第234話 神の如き存在
昨日投稿すると言っておきながら諸事情で更新できませんでした。
ユフィアニは悪くないんです、全ては二人に気を取られて書くの忘れてた作者の責任です。
ノア様もいつもの不敵な態度を残しつつも、ほんの僅かにお顔を曇らせている。
『お嬢、殺す?』
気を利かせてテレパシーを使ったステアが開口一番一番効率的な提案をしたが。
『……最後の手段ねそれは。知っているのがコイツだけとは限らないし、この国を手に入れた後のことを考えると、トップを殺すのはあまり良い策とは言えないわ』
『じゃあ、操れば、いい』
『昔ならともかく、今のあなたは私たちの最強の切り札よ。こいつを操る程度のことに魔法の容量を割かせるわけにいかないわ』
ノア様の言葉に全員が同意し、ステアは素直に引き下がった。
「……で?それを聞いてあなたはどうするつもり?」
「脅迫、それを知っている人間を生かしておくとでも?」
無論殺すつもりは二人ともないが、こう言っておかないと主導権を握られると思ったんだろう。ノア様もリーフも強気な態度を崩さず、武器に魔法を纏わせた。
しかし議長は、思った以上に冷静だった。
「君達には私は殺せんよ。帝国は王国に自治を認めず、国の名すら奪って飲み込んだ。しかしその直前に王国の王族を捕らえていたはずのノアマリー殿がこうして自由の身になっているということは、君の一派のみが帝国と密かに内通したとみるべきだ。侵略国家であるディオティリオ帝国と手を組んだ君が、帝国最大戦力であるリーフ殿と共にこの国に来たということは、君たちの狙いはこの国そのもの―――違うかね?」
「………」
「だが、戦争によってこの国を手に入れたいのならばとっくにそうしているだろう。世界有数の武闘派国家と光魔術師、考え得る限り最悪の組み合わせだ。全神国に勝ち目などない。しかしそれをしないのは、全神国の支配はあくまで裏側から行いたいからだろう?ならば全神国のすべてを知る私を殺すのは得策ではない。君達はそんな選択をするような愚か者ではあるまい」
この頭のおかしい国の事実上のトップとは思えない聡明さと冷静さで、議長はこちらの狙いを看破してきた。
正直舐めていた。ノア様の髪色やわたしたちに関するつがいの伝承、全神国の人間なら喜んで国を差し出すことすらしかねないと思っていた。
「……はぁ。そこまで理解してるなら、ここからは脅迫じゃなくて交渉ね。それほどのことを見破っておきながら面と向かって私たちにそれを話したってことは、条件次第では協力する意思があるととっていいのよね?」
「察しが良い、その通りだ。ほぼ間違いなく世界最強の国家となったディオティリオ帝国に逆らったところで、百害あって一利なし。ならば全神国、ひいては世界中の信者たちのために、条件付きで恭順の意思を見せておくべきだろう」
「条件を聞きましょうか」
「簡単な話だ。全神国の自治と信仰の自由を、現在の通りに認めてほしい。それから私を含む国民全員の安全保障、最後に大陸資源の提供。無論、こちらからも資源は提供する」
「前者二つは向こうの皇帝と相談して手を打つわ。だけど大陸資源に関しては承諾しかねるわね。全神国と帝国じゃ資源の価値が違いすぎるわ」
「しかし、そちらの大陸にない資源があることも事実だ」
「釣り合いが取れないって言ってるの」
「だが―――」
その後一時間、ノア様と議長は交渉し合った。
その結果、大陸資源に関しては全神国側の質によってこちらが提供する量や物を決めるという取り決めで議長が納得し。
「じゃあ、詳しい内容は追って連絡するわ。帝国にも条件をのむように交渉するけど、向こうが拒否する場合もあるから。その時は私は庇わないわよ」
「分かっている。全神国存続の希望が見えただけでもありがたいことだ」
取引は成立。ノア様は息を吐き、議長に背を向けた。
「帰るわよ」
「かしこまりました」
ノア様はその後一言も発することなく、議場の外に出て、その足は滞在しているホテルへと向かう。
途中何度か国民の襲撃的なものを受けたが、すべて誰かがいなして特に危なげもなく戻ってきた。
「いやー、一時はどうなるかと思ったが、上手くいったな」
「うーん……上手くいきすぎて逆になんか不安って僕は思う」
そのオウランの言葉を肯定するように、ノア様はソファに座ってため息をつき、難しい顔をされている。
