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第240話 アルスシール入国

 砂埃が舞う荒野で、わたしたち三人―――スイを入れれば四人は立ち止っていた。

 全員に若干の疲労の色が見えているが、数時間歩いてこの程度なのは各々が違った方法で疲労を軽減しているからだろう。


「……到着。やっと見えてきた」

「どんだけ遠いんですの。ドーピングが無ければ足が棒になっていたところですわ」

「無理ないよ、紛争地域だもの。それも何百年って続いていれば、街や村だって距離を離すさ」


 わたしたちの目の前には、何の国境的な物も見られないが、唯一二つの看板が並んでいた。

 左にある看板には『この先、アルスシール。来る者拒まず去る者おらず』と書いてあり。

 右にある看板には『コノ先、世界ノ常識通用セズ』と書いてある。

 そう、わたしたちは既に、アルスシールの目の前まで来ていた。


「なんというか、こんなに露骨にヤバそうな雰囲気出してくる場所あるんだね。それも国ぐるみで。千年前ですらこんな国なかったよ」

『というかそろそろ代わりたいので、さっさと体の時間を戻してください』

『はいはい、せっかちだなあ』


 暫くスイに体を任せて精神を休めていたわたしは再び入れ替わり、首と腰を鳴らした。


「じゃ、さっさと行きますよ」

「流石というかなんといいますか、まったく尻込みしませんわねクロさん」

「どうせ入るのに何故必要以上に慄く必要があるんですか。それにオトハ、早くしないとノア様と過ごす時間がこうしている間にも一秒一秒」

「何していますの二人共!さっさとこんな国ぶっ壊してお嬢様とキッスですわ!」

「感心、驚異的な手の平返しの速さ」

「いつものことです。わたしたちも行きましょう、リーフ」

「承知」


 オトハが数秒早くアルスシールに入国。

 わたしたちも遅れて足を踏み入れるが、当然ながら入っただけでは何も起こらない。

 それどころか、入国したという実感すらあまり湧かないな。


「質問、ここからどうする」

「そうですね……リーフ、周辺の音を風で拾うことってできますか?」

「回答、そういう広範囲探知はあまり得意ではない。せいぜい半径5キロ」


 それでも5キロは探知できるのか。


「今いるのは端なので自分を中心に探知する必要はありませんが、それでも5キロが限界ですか」

「否定、失念していた。それなら頑張れば10キロと少し程度なら」

「じゃあそれで。オトハ、音立てないでください」


 リーフは静かに眼を閉じ、数秒の間はためく服の裾の音以外はしなくなった。

 そしてすっと眼を開き。


「発見、11時の方向7.8キロ地点に反応あり。おそらく10人程度の呼吸音」

「助かりました。行きましょう」

「了解ですわ。……というかマジ暑いですわねこの国。リーフ、風くれませんこと?」

「却下、継続的に扇風するとさすがに魔力を消耗する。万全を期しておきたい」

「オトハ、あなたが水出せばいいじゃないですか」

「水って……私が生み出せるのは有害な気体・液体だけですわよ?水は出せませんわ」

「致死量が高いだけで水だって有害ですよ。前の世界に水中毒とかあるって聞いたことあります」

「うーん、ピンときませんわね。認識を改めるために少し時間が必要そうです」

「じゃあわたしたち少し離れてるので、あなただけなんでもいいから液体被ってくればいいでしょう。毒無効なんですから」

「なるほど」

「ただしすぐに効果が消えて、かつ蒸気を吸引しただけで害があるやつは勘弁してくださいよ」


 オトハを少し離した途端、オトハの上から無色の液体が降り注いだ。

 なにやらさっぱりしたような顔をしているが、おそらく常人が被ったらただではすまないんだろう。

 オトハがもし水を生み出せるようになったら水魔術師みたいなことも……と一瞬思ったが、あの子の毒劇魔法は「生み出す」だけで操ることは出来ないからそれは無理か。


「ふう!」

「近づいて大丈夫でしょうね」

「問題ありません、キンキンに冷えたただのアルコールですわ。滅菌消毒も出来て一石二鳥ですわね!」

「げほっ、げほっ!ちょ、確かに他に比べれば害は少ないかもしれませんが吸ったらやばいじゃないですか!いくら自分が酔わないからって!」

「これは失礼。すぐに散るので問題ないかと」


 まあ、硫酸や塩酸じゃなかっただけマシか。

 生まれつき毒やウイルスの類いが一切効かない体質のオトハは、自分が起こす現象を自分で体感できないという宿命を持っている、この程度は仕方がないだろう。


「リーフ、少しでも時間を短縮しましょう。全員目的地に飛ばしてください」

「了解」


 オトハのアルコールもある程度気化して匂いを感じなくなったところで、リーフにわたしたちを一気に目標地点まで運んでもらった。


「よっと。……これは」


 そこにあったのは、決して見ていて気持ち良いものではなかった。

 死体と血によって地面が全く見えない、地獄のような光景。

 推定約千人程度の人間が息絶え、虫が集りつつあった。

 血の塊具合や腐敗度からして、全員死後約二時間といったところか。


「うっ……本当にこの中に生き残りがいるんですの?」

「いますね、生体感知に弱弱しいですが反応しています。八人ほどでしょうか」

「推定、ウチが調べた時より少ないということは、こうしている間にも死んでいる。急ぐべき」

「ですね。すみませんリーフ、もうひと頑張りしてください。場所を指定しますので、そこに上昇気流を」


 リーフに指示を出して、辛うじて息があった八人をわたしたちのそばまでもってきた。

 全員血がべっとり、体も傷だらけだったが、なんとかまだ大丈夫そうだ。


『スイ』

『はいよー』


 スイに切り替わり、時間魔法で全員の体の状態を戻す。

 しかし気絶しているようで、全員目を瞑ったままだった。


「ところで、この人たち助けてどうするんですの?案内させるなら一人でも良いのでは?」

「どうするって、決まってるじゃないですか。わたしたちが助けたことに恩を感じて情報を話してくれるなら良し。もし話さないようならオトハが拷問して吐かせるだけです。人数を確保したのはあなたが壊した時の替えが効くようにです」

「ちょっと、人を破壊神みたいに言わないでくださいませ。まあ了解しましたわ、正直気は進みませんがやることはやります」

「気が進まないって、まさかとは思いますが拷問に抵抗でも?」

「んなわけないでしょう、お嬢様と仲間以外の苦痛なんてその辺のホコリよりどうでもいいですわ。単純に私が毒盛るとうるっさいから苦手なんですの」

「ああ、そういう。そればかりは我慢してください、なるべく多くの情報を引き出すためにも」

「確認、あそこにおあつらえ向きの掘っ立て小屋がある。あの中でやっては?」

「タイミング良いですね。オトハ、活きの良さそうなの一人連れてってちゃちゃっとお願いします。ああ、情報話し終えたらしっかり殺してくださいね」

「了解ですわー」


 そう言ってオトハは、女兵士の一人の襟を掴んで小屋の方に気だるそうに向かっていった。

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[良い点] 三人とも有能すぎ
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