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第224話 金と黒の番

 取り敢えず、詳しく聞いてみるか。


「じゃあ、客観的にどういう国だったのかを教えてください」

「あの国は何かに対する信仰を是とする国という話を聞いていましたわよね。それは間違っていませんでした。より正確に言えばあの国は『強靭な信じる力にこそ、強き意思と力が宿る』という教えが根本にあるそうでして。だから国民一人一人に、大きな芯があるようでしたわ」

「つまり、狂信者の、巣窟」

「国が出来た当初はその信仰というのは神に対してのみでしたが、現在は信じるものはなんでもいいという風潮みたいです。ですから、信じているものは人によって全然違いましたわ。普通に神の人もいれば、物だったり人だったり概念だったり、中には奥様と旦那様が互いを信仰している、なんて例もありましたわね」

「つまり、勧誘をあしらうのが、難しい」

「ただ、不信が悪とされていますので、入国と同時に自らが信じるものを聞かれましたわ。私たちの前にいた商人はそれでしどろもどろになって叩きだされてました」

「分かりきった質問するけど、お前はなんて答えたんだ」

「勿論、お嬢様であると答えましたわ!お嬢様の魅力を約一時間、入国審査官の方々に聞かせて差し上げましたの!」

「気の毒だな……」

「……ううん。全員、泣いてた。何に感動してかは、一ミリも分からなかったけど」

「想像しただけで地獄絵図ね」

「そして、何故ステアがあんなに疲れ切っていたのかがなんとなくわかりましたね」


 要するに。

 ハイラント全神国の国民は、多少の差異はあれど全員がオトハみたいなタイプの連中ってことか。

 一人でも持て余すこの変態娘みたいなのが、街中をうろつく全員だったらと考えてみよう。

 なるほど、ステアがああなる気持ちも分かる。


「その信仰ってのは、好きって感情とは違うのか?」

「それは人によりけりですわね。例えばかなり多くの男性から信仰心を注がれている女性がいたのですが、彼女と付き合いたいというタイプと自分が付き合うなんて烏滸がましい、幸せでいてくれればそれでいいというタイプがいたりしましたわ」

「ちなみにその女、別の男のこと、信じてた」

「うっわ」


 ……うん、もう分かった。

 つまり全神国は。


「調査しただけで数え切れないくらいの信仰がありましたわ。複数の見目麗しい方々が五人くらいで集まって歌や踊りを披露するグループを信仰する団体なんかは万人近い信者がいるようでしたし、あとはそうですわね、特徴的な声を信仰して、お布施を払って耳元でささやいてもらうなんて団体も」


 日本なんて比にならないレベルの、オタク大国だ。


「なるほど、それでオトハは楽しんでこれたわけね。自分と波長の合う人間ばかりだったでしょう」

「はい、時に私がお嬢様のことを語り、時に語られ。皆さん聞き上手で話す甲斐がありましたわ」

「……で、ステアはそんな厄介オタクの温床みたいな場所が合わず、精神的に参っていたと」

「あの国、おかしい……。何を買っても、どこに行っても、『あなたは○○を信じますか?』とか、『君、○○に興味ない?』とか、絶対に聞かれる。しかも、すごいしつこいことも多くて、途中からほとんど、外の調査はオトハに任せてた……」

「疑問、君の魔法で自分を気にしなくさせればよかったのでは?」

「ステアの精神魔法は自分の精神状態で魔法の性能が上下するんですよ。この子基本的にコミュニケーションが得意な方ではありませんから、何度も話しかけられて疲れたせいで上手く魔法が使えなかったんでしょう」

