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第219話 忠実と忠誠

「オロロロロロ」


 自らの体の糧となるはずだったものを大地に還しているオウランに背を向け、リーフは目の前の鉄柵に囲まれた屋敷を睨んでいた。

 腰に下げられた細剣に手を当て足を屈伸して準備を整える。


「要請。いつまでも吐いてないでこっちに来て」

「誰のせいだああああ!うぷっ!」

「……阿呆、自分の魔法で回避できたはず」

「あんなスピードで連れてこられていきなり使えるか!しかも阿呆ってなんだ!」

「罵倒、訓練が足りない。不測の事態が起こっても0.2秒で最適な対応をできるくらいじゃないと」

「そんなことできるのはお前くらいだ!」

「否定、正直なことを言うとあなた以外は皆できそう」

「……え?」


 オウランは怒りを一瞬忘れ、あごに手を当てて考えた。


「ノアマリー様は、出来るだろうな。クロさんもめっちゃ反応早いし、ステアはもうほとんど反射でそれやってる。ルシアスは超人だから下手したら一番早い……あっ、オトハ……も、状況判断は凄い……あ、あれぇ……?」

「同情。人には向き不向きというものがある」

「うるさいよ……みじめになるからやめろよ……」


 オウランは膝をついて項垂れた。

 これって、ノアマリー様の最後の防壁として致命的じゃ?

 ぼ、僕の今までの努力って一体……。


「助言、短所を無理して平凡にするくらいなら、長所を伸ばすことを推奨する」

「……なんだよ、向いてないことをひたむきにやるのは立派なことだろ」

「肯定。しかし、あなたたちはお互い短所を補うことができる関係のはず。なら君が無理をする必要はない」

「……」

「出来ないことは、出来る人にやらせればいい。逆に人に出来ないことを君がやればいい。それだけ」

「う、うん」

「終了、話はここまで。じゃあ行く」

「分かった」


 リーフに諭されたオウランはそのままリーフについて行こうとして。


「いや待て!僕、これから何をするのかすら知らないんだけど!」

「……馬鹿。それくらい察しろ」

「無茶言うな!というか、さっきから口癖に交えてこっちを罵倒してくるのをやめろ!……っ、そもそも!」


 オウランはリーフをビシッと指差し。


「意外かもしれないが、僕はまだお前のことを信用してないからな!」

「否定、別に意外ではないし、あれだけ態度に出されれば流石にわかる」

「ノアマリー様はああいう御方だし、唯一マトモなクロさんはノア様第一優先主義だからお前についてとやかく言わないけど、僕は違うぞ」

「提案、そんなに怪しんでいるならステアにウチの心を読んでもらえばいい」

「そういう問題じゃない、そもそも裏切る前提のお前を僕らの内に入れるのが反対なんだ」

「反論、裏切ること自体どころかタイミングすら明かしているんだから、普通にすり寄ってくるよりも信頼性は高い筈」

「……それは」

「ノアやクロだってそれを理解してウチを懐に入れた。それでも信用できないならステアにウチの心を読ませればいいはずなのに、ウチに堂々と言ってくるということは、単純にウチが気に入らないだけ」

「ぐぅっ」

「論破。もういい?仕方がないからウチが何をするのか説明する」

「……くそ」


 ぐうの音も出なかったオウランは仕方がなく黙りこくった。

 リーフは一度頷き、状況を説明した。




 時は、十分前にさかのぼる。


 リーフは傭兵風の男の首に指を当て、相手の内情を吐かせた。


「ディ、ディオティリオ帝国ってのは侵略国家だろ。武力を振りかざすその態度に、辟易してる連中も多い。だが帝国は世界有数の武力―――フロム・エリュトロンやリーフ・リュズギャルといったバケモンを有する国だ。最近じゃあエードラム王国まで吸収してそこにいた光魔術師まで手中に収めたって話だし、そんなやべえ国にデカく出られる国なんてそうそうねえ。だが同時に帝国は実力主義すぎて、貧富の差が激しい国でもある」

