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第21話 貧民街

「だ、駄目に決まっているでしょう!?ご自分の立場を考えてください!ノア様を貧民街なんて危険なところに連れて行ったなんて知れたら、わたし切腹ものなんですけど!」

「クロ、良いこと教えてあげるわ。世の中っていうのはね、表に出なければやってないことになるのよ」

「こっそり行けるとお思いで!?自分のその髪色見てください、世界中でここまで目立つ人もそうそういないですよ!」


 この人は一体何を言ってるんだ。

 我が主ながら、本当に頭がぶっ飛んでて困る。


「フードでも被っていけば大丈夫よ。クロはこそこそさせても後々面倒だから着けさせてないけど、あれなら目立たないわ」

「だ、だからって」

「とにかく主人命令よ。明日は私も連れて行きなさい」

「うぐっ」

「いいわね?」

「………はぁ。わかりましたよ」


 だけど一番困るのは、ノア様に命令されるとなんだかんだ逆らえない、わたし自身だと思う。





 ***





 翌日、この街に着いてから六日目の午後。

 わたしとノア様はフードを被り、貧民街の入り口辺りまで来ていた。


「いいですかノア様、これは毎度毎度言っていることですが、わたしから離れないでください。今回は絶対に」

「わかってるわよ、さすがに今回は大人しくするわ。危ないし」

「出来れば毎回そうしてほしいと切に願うばかりですが、ありがとうございます。ここは今までノア様と訪れた場所の中でもダントツで危険な無法地帯です。極力お守りしますが、どうかお気を付けて」

「ええ、了解よ」

「そして、決して!勝手な行動取らないように。いいですね?」

「何回言うのかしらこの子は、わかったと言って」

「い い で す ね ?」

「………は、はい」


 ノア様が勝手にうろつかないように念には念を押しまくって注意し、わたしたちは中へと足を踏み入れた。

 一歩足を踏み入れた瞬間、ズンと体になにかがのしかかったような感覚がわたしを襲う。


「四方八方の人間が負の感情を垂れ流しているから、空気が重いわねー」

「仕方ありません、ここの領主は『臭い物に蓋』が座右の銘みたいな、外見だけ取り繕ってこっちにはお金を回さない人ですから」

「昨日まで会ってたけど、臭いものはどっちだってくらいの肥え太った汗だくの豚だったわ。あんなのが領主やれるなんてこの国大丈夫かしら」

「失礼ですよ、ノア様。豚はああ見えてとても綺麗好きで、頭のいい動物なんです。体脂肪率だって平均的な人間の男性とあまり変わらないんですよ」

「もしかして失礼って(そっち)に対して?」


 そのまま歩いていると、次第に少し広いところが見えるようになってきた。

 屋根のないところで藁を敷いて寝っ転がっている人もいれば、なにやらお店みたいのを開いている人もいる。

 ただ共通しているのは、全員がみずぼらしい身なりで、死んだ魚のような目をしているところだった。


「百メートル後ろがあんなに活気であふれてるのに、ここは酷いわね。私が世界征服したら、こんなところは撤去してやるわ」

「それはいいですね」

「行き場をなくした彼らのために寮舎を建てて、三食付きの好条件で誘い、あとは最低賃金でこき使うようにすれば、少ない予算で大きな労働力が得られるわね」

「いやいきなり外道になったんですが」


 しばらく歩き回り、全方向を確認しつつ探したけど、珍しい髪色は見つからない。

 貧民街も広いからまだあきらめるのには早いけど、さすがに疲れてきた。


「いないわねー」

「いないですね。いっそ周りの人に聞いてみますか?」

「それはいいけど、情報料としてお金要求されるとか嫌よ私」

「ありそうなのでやめておきましょう」


 尚も歩いて探す。情報ゼロで探し回るのはさすがにこたえるけど、何もしないよりはマシだ。

 そうして捜索をすること二時間。珍しい髪色どころか、その影も見えない。


「つ、疲れた………」

「クロ、休憩しましょう。水筒にお茶入れていたわよね?」

「はい、どうぞ」


 ノア様に水筒を渡し、わたしも自分の用のものを開ける。


「ここにはいないのかしらね。まあ無理もないか、本当に極小の確率なんだもの」

「三年探して、一人も見つかりませんでしたからね。ここもハズレなんでしょうか」


 お茶を飲み終えて二人とも同時に立ち上がり再び捜索に踏み出そうとする。


「さ、行きましょう」

「はーい………あら?」


 すると、前から一人の少女が歩いてきた。

 わたしたちよりもさらに年下くらいの青い髪色をした女の子で、こっちに走ってくる。


「そうだわ。子供に聞いてみれば何かわかるかもしれないわね」

「あ、名案ですね。ちょっとすみません、お尋ねしたいことが」


 しかし彼女はわたしの呼びかけには答えず、ドンッとノア様に軽くぶつかって、「すみません」と一言いい残しつつも足を止めずに行ってしまう。


「聞こえなかったんでしょうか。どうしますかノア様、また」

「《光の鞭(フォトン・ウィップ)》!」


 その瞬間、何を思ったのかノア様が光魔法を発動し、走っていく少女に鞭で足を引っかけて転ばせ、さらには拘束した。


「ちょっと!?何をしているんですかノア様、いくら聞きたいことがあるからってやりすぎです!」

「違うわよ、わたしだって無視されたくらいでこんなことしないわ」

「え?」


 ノア様は鞭をほどこうともがく少女に近づき、その懐を探った。


「スリだったんですか」

「私から物を取ろうなんていい度胸してるわね。さてどうしてくれようかしら」

「うう………!」


 少女はじたばたとやっていたけど、やがて諦めたように動くのをやめた。


「み、見逃してください!お願いします、あたしが帰らないとみんなのごはんがっ!」

「あら、謝ることもせずに懇願とはねぇ」

「悪いことをしたらまずごめんなさい、常識ですよ」


 少女は顔を輝かせた。

 ごめんなさいと言えば許してくれると思ったようだ。


「ご、ごめんなさい!いっぱいお金持ってたから、つい!」

「謝って済むならこの世に死刑という言葉は存在しないわ。この私のお金に手を出そうとしてその一言で済まされるとでも思っているのかしら?」

「ひ、ひいいい!」

「ノア様、どっちが被害者かわからなくなるのでやめてあげてください。この子だって事情があったのでしょう」


 そう言ってノア様をなだめるわたしを、少女は神を見るような目で見つめてきた。

 ノア様はこちらを見てよくやったとでも言いたげな表情をしている。

 飴と鞭というやつだ。最初にノア様が脅して、わたしがなだめれば、少女はわたしのことを信用する。子供ならなおさら。


「あなた、ここに住んでいるんですか?」

「は、はい」

「ではこの辺りで、普通の人とは違う珍しい色の髪をした人を見たことはありませんか?」


 ダメ元で聞いてみる。

 まあ、無いとは思うけど。


「あるよ」

「まあそうですよね、ありますよね………ある!?」

「ちょっと、その話詳しく聞かせなさい!」

「ひっ!ああああの、ちょっと前に、水色の女の子があっちの方にいっぱいのお友達と歩いていくの見ました!」


 なんと、大当たり!


「クロ、行くわよ!」

「はい!」

「ああ、あなたその財布は情報料としてあげるわ!」

「え?ええっ!?」


 スリの少女に別れを告げ、わたしたちは少女が指をさした方向に走った。

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