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第208話 数ヶ月越しの決着

 落下していく二つの影が地上に到達した瞬間、その周囲が爆発した。

 オウランがカモフラージュのために仕掛けた爆弾。ここまでは予定通りだ。


「おいおいおい、多すぎやしないか!?すげえ黒煙上がってんぞ!」

「いえ、あれくらいやらないと帝都の住人たちに爆音が聞こえないでしょう。彼らには証人になってもらう必要がありますからね」

「だが、あれほどの爆発だ。消耗した二人が無事で済んでいるか分からんぞ」

「ご心配なく、あれはオウランが改良した特別製です。爆発の派手さに反して殺傷能力を極力控えるようにしてもらったので、密着した状態でない限り死ぬことはありません」

「アイツ本当に器用だな」

「そして何より、オウランがいれば耐性魔法で二人を守れます。万に一つもありません」

「ほほう、なるほど。抜かりないな」

「当然です、我が主の命に関わる問題ですから。……さて、わたしたちも向かいましょうか。ルシアス、転移を」

「おう」

「フロムさんもこちらへ。移動します」

「分かった」


 ルシアスに近づき、三人固まったところで空間が切り替わった。

 目の前で大きな黒煙が上がり、思わず咳き込んでしまう。


「こほっ……《物質消去(マテリアルデリート)》」


 黒煙の大本である爆弾の残骸を消す―――つもりだったが、失敗した。

 爆弾が仕掛けられていた木や地面をも同時に消滅させてしまい、支えを失った隣の木がメキメキと音を立てて倒れてしまう。


「うおっ!?」

「……やっぱり駄目ですね。思った以上にコントロールが効きません」

『無理もない、いきなり魔力が跳ね上がっているわけだからね。今までの感覚で消していたら、取り返しのつかないことになりかねないよ。しばらくは自制するか、どうしても戦わなきゃいけないときはボクに代わっておいた方が無難だ』

『そのようですね』


 冗談抜きで、ノア様にお願いして集中的に修練を積まないとならないようだ。


「ルシアス、空間操作で黒煙を封じてください」

「よしきた」

「生体感知に反応が三つ。こっちですね、急ぎましょう」


 極力姿勢を低くしつつ、少し薄くなってきた黒煙の中を進んでいく。

 少し進んだところで、話声が聞こえてきた。


「……不服、やり直しを要求する」

「負けず嫌いは結構だけど、『やり直し』という言葉は頂けないわね。私の勝利をなかったことにしろとでも?」

「撤回、言葉を変える。もう一戦行うことを提案する」

「悪いけど却下。少なくとも今はね」

「不快、生涯最初の敗北を払拭しないなどウチの流儀に反する」

「あのねえ、少なくとも―――」

「ノア様!」

「あらクロ、それにルシアスとフロムも」

「来たのかクロさん」


 近づくにつれて、黒煙は消えていた。おそらくリーフが風魔法でかき消したのだろう。

 そこには木に寄り掛かって心なしかドヤ顔をしているノア様と、あぐらをかいて地面に座り何かをチクチク縫っているオウラン、そしてうつぶせで口以外をピクリとも動かさないリーフがいた。