「嫌気、そんなこと知ってる。知りたいのはその先」

「だから十数年前から、グレーな奴隷商の間で計画が持ち上がった。帝国のスラムで誘拐して、奴隷にするんだよ。その奴隷は帝国のやってきたことを正しく学ばされたうえで売られるんだ」

「……?」

「そいつらは自分たちが帝国の国民で、その帝国がどんなことをしてきたのかを理解してる。その上で屈辱を受ける。まあ、要するに腹いせだよ。帝国に煮え湯を飲まされた国の上の連中なんかが、帝国民を虐げて発散するってことだ。だけど、奴隷は帝国の内情を学ばされてるから、虐待されても主人に対して敵愾心を抱くヤツは普通より少ない。『自分がこうなってるのは帝国のせいだ』って思うヤツが大半ってことだ。買い手にとっては帝国にささやかな仕返しが出来るし、その奴隷は『あたり』の場合が多い、一石二鳥だろ。だから帝国産の奴隷は高く売れるんだよ」








「質問、どう思う?」

「まあ、聞いてるだけで胸糞悪い話ではあるな。直接攻撃できないからって弱い者いじめでストレス発散ってわけだろ」

「肯定。質が悪すぎる」

「だけど、外道を外道と罵る権利は僕たちにはないぞ。むしろ僕の方がよっぽど悪いことをしてる。馬鹿貴族の罪なき息子を手にかけたこともある、戦争とはいえ兵士を何千人と殺したこともある。それに帝国に王国を売るのに共謀したのなんかは奴隷云々なんて可愛いくらいの鬼畜の所業だ。……あんただって似たようなもんだろ?」

「………」

「僕に分かることが、あんたに分からないわけないだろ。ここで事をおこせば、ノアマリー様のご迷惑になるかもしれない。ほんの僅かでも可能性があるなら、やるべきじゃない。奴隷は気の毒だけどね」

「……同意。君の言うことは間違っていない。側近として最善の考え方」

「お、おう」

「だけど、それはあくまで有象無象の貴族の側近としてはという話。君は、『ノアの側近』のはず」

「?何が違うって言うんだ」

「阿呆」

「直球の罵倒!?」

「……彼女は、傲慢で強欲で怠惰で無神経で身勝手で面倒で、フロム様の命令でかつ強くなければ一生関わり合わなかったような人種」

「僕の前であの御方の悪口とはいい度胸だな」

「遮断、話を最後まで聞け。そんな女だけど、側近に対しては随分と甘い。命令こそすれど、あれほどまでに配下に好き勝手やらせている貴族、そうそういない」


 リーフの発言に、オウランは内心頷いた。

 クロのたまに出る主に対する暴言を聞き流し、ステアの甘えに応え、ポンコツ姉貴(オトハ)の変態にも理解を示し、ルシアスとリーフのように最終的にノアを相手にすることを前提にしていても受け入れる。

 ノアが世界を手中に収めることにこだわるなら、リーフ以外は恐怖と実力で側近を縛ることだって出来る。事実、ノアにはそれが出来るだけの知識と能力がある。

 だが、ノアはそうしない。側近の自由を尊重し、すべてを受け入れてくれる。

 それがノアの、カリスマという一言では片付けられない、人を惹きつける才能だ。


「それに関しては同意するけど、それがこれと何の関係があるんだ」

「断言、ノアは自由を重んじている。自分が誰よりも束縛を嫌うがゆえに、側近にもあまり強制をしない。だからウチを含めて、あの女の周りの人間は自らの意思によって行動する者ばかり。……君以外は」

「なっ、そんなこと!」

「反論、では君は、自らやりたいことをノアに言ってみたことがある?」

「それ、は……」

「君は与えられた自由を、義務のように考えている。感情を押し殺し、行う全ての枕詞に『すべてはノアマリー様のために』がついている。それをクロやオトハのように自分がそうしたいからするならばいい。けど君は、助けてもらった恩を返すという義務に囚われ、他の四人のように自己を強く持たずにノアに従っている」

「……っ」

「力説。それは、忠実ではあっても忠誠ではない。ただの、依存だ」

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