「オウランに同意ですね。いくら信仰を第一に考えているとはいえ、国をああも簡単に差し出しますか?いえ、国民第一の考え方と言えばそれまでですが」
「そうね。上手くいきすぎてる……もっと言えば、私たちに都合が良すぎるわ。このイカれた国のトップが唯一話が通じる男で、私たちの今の状況を知りながら侵略されることを肯定し、あの程度の要求でこちらに従う意思を見せるですって?向こうには私たちの情報を他国に売るっていう切り札があるんだから、もっと吹っ掛けてくるものだと思ってたわ」
「考えられる可能性としては……国ぐるみのスパイ活動、とかでしょうか」
「ならそれこそ切り札切って吹っ掛けるわよ、利害による対等な関係ほど信頼に足るものはないんだから。なのに向こうにはほとんどメリットがない、被支配者になることを最初から受け入れているような条件を自ら提示してきてるのが不気味なんじゃない」
「こんな不気味な国に、有力な情報を共有するわけはありませんし、これではスパイとして機能しませんわよね。意図が読めませんわ」
「単純に本当に帝国と私たちを敵に回すよりは最初から従うべきだと考えたか、それとも何か別の意図が……?ステア、あの男の思考は読めた?」
「ごめんなさい、無理。精神魔法は、顔、分からないと、使えない」
「そうよね。あーもう、天幕のせいで誰が議長かが分からないから、ステアに探らせようもないし……!」
「意見、こうなっては仕方がない。とりあえず協定は結んだのだし、一旦この懸念はフロム様に報告して帝国に回し、ウチたちは別の国の支配に取り掛かるべきでは?」
「……それしかない、かしらね。気は進まないけど、ステアを万全の状態にするためにこの国は早く出たいし」
ノア様は額に手を当て、背もたれに思い切り背中を沈めて息を吐いた。
「本当に……何を考えてるのかしら、あの男」
***
全神国の地下、暗い一本道を一人の男が歩いていた。
男―――先程まで『議長』と名乗っていた男は、興奮の面持ちで足早に道を進み、やがて最奥の小さな部屋に辿り着く。
そこにあったのは、一枚の鏡。だが不思議なことに、そこには議長の姿は映らない。
それもそのはず、その鏡は姿を映すためのものではなく。
二枚一組の、太古の昔に作られた通信装置―――『合わせ鏡』と呼ばれる魔道具だった。
「……わが神よ。万事あなた様のお言いつけ通りに致しました。どうか、どうかその御姿を!」
『議長の一族はどこの宗教派閥にも属さない』、表向きでそうなっているはずの議長は、しかしその場においては敬虔な信徒以外の何者でもない姿を見せていた。
そして。
「おお……あ、ああああ……!」
合わせ鏡に映った何者かの姿に、議長は感涙する。
「嗚呼、わが神よ……!ええ、お変わりない美しさでございます!……はい、あなた様の御命令通り、ノアマリー・ティアライトの支配下にこの国を置きました!はい、ある程度疑われる形で、というご要望にも勿論!これによって奴らは全神国を警戒し、他の国と手を組ませないようにより素早くこの世界を飲み込もうとするはずでございます!」
先程のノアとの対談―――その場で何故議長は、ノアの行動を把握していたのか?
帝国と王国の宗教と繋がっているから、ではない。間者を放ったわけでもない。
この鏡の奥にいる、彼が神と崇め奉る存在が、全てを読んでいたからだ。
「あなた様の願いが……ルクシアなど及びもつかない途方の果ての悲願が成就なされるのも、もはや時間の問題でしょう。……ええ、あの御方は、とてもお元気なご様子であられました」
議長が得た僅かな情報から、ノアとルクシアの衝突と二人の目的、そのすべてを読み切った、神の如き存在。
その相手に議長は―――長い水色の髪をした狂信者は。
「承知しております!すべては―――ナユタ様の思し召しのままに!」
深く、深く、頭を下げた。
皆さんが百合に目覚めたきっかけはなんですか?
作者は何故か某タイトル詐欺なゾンビ系アニメで、スコップ片手にしたツインテちゃんとデパートに立てこもってた後輩ちゃんのカップリングというドマイナーカプで百合というものの感覚を知り、某ドロップでアウトなあの作品の駄天使ちゃんと天使みたいな悪魔ちゃんのカプで決定的に目覚めました。
皆さんのエピソードもあったら教えてください。