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第218話 リーフと奴隷

 リーフ・リュズギャルは天才だ。

 生来の魔力量、凄まじい魔法出力とそれを完璧に制御できる能力、武芸の才も帝国一の剣士・フロムに次ぐ。

 本来すべてを学ぶのには七年かかると言われる魔法学園の勉学を二ヶ月で修め、更には後の三年で完全に風魔法を極め、果てには風魔法の覚醒を感覚で成功させ、千二百年ぶりの《落雷魔術師》として誕生した。

 ステア同様、ギフテッドと呼ぶにふさわしい異端の魔術師だ。


 もし仮に、ノアやルクシアの転生より前に生まれていれば。

 世界最強の称号は彼女のものだっただろう。






 リーフは、大きめのマフラーで口元を覆って街を歩いていた。

 手にぶら下げている袋には、本やお菓子といったものが無造作に突っ込まれている。

 何をしているのかというと、買い出しだ。ステアが全神国に出張していて髪色を誤魔化す手段がないため、仲間の中で唯一普通の髪色をしているリーフしか外に出られない。

 だが、一応彼女は皇衛四傑・翡翠兵団団長として顔がそこそこ知れ渡っているため、顔隠しのためにマフラーをしている。


(おつかいとか初めて……ちょっと新鮮だと思う自分が恨めしい)


 ちょっとしたため息をつきながら、頼まれたものを探しつつ街を歩いていた。

 以前はこんなことできなかった。

 街を歩いただけで、人に群がられたし。

 中には短剣や魔法を手に駆け寄ってくるヤツもいた。

 ちょっと顔を隠したくらいじゃすぐにばれたから、散歩みたいなことすらろくに出来なかった。

 そういう意味では、こういう時間をくれたノアに感謝するべきかも……。

 リーフははっとして頭を振り、自分の目的を思い出す。


(ウチは、フロム様の命令で今だけ付き従ってるだけ。あの女に世界征服させた後は、ウチがあの女を殺す。……でもそうするとウチが世界の王様にされちゃう。それは果てしなく面倒くさい)


 リーフにとって、世界征服なんてどうでもいいことだった。

 親代わりであるフロムに恩を返すために彼の、というか皇帝の目標だったディオティリオ帝国による世界征服を果たそうとしていただけで、リーフ自身は権力に微塵も興味がない。

 ただフロム様と共にいたい、あわよくば強い人と戦いたい。

 リーフにとって重要なのはその二点のみなのだが、何故かフロムに「リーフを王にしたい」とか言われ、挙句の果てには宿敵だと思っていたノアに裏切る前提とはいえ従うことになる始末。

