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第212話 次なる大陸

「ただいま帰りましたわお嬢様!さあ、是非私めにお帰りなさいのキスか踏みつけをおおおおええええなんでリーフがここにぃ!?」

「……オトハ、うるさい」

「ステア、見えてませんの!?敵襲ですわ!」

「違う、味方」

「うえ?」


 大書庫に帰ってきて早速、オトハが騒ぎ始めた。

 今回は状況が状況なので仕方がない気もするが、ステアがいつも通りなのでなんとなくオトハが滑稽に見えてしまう。


「おう、そういや言ってなかったわ。リーフが姫さんの世界征服を手伝ってくれることになったぜ」

「挨拶、よろしく」

「ほらオトハ、あなたも挨拶しなさい」

「え、あ、はい、よろしくお願いいたしますわ?」


 あまりの超展開にさすがのオトハも戸惑っているようだが、ステアは一瞬だけ目を見開いたもののすぐにいつも通りに戻り、ノア様の足の間にすっぽりと収まった。

 わたしたちの誰かの記憶を読んでどういう状況か把握したんだろう。相変わらず優秀で手がかからない娘で助かる。


「い、いやいやいやいや!説明!誰か説明してくださいな!?」

「ステア」

「ん」


 ステアが軽く指を振って、オトハに記憶を渡した。


「え、ん?……ああ、そういう状況なんですのね、把握しましたわ」

「反対意見などは?」

「特にありませんわよ。お嬢様の決定ならば全力で支持致します」

「こういうときはあなたのノア様全肯定オタクが助かりますね」


 オウランが後ろで顔を抑えて首を振ってる姿が想像できたが、これがオトハだということも分かっているようで何も言わない。


「ちなみにステアは」

「異議、なし」

「そうですか」

「裏切ろうとしたら、心、壊せばいい」

「恐怖、子供とは思えないことを言う」

「最年少ですけど、うちの切り札ですからね。怒らせない方がいいですよ」


 本気で怒ったら、時を超えてまで敵を始末しにかかる少女だ。


「じゃあ、全員そろったことだし今後についての作戦を決めましょうか。はい、全員着席」

「はい。……ステア、そろそろ普通に座ってください」

「お嬢と一緒がいい」

「仕方ないわねえ、あなたが可愛いから許すのよステア」

「ん、可愛くて良かった」

「ノア様、ステアがナルシストに育ったら嫌なのでやめてください」

「はいはい。じゃあ、さっさと作戦会議を始めましょう」


 ノア様はステアを猫のように撫でながら一枚の紙を取り出した。


「これは?」

「次に狙う国の候補を、クロと一緒にリストアップしたものよ。そろそろ他大陸にも足を延ばそうと思ってね」

「この大陸の制覇は終わってないのにいいのかよ。この王国はそろそろ帝国領になるが、共和国連邦を筆頭にまだ国はあるんだぜ」

「問題ないわ。共和国連邦を攻める気はないもの」

「どういうことですの?」

「単純な話、共和国連邦はちょっと強大すぎるからね。王国を飲み込んだ帝国と比べればさすがに劣るけど、それでもその戦力はルクシアが抜けても油断ならないわ。大陸中の商人や技術者が集まっているから武器の質も高く、傭兵業の人間も大半が向こうにつくでしょう。ルシアスなら分かるわよね」

「まあ、傭兵にとってあの国ほど仕事しやすい国はねえからなあ。差別もなくて物価も安いし飯も酒も美味い。あんたに出会ってなかったら俺だって連邦についてただろうよ」

「そう、そこよ。あの国は全体的に暮らしの質がものすごく高い。けど戦争なんて仕掛けたらそれが失われるかもしれないじゃない、そんなの勿体ないでしょう?だからあの国は後回し、世界中の国を征服した後、数で囲って無条件降伏させるのが最善ね」

