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第204話 朝食

 二人は、数メートルほど間隔をあけただけで、一緒に寝ていた。

 男女比が2:4な影響かこの二人は仲が良く、どちらも手がかかるということはあまりないのでありがたい。


「オウラン、ルシアス、おはようございます」

「んお、朝か。おはようさん、クロ」

「おはようクロさん。よっと……さ、働くかー」


 この寝起きの良さ、今ステアに起こしに行かせている寝坊常習犯に見習わせたい。

 特にオウランに関しては、オトハと双子とは思えないほどに真面目で、なんと素晴らしいことか。


「私は朝食の用意をしてくるので、二人は準備を終えたら座っていて構いません。オトハが固まっているので動き出して阿呆を言ったら殴ってもいいので止めてください。十分経ってノア様とステアが来なかったら、二人して二度寝に突入した可能性が高いので叩き起こしに行ってくださいね」

「おー、了解了解」

「悪いねクロさん、いつもいつも」

「いえ、仕事ですから」


 オトハ一人にかけた時間の三倍速く事が済み、私はそのまま書庫の奥へと進んだ。

 ここ数日のために用意した食材と魔道具を駆使して簡単に朝食を作っていき、十分ほどで全員分が完成した。


『おー、あいかわらずいい手際だね』

『それはどうも。あなたはこういうことやっていなかったんですか?』

『千年前の主様は一応王様だったからね、いくら副官とはいえボクがやる必要はなくて、ちゃんとした調理係がいたよ。でもボクも出来ないわけじゃないよ、特にホットケーキにはちょっと自信ありだね』