 ……自分がノアに負けなければこうならなかったのかもしれないから、負けた自分に腹が立つ。

 そして何より腹が立つのは、思ったよりあの場所の居心地が―――。


「待てやごらああああ!!」

「ん?」


 リーフの思考は、前から走ってきた数人の人物によって遮られた。

 赤い髪の女が、複数人の男に追いかけられている。

 女の方には手錠がかけられていて、身なりも汚い。

 明らかに奴隷の立場だ。

 一方で追いかけている男たちは、姿から恐らく傭兵だろうと推測した。


「はあ……はあ……」


 必死に逃げる女だが、助けようとする者は周りに一切いない。

 それもそのはず、この国では旧エードラム王国やディオティリオ帝国同様、奴隷制度は合法だ。

 感覚的には逃がした鶏を肉屋が追いかけているようなもので、同情こそすれど助けようなんて誰も考えない。


 しかしリーフは、その姿に顔をしかめた。

 リーフは元々、犯罪奴隷以外の奴隷売買には反対派だ。

 それ以外のパターンは、ほとんどが親に売られた子供か、暗黙のうちに容認されている、スラムの子供あるいは劣等髪の誘拐だからだ。

 逃げている子供の年齢は十五になっているかいないかというところ。犯罪奴隷とは考えにくいわけで。


 その子供とリーフがすれ違う。

 必然的に彼女を追っている男たちも、リーフに接近していた。

 リーフは手に持っている袋に力が入るのを感じつつ。



 そのまま通り過ぎた。



 ……まあ、助けるという選択肢もあるけど、下手に手を出して面倒ごとに巻き込まれるとノアに嫌味を言われるかもしれない。

 それにあんな行為でも一応は法の下に行われている、可哀想だけどやむを得ない。

 そう思ってリーフは、特に罪悪感も抱かずにそのまま歩いて行った。


 頼まれていたものをすべて買い終え、リーフはノアたちのいる宿屋の近くまで歩いて来た。

 時刻ははすっかり夕方となって、港に沈む夕日がきれいだ。

 ほうっと息を吐いてリーフが少し立ち止まって景色を楽しんでいると、景観をぶち壊す怒鳴り声が右耳から聞こえて来た。


「クソがっ、てこずらせやがって!」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「ああ!?」


 あ、捕まったのかあの子。

 逃げ出そうとしたということは、奴隷化の魔道具―――主人の指定した範囲から動けなくなる首輪が作動していない。これから市場に出される奴隷か。

 可哀想だけど、助ける気はない。

 ウチはそこまで聖人では―――。


「うう……痛い……」

「おい、その辺にしとけって」

「けどよ!」

「ディオティリオ帝国産の奴隷は高く売れるんだぞ。今からキズモノにしてぶげあっ!?」

「は!?なんだああ!?」


 ……気が変わった。


「あ?なんだてめ」

「《小嵐散弾(ストームショット)》」

「ぐがっ……!?」

「い、いでえええ!!」


 リーフは女を囲っていた男三人を薙ぎ倒し、頭を踏んづけた。

 尚も向ってこようとした一人を首を消し飛ばして殺し、逃げようとしたヤツは両足を根元から切り落とし、残り一人の戦意を削ぐ。


「忠告。急所は外した。だけど次は脳天に撃つ」

「ひっ!」

「命令、今の話を詳しく聞かせろ。帝国がなんだって?」


 リーフは激怒した。

 必ず、この邪知暴虐の連中を除かねばならぬと決意した。

 フロム様の愛するディオティリオ帝国から、国民を拉致だと?

 こんな薄汚い糞共が?


 身の程を弁えてもらおうか。


「そ、それは……」

「警告、三秒に一回指を一本切り落とす。言いたくなったら話せ。三、二、一」

「ま、待てよ!イカレてんのかて、ぎゃあああ!?」

「三、二、一」

「ま、待って……ぐぎいいい!」

「三」

「わ、分かったあ!話す、話すよぉ!」


 男の一人の右手の親指と人差し指を切り落としたところで音をあげられたので、リーフは指先に纏った魔法を中止した。


「で?」

「な、何が聞きてえんだよ……」

「指定、全部。一から十まですべて」


 男は恐怖と痛みで震えながら、ぽつりぽつりと自分が知るすべてを話し。

 十五分ほどかけて、知りたかった情報をリーフはおおよそ理解した。


「納得、よく分かった」

「じゃ、じゃあもう」

「肯定。もう用済み」


 話させた男と両足を落とした男、どちらも高火力の雷で塵に変えたリーフは、一人目を殺した時点で気絶していた女をおぶり、宿屋へと戻った。

 自分とクロに割り当てられた部屋に戻ると、中にクロはいなかったため彼女のベッドに女を寝かせた。

 そしてその横、ノアの部屋に入ると、案の定全員が集まっている。


「あら、おかえり。本買ってきてくれた?」

「譲渡、この袋に入ってる。それより頼みがある」

「ありがとう。頼みって?」

「訴願、オウランを借りたい」

「は?」

「別にいいけど、何かあった?」

「失敬、説明している時間がない。一時間程度で戻る」

「ちょっ、僕は行くなんて言ってなああああああ!?」


 リーフはオウランの抗議も聞かずに彼を担ぎ上げ、目にもとまらぬ速度で窓から出ていった。

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