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第239話 無敵のチーム(?)

「十分に用心するにしても、内情が分からないとどうにもなりませんからね。他に分かっていることがあれば教えていただきたいです」

「うむ」


 フロムは一つ頷き、近くにあった世界地図を持ってきた。

 ディオティリオ帝国が赤く塗られ、隣の大陸の半分が青く塗られており、そこにはアルスシールと書いてある。


「このように、アルスシールは領土だけならば帝国を上回る広さを誇っている。だが現在その半分近くは革命軍によって占拠されている状態で、政府も攻めあぐねているらしい」

「ほう」

「アルスシール政府は過去何度も、革命軍によって致命的な打撃を受けている。だが、それでも政府軍本拠地を攻略出来た記録は一度もない。だから革命軍は政府を倒すことが出来ず、体勢を立て直した政府軍に反撃を受けるというのが、二百年繰り返されてきた歴史だ」

「学習能力がないのか、と言いたいところですが、そこを攻めないと意味がないですからね。無謀覚悟の作戦で全戦力投入して返り討ちに会い、そこに更に追い打ち、という流れは分かっていても止められないでしょう」

「そういうことだ。政府軍本拠地の守りは鉄壁も鉄壁、故に内乱の渦にありながら政府が死なない『不動の国家』と呼ばれているのだよ」

「なるほど」


 面倒。

 わたしの頭にその二文字が浮かんだ。

 アルスシールが帝国のように、物量と圧倒的強者によって成り立っているなら何倍もマシだった。

 わたしの魔法も成長したし、しかもスイとリーフがいる。オトハは実力的には一歩劣るが、冷静な判断力と躊躇の無さ、なにより広範囲の殲滅力は仲間内で一位だ、戦場という密集地で役に立たないわけがない。

 だが、向こうが発達した「魔法」ではなく「技術」を使ってくるとなると話が大きく変わってくる。

 どれだけ鍛えようと、どれだけ魔法を究めようと、銃弾一発で人は死ぬんだから。

 わたしの知識が通用しない未知の技術でも使われたら少々分が悪い。


「どう思います?」

「うーん、戦時中の国ならば正直、政府か革命のどちらかに味方して片方を黙らせて、それを恩に着せて……みたいな手法を取れると思っていましたが、ちょっとキツそうですわね。リスクが大きいですわ」

「同意。未知を警戒しないのは愚か者のすること。戦争に積極的に加担するという作戦は考えない方がいい」

『うーん、でもオトハのどっちかに味方するっていうのはいい考えだと思うよ?ボクらの魔法は連中にとっても間違いなく有益だし、自分たちを売り込んで片側を味方とは呼べないまでも敵ではなくするっていうのは、正直必須じゃないかな』

「ふむ」


 色々と作戦自体は思いつくが、どれも不完全だ。

 なにより厄介なのが、アルスシールを手に入れるためには二〇〇年続いた内乱を()()()()()()()()()()()()ということだ。

 これは絶対だ、ノア様に内乱で荒れ果てている国を献上するわけにはいかない。

 そう考えると方法は二つ。どちらかを勝たせるか、どちらも潰すか。

 しかしどちらも潰すとなると労力は途方もないし、何よりどちらも敵に回すリスクがある。絶対を取るなら前者、片側に加担する方がいい。


「仮にどちらかに加担するとしたら―――」

「「『革命軍』」」

「ですよね」


 わたしたちの目的はノア様にアルスシールを支配していただくことなんだから、政府に勝たれて旧体制をそのまま敷かれても何のメリットもない。

 だったら革命軍に倒させた方がいい。


「わたしたちは内乱自体には極力参加しないようにしないといけません。一人でも欠ければノア様に申し訳が立ちませんから。しかし、大規模な戦いには加担せずとも色々と工作をすることは出来るはずです。それとなく誘導して革命軍を勝たせるのが、わたしたちの最終目的といったところですね」

「裏工作というやつですわね、得意分野ですわ」

「消沈、ウチは正直苦手」

「あなたの場合、最強なので普通は下手な小細工するよりも火力でゴリ押しする方が効率いいですからね。細かい指示はわたしが出すのでお願いします」

「承諾」


 ……あれ?

