第222話 クロの尋問
すみません、予約投稿時間を二回も間違えました。
全ては転天に夢中になりすぎてた作者が悪いです。
オウランの鼻血を拭いて部屋に運び込み、ルシアスを看病係として置いた。
しばらくすれば目を覚ますだろうと思い、今度は今回の件のもう一人の関係者に話を聞くことにした。
「リーフ、何があったか簡潔に説明を」
「了承。奴隷売買の連中を皆殺しにした」
「……すみませんわたしの言葉が悪かったです。具体的に説明してください」
話を聞くと、要するに。
帝国からの誘拐とかマジ許せん
全員根絶やしにしてやろ
サポートでオウラン連れてけば便利じゃん
という思考だったらしい。
オウランに言った言葉もおおむねノア様とわたしの予想通りだったが、まあ随分と荒療治をしてくれたものだ。
結果的には良かったものの、彼が折れたりしたらどうするつもりだったんだろうか。どうせ彼女のことだ、「当然、ウチが穴を埋めればいい」とか言うんだろう。そういう問題じゃない。
頭の中のリーフにまでツッコミを入れつつ話を聞き終え、夜中になったらコッソリ街に出て何も問題がないかを確認するという仕事が増えたことを確信し、わたしはため息をついた。
「次からはちゃんとわたしかノア様に相談してから行ってください。報告・連絡・相談はしっかりとお願いします」
「成程。わかった」
その問題は後にするとして、オウランの方が火急だ。
なにせ彼はマトモで理性的という、わたしの胃に対するダメージ量が仲間の中でダントツ少ない逸材。
だがさっきの反応を見るに、随分とまあ今はリーフに御熱のようだ。なんでそんなことになったかは結局リーフの話を聞いてもミリも分からなかったが。
雰囲気及び言動から察するにリーフに対して恋愛感情を抱いているのは間違いなく、それが今後どういう影響を与えるかが未知数だ。ルシアスは「男は女に惚れて一皮剥ける」とか言ってたが、剥いて出てくるのがポンコツだったらたまったもんじゃない。
そして何より、彼の姉はアレだ。
二卵性とはいえ双子である彼が、恋愛感情によってオトハと似たような感じになってもおかしくはない。
まだノア様に惚れる前のオトハのマトモな感じを思い出して頭が痛くなってきた。
もしオウランがあんな感じで、ガチ変態のドМにでもなったらわたしは心労でありとあらゆるストレス性疾病を患う自信がある。
それを未然に防ぐためにも、まずはオウランがリーフのどこに惚れたのかを考えてみよう。
「……?質疑、人の顔をジロジロと見てるけど何か用?」
「いえ、お気になさらず」
顔は、文句なく美形の域だ。
色素の薄い瞳に小さな鼻と目は童顔な印象を抱かせつつも、言動や佇まいでどこか大人な印象を抱かせる。
次にSかMかだが、これは考えるまでもなく前者だ。ノア様やルクシア程のドSではないにしろ、人を踏んずけていても違和感がない感じはある。
年齢は十九歳、対してオウランは今年で十六歳。大学一年生と高校一年生と考えるとそこそこな年の差は否めない。
「なるほど、彼も男の子ということですね。ちょっとSっぽい年上の女性にそういった感情を抱く、これは致し方なしと言えるでしょう。問題はやはり彼に特殊性癖が芽生えていないかということですが……」
「???困惑、何の話?」
リーフは首を傾げている。どうやらオウランの気持ちは、幸か不幸かまったく理解されていないようだ。
鈍感属性というやつか。
「リーフ、確認ですが―――今までどの程度の告白を受けてきましたか?」
「?」
「私情に近い話なので、言いたくなければ結構です。ですがちょっと諸事情で把握しておきたくて」
「混乱、何故それを聞くのか皆目見当もつかないけど。まあ、何度かはある」
「ほう、ちなみにどういった告白を?」
「『なんでも喋ります!だからもう、その魔法だけはぁ!!』と、体の内側を搔きまわした程度で母国の内情を」