「しかも、お嬢もクロも、いなかった。オトハだけなのは、辛い」

「どういう意味ですのそれ」


 情報収集のためだったからステアは必須と考えて送ってしまったが、悪いことをしてしまったか。

 明日は付きっきりで遊んであげるか。


「ん、待てよ?精神魔法が上手く機能しなかったってことは、情報もあんま集められなかったのか?」

「違う。表の情報はオトハに任せた、けど。裏は、頑張って、探った。昔の私じゃ無理だった」


 ステアはリュックから分厚めの紙束を取り出し、わたしに渡してくれた。

 軽く見ただけでも間違いなく秘匿されているであろう情報がまあぞろぞろと。


「これを本調子とは程遠い状態で八日で集めたんですか」

「ん」

「さすがは私のステアね。素晴らしい働きよ、ありがとう」

「んふー」


 ノア様がステアをよしよしして、ステアが自慢げな顔を浮かべた。


「あああっ!なんと羨まっ……お嬢様、私も頑張りましたわ!ステアがそっちを探ってくれている間、お嬢様があの国を支配するために使えそうな話や伝承をちゃんと調べてたんですの!結果、非常に有用なものを発見しましたわ!」

「あらそうなの?やるじゃない、流石ね」

「えっ!?あ、あの、そんなにストレートに褒められると凄くその、あの……」


 オトハは顔を真っ赤にしてあわあわとし始めた。

 なんでこういう普通の褒め方には耐性がないんだろうか。


「で、その伝承とやらは?」

「あっ……えっと、それは、その」

「?」

「そう、あくまで!これは作り話ですので!そこの部分を間違えないでくださいね、クロさん!」

「はあ」


 訳の分からないことを言った後、オトハは今までとは打って変わって凄まじく何かが気に入らなそうな顔を浮かべていたかと思うと、意を決したように話し出した。


「あの国は個々人が何かを信仰している国ですが、それとは別に多くの国民がなんとなく信じている伝承というのもいくつかありまして。その中の一つに、建国期から伝えられているものがあるんですのよ」

「建国期ってことは、あの女(ルクシア)が絡んでる可能性高いな」

「はい、まさにその通りで。その……あの、何度も言うんですけどこれはあくまであの女が自分の都合のいいように考えた伝承であって」

「いいから言いなさい」


「うう……えっと、『全ての神を是とする国、何百年にも渡る繁栄を保つ時、金と黒の(つがい)が現れる。其の二人はかの国のすべての信仰が生み出した神の使い也』……という話、ですわ」


 ………。

 はい?


「全ての神を是とする国、は全神国だよな。何百年にも渡る繁栄はまあ、クリアしてるとして」

「金と黒の番……番って、二人一組とかそういう意味だっけ」

「補足、主に鳥などの動物の夫婦にも使われる言葉」

「つまりは結婚してる二人ってこと、だよな?この場合。んで、そいつらが信仰心によって産まれた神の使いだ、と」

「……金と黒って、髪色のことだよな」


 シーン……と、辺りが静まり返った。


「……つまり、こういうことですか。ハイラント全神国建国のきっかけとなった光魔術師―――つまり当時のルクシアが、その話を伝えた。当時あの女はノア様が光魔術師として転生しようとしたことを知らなかったため、闇魔術師として転生すると踏んで、それで」

「金と黒の番、という言葉を残したというわけね。おそらく私を捕らえた後には自分と私を神の使いとして祀り上げさせ、立場を確立しようっていう画策だったんでしょう。言わば全神国は、あの女が私を手に入れた後に余生を過ごすための道具として作った国ってわけか」

「おっそろしい女……」


 しかもこの作戦が失敗しても、その頃には彼女は転生して別人になっているのでノーリスク。

 人道に反してるとかのレベルじゃないぶっ飛んだ話であることを除けば理にかなっているのが腹立つ。


「……死ぬほど不愉快だけど、利用しない手はないわ」

「まあ、そうだよな」


「じゃあクロ、結婚するわよ」

「え?あ、はい」


 わたしはノア様の命令に思わず反射的に頷いた。




 ……ん?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 百合結婚! 冗談はさておき、条件が揃ってる以上利用しない手はないですよね。 信奉者(変態)が非常にやかましくなりそうではありますが。
[一言] オトハとルクシアに致命傷!
[一言] 闇に染まった死神は、怠惰で強欲な聖女に忠誠を誓う 〜完〜
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