「ノア様、先ほどの会話で大体察しましたが、結果は?」

「私が勝ったわよ」

「やはりですか」

「なんと!?」


 心底嬉しそうな勝ち誇った顔でノア様がそう言うと、後ろにいたフロムが驚愕の声をあげた。


「リーフ、本当か?」

「……事実、非常に癪だけどあれはウチの敗北」

「当然ね、だって私だもの」


 ドヤっているノア様に対し、リーフは消沈と悔しさと称賛を足して三で割ったような顔で臥せっていた。

 しかし勿論、二人共無事で済んではいない。

 傷こそノア様が回復したようで見えないが、顔は汚れ塗れだし、何よりどちらも毛布のようなものを纏っていた。

 高熱の光と落雷で互いに服なんてとうに焼け焦げていたのだろう。なるほど、オウランが縫っていたのは二人の服か。


「し、信じられん……リーフが負けるなど、想像すらしたことがなかったぞ」

「実際凄まじかったわよ。戦闘パターンは一秒ごとに変わるし隙あらば雷を落としてくるし、風魔法で動けなくされたところに雷連打は反則技だったわね」

「反論、あなたに反則と言われたくない。レーザーの檻に捕まって両腕を吹っ飛ばしてくるとは」

「それでも両腕ないまま小一時間耐えた子が何を言ってるの。それにあなただって私の右足使い物にならなくしてくれたじゃない」

「反省、あの時点で両足封じていればウチが勝っていた」

「たらればの話はみっともないわよリーフ、大人しく敗北を噛み締めておきなさい」


 とんでもない発言をさらりとしていたが、この二人は四肢を使用不能にされた状態で戦い続けていたのか。

 リーフの腕は既にくっついているので、それも光魔法で回復したのだろう。


「ふふふふ……」

「ノア様?」

「ふふっ、あはは、あーっはっはっは!勝った、勝ったわよ!あーすっきりした!実に愉快な時間だったわ!クロ、暫くこの優越感に浸っていたいから私を褒めたたえなさい!」


 なんか面倒なこと言いだした。


「おめでとうございます、流石ですノア様」

「もっと!」

「やはりノア様は最強です。素晴らしい。あなたほど美しい御方は見たことがありません」

「当然ね!」


 こんなんでいいのか。


「でもまだ足りないわね。こういう時にオトハがいると助かるのだけれど」

「あいつにそんなことを言ったら辞書くらい分厚い資料作成までやりだしますよ」

「絶対に言わないでください」


 想像しただけでうんざりする光景だ。

 そんな感じで勝ち誇るノア様に対し、リーフは全く動かない。

 精神的な疲労やら敗北感やらで動けないのだろう、首だけこちらに向けてノア様を見て頬を膨らませていた。

 いや、こうしてみると凄まじく可愛いな。今までは敵同士で顔を注視する余裕なんてまったくなかったけど今なら分かる。


「おいリーフ、大丈夫か」

「不覚、大丈夫じゃない。腹立たしくて仕方がない、今すぐあの調子こいてる女をぶっ飛ばしたい」

「落ち着け」

「要求。フロム様、あの二ヤケ面ひっぱたいてきて」

「落ち着けと言っているだろうが。人生初敗北が悔しいのは分かるが、冷静さを取り戻せ。ほれ、立てるか?」

「……無理。フロム様、助けて」

「分かった分かった。そのまま力を抜いておけ」


 ぐでっとなっているリーフをフロムがひょいと持ち上げ、そのままおんぶした。

 リーフはされるがままになっているが心なしか頬が緩んでいる。


「仲良いなあんたら」

「そうだな。もう十年も共にいるし、情くらい湧く」

「フロムさんが親代わりなんだっけ?」

「是認、ウチのバカ親父が女の尻を追いかけている間、フロム様にずっと稽古をつけてもらっていた」

「齢十二の頃には既にワシを超えていたがな……」


 バカ親父―――ホルンに死体人形にされていたあの男か。

 確か名前はウェントゥス・リュズギャル。皇衛四傑のリーフの前任者で、禁術を用いたことで心を失い、リーフによって殺された男。

 ルクシアたちに辛勝した後、死体が残ったのでどうしようかと思っていた時、リーフが『愚問。フロム様、さっさと焼いて。骨ごと』というドライここに極まれりなことを言っていたので軽く引いたのを覚えている。


「はいはい、互いの身の上話は後ね。まずは城に戻りましょう。ルシアス、転移」

「へいへい」

「ルシアス、大丈夫ですか?既に一度使った直後ですが」

「んあ?もう結構回復してるから大丈夫だぞ」

「そうなんですか?魔力回復早いですね、あなた」


 リーフをおぶったフロム、わたし、ノア様、オウランを連れ、ルシアスは空間魔法を発動。

 先程までわたしたちがいた帝国城まで一気にショートカットした。

 つくづく凄まじい魔法だ。

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