「あ、もういいです。非常に参考になりました」
鈍感娘かと思ったら超絶鈍感娘だった。
つーかそんな恐ろし気な拷問をやってたのか、つくづく暫定味方で良かった。
「じゃ、わたしはオウランの様子を見てきますので」
「いってらっしゃい」
リーフから得られることはもうなさそうなので、わたしは当の本人をたたき起こして話を聞くことにした。
男部屋に入ると倒立腕立てをしているルシアスと、未だ鼻に詰め込んだ紙を真っ赤に染めたオウランの姿が。
「ん?クロか、どうし……うぉい、いきなりなんだ!?」
つかつかとオウランに寄って頭を叩き、その衝撃でオウランの鼻から紙は抜け落ち、同時に覚醒した。
「うわあ!?な、なんだ?」
「おはようございますオウラン。早速で悪いですが尋問を開始します」
「え?あ、うん、はい?」
「質問一。リーフのどこに惚れたのかを詳細に説明しなさい」
「……ぇ?」
「聞こえませんでしたか?リーフに対してどのような視点から彼女に好意を抱いたのかを事細かに説明しろと言っています」
「はいい!?」
「お、おいクロ!?さすがにそんな無慈悲な真似を……」
「黙っていなさいルシアス、これはわたしにとっての死活問題です。さあ答えなさい。さもなくばリーフにあなたの悪評をあることないこと吹聴することになる」
「クロさん!?」
もしオウランがリーフの見下すような目に惚れたとかなら、速攻で対策を考えねばならない。
イカレとマトモで二対二でも対処しきれていないのに、三対一になってたまるか。
「ぼ、僕は別に、リーフのことなんか……」
「そういうツンデレみたいな発言は結構です、事実を述べなさい事実を」
『前から思ってたけど、クロってたまに鬼より鬼になるね』
『唯一のマトモ枠を問題児にしてたまりますか、何か特殊な性癖の片鱗でも見えた場合はなんとかして矯正します』
『うーんと、ボクは恋愛も性癖も自由であるべきだと思うんだけど』
『わたしだって基本的にはそうですが、この場合は話は別です。オトハ×2とか考えただけでも内臓機能が低下しそうでしょう』
「さあ、どこですか。どこに惚れたんですか」
「う、あ、えっと……その……」
わたしの鬼気迫る雰囲気を感じ取ったのか、気圧されたオウランがもじもじしながらも話し始めた。
スイとルシアスは引いていた。
「え、笑顔、だよ……」
「笑顔」
「う、うん。その顔が、すっごい可愛くて、その……だから……」
「ということは、返り血だらけになって死体を踏みつける姿にキュンと来たとか、自分に対する厳しい言葉自体に快感を覚えたとか、伸びをした時に見えた腋がエロくて舐めたくなったとか、そういうあれではないんですね?」
「違うよ!僕を何だと思ってるんだ!」
よし。
「セーフ」
「何がぁ!?」
笑顔に惚れた。
随分と青春を感じる甘酸っぱい惚れ様だ。
そんな素敵だとすら思える恋なら、妙な性癖を拗らせる可能性は高くない筈だろう。
「いいですかオウラン、くれぐれも姉のような見境のないアプローチはしないように。彼女はまさに鉄壁の要塞です。じっくりと仲を深め、内部から切り崩すのが有効でしょう。妙な小手技を使うのではなく、適切な手段をもって砕け散りなさい。いいですね?」
「よくないけど!最後玉砕してるけどぉ!」
「……あ、なるほど。オウランがオトハみてえに頭おかしくなるのを危惧してたわけか。そりゃそんなことになったらクロ一人で姫さんたちを捌くことになるしな」
「そういうことです。というわけでオウラン、今後もちゃんとこちら側にいてくださいね。もし寝返るようなことがあれば、その純粋無垢な初恋をわたしかステアに改変されることになる」
「なんかさっきからクロさんが大悪魔に見えるんだけど!」
最悪の事態が避けられたことに胸を降ろしながら、わたしは部屋を後にした。