 なんだろう、この違和感。


「アルスシールまでの道のりや比較的安全なルートはワシが手配しよう。伝手を使えば何とかなるはずだ」

「あ、はい。助かります」

「潜入した後、何人か捕まえて拷問すれば情報を引き出せるはずですわね。私にお任せくださいませ」

「ええ、頼りにしてますよ」


 ……。

 おかしい、話がスムーズに進みすぎている。

 いつもならなんかこう、ここで誰かが妙なことを口走って話が脱線したりして、わたしがそれを軌道修正して話を続ける不要な努力を強いられるのが基本なのに。


「疑問、クロなにかあった?悩み事?」

「ああいえ、大丈夫です。続けてください」

『んー?なにこの困惑の感情』

『気にしないでください』


 リーフとスイにそれぞれ声を掛けたあとも、話はとんとん拍子に進んでいく。

 何故話がしっかりと普通に進んでいるのか。理由を考察する所から始めてみようか。


 まずはそう、一番の違いはノア様、ステア、オウラン、ルシアスがいないことだろう。オウランはともかく、他の三人はたまに―――ノア様は日常的に―――突拍子もないことを言い出す。

 そしてそういった主にノア様の言葉にオトハが同調し、それをオウランが慌てて諫め、わたしがうるさくなった場を元に戻す。これがわたしたちの会議の四割を占める日常だ。

 だから今回もこうなると思っていた。何故ならオトハがいるのだから。

 スイもわたしと気は合わないし、なんだかんだでいつもと大して変わらない状況になるのだろうと思っていた。


 ……のだが。


「潜入ルートはこのどれかだな」

「この道はないですわね、ルシアスの空間把握がない状態で地雷地帯は危険すぎますわ」

「賛同。ではこちらの道は?」

「うーん、こっちの方がよくないですの?そっちは人の往来が少なすぎますわ。アルスシールは戦争の影響でほぼ荒野なのですから、人がいる場所じゃないと最低限の生活すら確保できず、任務遂行前に力尽きますわよ」


 な……何故だ。

 オトハが、頼もしく見える。

 幻覚か?いや、どうやら違うようだ。

 なら、まさか―――いや有り得ない。そんなことがあっていいはずがない。


「クロさん、あなたの御意見も……クロさん?」


 まさか、オトハは。

 ノア様がいない方がそのポテンシャルを発揮できる、とでも?

 そんな、そんな残酷な話があっていいのか。

 いくら変態的で煩悩の塊なこの子といえど、その抱く感情は純粋な愛。

 その愛を向けている御方のために頑張っているというのに、その御方が近くにいないとポンコツが鳴りを潜めてド優秀になるなんて。


「クロ?」


 そしてリーフも、戦闘狂とド鈍感天然さえ除けば極めて優秀。しかもしっかりとわたしの話に耳を傾けてくれるので非常にやりやすい。

 スイも、日常的な意見は決定的なほどに合わずに脳内で喧嘩が絶えないが、戦略的な思考などはノア様の千年前の副官だけあって優れている。

 ただオトハと同じく、ノア様の信奉者みたいな面があるので扱いづらいだけで、普通に意見を求める分には類い稀な逸材だ。


 ノア様が絡まなければ、適切な状況判断力と冷静さを兼ね備える才女、オトハ。

 ノア様と戦いたがる癖さえなければ、規格外の物理的強さと素直さで期待以上の成果を出してくれる天才、リーフ。

 ノア様全肯定さえなければ、千年培った知識や軍略、そして時間魔法という超希少魔法を自在に操れる逸材のスイ。


 ……もしかして。

 ノア様に対する各々のデカすぎる感情さえなければ―――このチームって無敵なのではないだろうか。


「リーフ、さっきからクロさんが気づいてはいけないことに気付いたみたいな顔してるんですが」

「困惑、何を考えているのかさっぱり分からない」

『どうしちゃったのさクロ、ほらぼーっとしてないでさっさと頭ぶん回そうよ、ボクも協力するからさ』


 喜んでいいのか悲しんだらいいのか分からない、未知すぎる感情に振り回されることになってしまった。

『ノアが絡むと強くなる人』

クロ、ステア、オウラン


『ノアが絡むと何かしらのポンコツになる人』

オトハ、リーフ、スイ


『特に何も変わらない人』

ルシアス


果たしてこれは良いことなのだろうか。




※次回一回分更新休みます。最近多くてすみません。次回更新は4月21日予定です。

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[一言] 安〇先生「気にしたらそこで負け(試合終了)ですよ?」
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