「嘆息、安定の外道」

「よしてよリーフ、そんな褒めるなんて」

「褒められてないです」

「ということは、共和国連邦が壁になってるこっちの小国群も後回しですか?」

「そうね。けど、一番北のこの国だけは手に入れたいわ」

「ここって……漢方で有名なあの?何故です?」

「ステアが欲しがってるのよ」

「ゴラスケ、ここで作られた。そろそろ友達、つくってあげたい」

「優しい子ねえあなたは」

「どこが優しいんだよ、人形のために国欲しいっつってんだぞ」

「お気に入りの娘が人形欲しがってるからって国を取り込もうとかステアバカも大概にしてください」

『主様に向かってバカとはなんだいクロ!』

『あなたはすっこんでてください』


 相変わらず突拍子もなくとんでもないことを言う人だ。

 勘弁してほしい、暴君なんてレベルじゃない。


「それでノア様、冗談はほどほどにして」

「冗談じゃないわよ?」

「冗談はほどほどにして!……次の標的はどうするんです?」

「そうねえ、候補としては三つね」


 わたしとノア様(というか主にわたし)がリストアップした国の名前と、頭の中でこの世界の地図を浮かべる。

 その中で、候補として名前が挙がり、赤い丸が付いているのは。


 内乱、クーデターが多発し、それでも政府が変わらない不動の国家『アルスシール』。

 独自の文化を二百年に渡り発展させ続けている最南の国家『スギノキ』。

 複数の過激宗教団体が手を組んで出来上がった全国家の目の上のたん瘤『ハイラント全神国』。


「何故この三国なんですの?」

「アルスシールは戦争技術の発展が他の国と比較にならないため、乗っ取れれば戦力アップにつながります。スギノキは世界唯一の大陸統一国家で争いがなく、かつ島国なので海洋事業の発展が著しいので、その技術が必要です」

「全神国はどうなんだ?ぶっちゃけ言っちまうと関わりたくないんだが」

「賛同。あの国は面倒極まりない。十年前、あの強欲だった皇帝すら関わり合いを避けたという折り紙付き」


 たしかにそれに関してはわたしも危惧していた。

 それどころか、ノア様の世界征服に当たって最大の障害かもしれないとすら思っていて、下手すると全神国の国民全員皆殺しにする必要があるかもしれないと考えていたほどだ。

 しかし、その必要はまったくないことが、少し調べた結果わかった。


「気持ちは分かりますが、むしろ一番支配しやすいかもしれませんよ、この国は」

「その心は?」

「この国の成り立ちは知っていますか?」

「たしか、三百年だか四百年だか前に、でっけえ宗教戦争が起こったんだよな。はじめは二つの宗教団体だったのが、段々と主義主張をおおっぴらにしたせいで他の宗教も関わってきて、みたいな」

「ですがそれをたった一人の女性が諫め、互いを尊重し合うということを教えた……と聞こえはいいですが、実際は『神を信じる』という心を良しとし、不信を悪とすることで、戦争に参加していなかった宗教無き国家に怒りの目を変えさせただけだったそうですわね。それで今まで殺し合ってた数十の宗教が連合を組んで国を滅ぼし、新たに自分たちの国を築き上げ、幾度もの宗教内乱を乗り越えて今のクソ厄介なハイラント全神国が出来上がった、でしたか」

「その通りです。さて、今の話に出てきた『たった一人の女性』ですが。彼女の名前はスオーラといいます。しかも当時の光魔術師だったそうです」

「はあ、それがなに……か……?」

「え、光魔術師ってことは」

「はい」


 うん、つまり。

 面倒極まりない全神国を作り上げた元凶は。


あの女(ルクシア)かよっ!?なんつーことしてくれやがったんだあのアマ!」


 そう。

 千年前からノア様の以前までの光魔術師は、全て転生を繰り返したルクシアだ。

 だから歴史で光魔術師が出てきたら、全部あの女と思って間違いない。


「どういうつもりでやったのかしらね、あんの腹黒女。まあ当の本人が覚えてるかは微妙なところだけど。アイツ基本的に、私と自分と仲間のこと以外はどうでもいいと思ってるタイプだし」

「ですが、それが今回はいい方向に傾きました。全神国はすべての信仰心を是とする国。故に多種多様な宗教が混在していますが、国の成り立ちに大きく貢献したスオーラに対してはほぼ全員が共通して信仰心を持っているそうです。そして彼女の持っていた美しい金色の髪を称える風習があるとか」

「……えっ」

「それってつまり」

「はい。ノア様は全神国で、神のように扱われることが予測されます」


 その場の全員が、どういう顔をしたらいいのか分からないという顔をした。

 ……あっ、違った。ノア様だけまんざらでもなさそうな顔をしていた。

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