第226話 双子の恋愛相談会
いくつかの決めごとをして解散したあと、わたしは考えないようにしていれば時間が経つにつれて晴れていくモヤに安心しつつ、暫く魔法の練習をして過ごした。
ここ数日暇をしていたおかげで、随分と慣らしが進んできた。
既にルクシアと戦った時よりもはるかに高い出力で闇魔法を行使できるようになっている。
ここに関してはスイに感謝しなければならない。
「さて、そろそろ夕飯の時間ですね」
持ってきた魔導書に栞を挟み、立ち上がろうとすると。
「――――。―――で」
「―――なんだ」
ふと、背中の方から声が聞こえて来た。
さっきまでは集中していた気付かなかったが、この隣の部屋はオウランとルシアスの部屋のはず。
しかしオウランと共に聞こえてくるのは、ルシアスではなくオトハの声だった。
(まあ、双子なら二人きりで話したいことくらいあるか)
そう思ってわたしは構わず立ち上がろうとした。
………。
それはほんの出来心だった。
ちょっと魔がさしたというか、双子が二人きりの時どんな話をしているのかちょっと気になってしまった。
わたしはこっそり壁に耳を当て、二人の会話を聞いてみることにした。
「で、私を呼んだってことは何か話があるんですの?」
「ああ、うん。さっき相談してみろって言われたし」
「大方リーフに惚れたからどうやったら結ばれるかのアドバイスをしてほしいとか、そんな感じでしょう」
「は!?なんでわかった!?」
「お姉ちゃんを何だと思ってますの。鈍いあなたと違ってそれくらいお見通しですわ」
思わずわたしは感心してしまった。
普段は淫蕩と被虐の権化みたいなオトハだが、やはり鋭い所は鋭いと。
しかしその感心はそれはそれとして、一つ、オウランにツッコミを入れたい部分がある。
『いや、なんでオトハに相談?』
『さあ』
どうやらスイも同じ疑問を抱いていたらしい。
「ふむ、お嬢様一筋の私としてはリーフに対して微塵の魅力も感じませんが、一体どういった部分を好いたんですの?」
「えっと、その……一回だけ見せてくれたすっごい笑顔が可愛くて……それで、他の所も少しずつ、みたいな」
「なるほど。ま、弟の恋を後押ししてあげるのも姉の務めというもの。ここは私が一肌脱ぐとしましょう」
あの生粋の変態に意見を求めるとはいったいどういう神経をしているのか。
迷いすぎて頭がおかしくなったかとオウランを問い詰めようかと一瞬迷うが。
「まずはそうですわね、リーフは基本的に鈍感です。超が付くほど。おそらくオウランの好意など微塵も感じ取っていないでしょう」
「うん、それはなんとなくわかる」
「仮にここまでの私たちの会話を聞かれていようと、もしかしたらリーフは恋心を抱かれているなんて思わないかもしれません」
「いや、流石にそれはないんじゃないか……?」
「それくらい鈍感な女にも気持ちを伝える覚悟を持ちなさい、ということですわ。いつまでも奥手な態度では永遠に結ばれませんわよ」
……おや?
案外マトモな台詞が飛び出して一瞬戸惑ったが、この二人のノア様に出会うまでのいきさつを考えると少し納得できた。
オトハとオウランは元々、互い以外を信用しない人間不信だったはず。
だからオトハの暴走前までは二人の世界があったし、今でも時々その節を見せる時がある。
なるほど、そう考えるとオウランがオトハに相談したのもうなずける。なんだかんだ言って、二人は互いが最も信頼できる相棒であるということは変わらないのだろう。
双子の絆を感じたような気がして少し笑みがこぼれるのを感じ、ここからは二人だけにしておこうと思い立ち上がり―――。
「いいですか、ああいう相手に対して『待ち』は最大の悪手ですわ。まずは少しずつであろうとしっかり、自分の気持ちを直球で表現する必要があるのです」
「そ、そんな恥ずかしいことをしなきゃいけないのか?」
「出来るはずですわオウラン。あなたには私と同じ血が流れているのだから」
……ん?
「……そりゃつまり、お前のノアマリー様に対する変態行為を真似しろって言ってんのか?」
「変態行為とは失敬な。あれは愛情表現ですわ。あのように自分を抑えられないほど、お嬢様を心の底から愛しているのだという気持ちを行動で表しているんですのよ」
「それであんだけないがしろにされてたら世話ないだろ!」
「ないがしろ?本当にお嬢様がないがしろにされるのであれば、私に一言『やめろ』と言うはずですわ。それがないということは逆説的に、お嬢様は私の愛情表現を受け入れてくださっているということになるんですのよ!」
「え、まあそれは確かにそう、なのかもしれないな……?」
いや、あれは『諦め』って言うんだと思う。
前から思ってたが、オウランは言い合いが超弱いな、簡単に言葉に飲まれて言い負かされる。
「そしてお嬢様とリーフには共通点が多い、つまり似た者同士。……私が言いたいことが分かりますわね?」
「は……っ!?」
「気づいたようですわね」
はっ……!?じゃないわ。
「つまり私の行動を真似れば、リーフを落とせるということですわ」
「い、いやいやいや!流石に騙されないぞ、そんなわけが」
「はーっ、これだからモテない男は!いいですか、恋愛における鉄則は『聞く・言う・行動する』の三つです!『聞く』は今のように先駆者のアドバイスを素直に受け取る!『言う・行動する』はその体現ですわ!」
良いこと言ってるが、根本にあるのが自分自身の変態の肯定だ。
そろそろ止めないとと思ったが。
「先駆者って、お前ノアマリー様と付き合ってないじゃん」
「そういう理性的な話が出来るのはあなたの美点ではありますが、こと恋愛においてそれはハンデ以外の何物でもありませんわ。何故なら恋愛とは感情であり、本能でするものだからです」
「か、感情……本能……リーフもそんなことを……」
「そう、あなたはそろそろその理性の皮を脱ぎ捨て、一皮むけた男になるべきなのですわ。リーフに恋することでその準備は出来上がっているのです。あとは本能を解放するだけ。確かにそれによってリーフがどんな反応をするかは分からないでしょう、最悪嫌われてしまうかもしれない。が、しかぁし!行動しなければそのまま好感度プラスマイナスゼロの現状を打破することは絶対に出来ません、それは断言できますわ!ならば行動しなさい!今すぐにリーフに対して、自らの気持ちを本能のままに顕にしてくるのです!」
「お、おおお……!」
いや、なんか手遅れっぽい。
なんであの男はこう、壮大な話へとシフトチェンジした気になった話に乗せられやすいんだ。以前、ルシアスに女風呂を覗こうと誘われた時もこんな感じだった。
「ありがとう、オトハ!僕、やってみる!」
「その意気です、流石は私の弟ですわ」
なんとか止めようと部屋の外に出たが間に合わず、オウランは未だリーフのいるノア様の部屋に飛びこんでいった。
***
「……クロさん。僕は何を間違ったんだ」
「相談相手です」
その後、ドマイナスになった好感度はオウランの土下座とホットケーキミックスの献上によってステアがゼロまで戻し、オウランを唆した大馬鹿(あれで割と本気で言ってたらしい)はノア様に折檻された。
二月三月(なんなら四月以降も)予定が目白押しのため、三回分更新を見送らせていただきます。隙を見て書き溜めるのでそれ以降の三日に一度の更新ペースは落とさないように尽力します。
次回更新は三月三日予定です。