軍の新兵器の情報もか」

『本当にどうでもいい情報が滅茶苦茶多いですね……。何とかならないんですか?』

「無理言わないでよ、言ったでしょ?ボクは過去の残留思念を読み取ってるだけだから、ステアみたいにピンポイントで情報を見つけるなんて出来ないんだって」


 前言撤回、闇魔法と同じで、ところどころ不便な魔法だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 肉体共有強過ぎ、知的好奇心そそる状態 [一言] まあ、クッソどうでもいい情報絶対多いですもんね 一般人なら精神ダメージ結構ありそう
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