『そうですか、ではステアのおやつにでも作ってあげてください』


 お盆に載せて一気に運び、食事をする机まで運んでいった。

 しかし、誰一人として着席していない。

 いや、違った。着席していると言えばしているのが若干一名。

 オトハという名の椅子に腰かけている、オウランの姿だ。


「ありがとうクロさん」

「いえ。で、あなたが尻に敷いているその娘はなにを?」

「案の定、動き出した瞬間に時間魔法だと気づいてノアマリー様のところにダッシュしようとしてね。こうでもしないと止まらないだろ?」

「素晴らしい働きです」

「ええい、離れなさいオウラン!それと、私の《重力耐性》を元に戻しなさい!弟の分際で姉にこのような仕打ちをしていいとでも?」

「オウラン、私が許可するのでいいですよ」

「だそうだ」

「ちょっとクロさん!?」

「その椅子は放っておくとして。オウラン、ルシアスは?」

「ノアマリー様とステアの様子を言いつけ通り見に行った。もうすぐ来ると思うけど」


 オウランのその言葉に呼応するように、ノア様の寝ていた方向から声が。


「ったくよぉ、あんたいい加減起こしに来たステアを抱き枕にする癖やめろよ」

「仕方ないじゃない、ステアの抱き心地がよすぎるんだもの。これに関しては私を起こす役にステアを任命したクロに非があると思うわ」


 その防止にステアに顔を洗ってから行かせたのだが、無駄だったようだ。


「ステアもお前、言いなりになるなよ。クロに起こしてこいって言われたんだろ?」

「お嬢の温もり、恋しかった。お嬢に抱かれたまま寝るの、好き」

「聞くやつが聞いたらおかしなことを想像するからその言い方やめろな」

「?」


 未だ眠そうに眼をこする主人。

 お美しい姿が鮮明に見えてきたため、軽く頭を下げた。


「おはようございます、ノア様」

「おはようクロ。ちょっと早すぎるんじゃない?」

「……お忘れですか。今日は帝国で、フロムとリーフとの極秘会談です。朝から準備をしないと間に合いません」

「あら、それ今日だった?最近日にちの感覚がマヒしてるのよね」

「お願いですから、せめてもうちょっと生活態度をしっかりしていただけませんか」

「イヤ」


 さも当然というようにこっちの要求を却下してくる自分の主人に思わず呆れる。

 いや、元々期待もしていなかったし、むしろこれで頷かれたら至急医者を呼んでいたところだ。これでいいのか。


「では、早く朝食を食べてしまってください。どうせ身につけるものも決めていないのでしょう?」

「分かってるじゃない。クロのセンスに任せるのが一番いいんだから、私がやる意義がないわ。だからよろしくね」

「……かしこまりました」


 怠惰ぶりは、あんなことがあっても相変わらずか。

 とてもじゃないが、つい先日に敵と大死闘を繰り広げた御方とは思えない。


「まあ、それは後で良いわ。それよりクロも一緒に食べなきゃ」

「はい」

『ねえクロ、代わってくれない?君と感覚を共有しているとはいえ、食事は自分の意思で取りたいんだけど』

『それはわたしもですが……まあ、ここ最近はずっとわたしでしたし、構いませんよ』


 スイと入れ替わり、体が自分の意思で動かない状態になる。

 鏡を見れば、この体は銀色の髪をしているだろう。


「スイ、おはよ」

「おはようステア。主様もおはようございます」

「おはよう。今日はスイなのね」


 そのまま全員が席に着き、朝食をとった。

 ステアの顔が綻ぶ姿を見ると、作った甲斐があるというもの。

 ノア様は野菜をすべてスイに渡そうとし、基本的にノア様を甘やかすスイが受け取ろうとしたので瞬時に入れ替わって阻止する羽目になったりと色々問題はあったが、なんとか朝食を終え、ノア様の化粧と服選びも全て済ませ、わたし自身も多少の身支度をする。

 他の四人も自分で終えていたので、支度は整った。


「ではルシアス、お願いします」

「おう。《長距離(ハイテレポ―)転移(テーション)》」


 ルシアスがそう唱えると、視界がぐにゃりと曲がり、暗闇になる。

 しかしそれはほんの一瞬。まばたきする間に、目の前の視界は変わっていた。


「座標通り。腕上げたわね、ルシアス」

「当たり前だろ。あんたを超える男が努力してるんだぜ?」

「ふふっ、楽しみにしてるわよ。あなたが私を超えたと勘違いして挑んでくる日を」

「ははっ!言ってくれるぜ」


 楽しそうなルシアスとノア様の会話に、わたしとオウランは呆れた顔をし、ステアは興味なさげに欠伸をし、オトハはルシアスに対して威嚇をする。


「ノア様、その辺で。お待ちですよ」

「そうね」


 ルシアスが転移してきたのは、ディオティリオ帝国の帝国城、その会議室の一つだ。

 極秘の会議やカメレオンの情報を聞く際に使われていた場所で、密談には最適。

 一応は伯爵家の当主であり、エードラム王国の重鎮扱いであるノア様が、仮にも戦争中のこの国にいるなんて知られるのは一大事だ。

 だからこそ向こうとも相談し、ここを選んでもらった。


「よく来たな、ノアマリー殿とその御一行」


 既に、目当ての人物二人は座っていた。

 帝国総大将、炎魔術師フロム・エリュトロン。

 そして。


「回想、半月ぶり。本来ならノアマリーとの決着をつけたいところ」

「そうしたいのはやまやまだけれど、それはまた今度ね」

「今度もやらないでください、暫定とはいえ味方です」


 帝国最強、風・落雷魔術師リーフ・リュズギャル。

 ノア様と互角の強さを持ち、四大魔法の覚醒に自力で至った天才魔術師。

 二人は元々は敵のはずだが、ルクシアとの戦いで共闘。

 その後も対立はせず、とりあえずは状況の整理と互いの体制の立て直しをしてから話し合うという結論に至った。

 そしてその話し合いを行うために、ここを訪れたわけだが、ノア様とリーフが不穏な空気を醸し出している。

 勘弁してほしい、この二人がまた()りあったらどうなるかわかったものじゃない。


「その暫定味方が、味方になるか敵になるかを話し合うために来たのでしょう?」

「同感。加えて、あなたたちには色々と聞かなければならないこともある」

「そうだな。大体のことの経緯はリーフから聞いているが、君の口からも聞きたい。あの日、何が起こっていたのか」


 ノア様は二人に向かい合うように座り、わたしはその斜め後ろに、何があってもお守りできるように立つ。


「いいわ、説明しましょう。全部ね」

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