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第17話 ソロショッピング

「いいですかノア様。わたしから離れないでくださいね」

「わかったわ」

「ノア様はご自分が思っている以上に目立ちます。絶対に離れないでくださいね」

「わかったわ」

「本当にわかりましたか?迷子になられたら探すのわたしなんですからね」

「クロ、私を誰だと思ってるのかしら?」

「ノア様だから言ってるんです!」

「………はぁい」


 屋敷から抜け出したノア様に付き添って、街に向かう坂を下りながら、わたしはノア様に注意を告げていた。


「ところで、お金あるんですか?」

「あるわよ。ほら、ここにこんなにたくさん」

「ちょっ、そんな開かないでください!落とす落とす!」


 ノア様は前世は王様、今は領主の娘。金銭感覚もおそらく他人と大きくかけ離れている。

 私が何とかしなければ。


「ほら、行くわよ」

「あ、待ってください!」


 まあ、わたしが見張っていれば何とかなるだろう。

 そんな甘いことを、この時のわたしは考えていた。




 ***




「ノア様ー、ノア様ー!どこに行かれたんですか!」


 わたしは街を走りながら、必死でノア様を探していた。


「ノア様ー!今なら怒りませんよ!出てきてください!」


 わたしが甘かった。ついこの前、噴水に飛び込むなんて馬鹿な真似をした御方なんだから、もっと考えて行動するべきだった。

 我儘で気分屋なノア様のことだ、急にソロショッピングがしたいとでも思い至ったのか。


「ノアマリー様、いい加減出てこないと、そろそろ怒りますよ!本当に怒りますからね!」


 ノア様は全魔法最速、光魔法の使い手。

 油断している子供一人、サラッと撒くなんて簡単なことなのかもしれない。

 しかしだからといって、「主に消えられる」なんてやられた従者の気持ち考えてほしい。


「ど、どこにもいない………」


 結構生きた心地しない。

 もし撒かれたわけじゃなくて誘拐とかに会ってたら。

 事故に巻き込まれてたら。

 悪いことばかり考えてしまって、焦った思考しかできなくなる。


 夕方になっても見つからず、わたしは息を切らしながら途方に暮れていた。


「ノア様、一体どこに………」


「おい」


 ばっと振り返ると、そこにはノア様ではなく、三人の男がいた。

 どこかで見たことがあるような気がしなくもないんだけど、思い出せない。


「探したぞ、悪魔の髪め」

「はあ、どなたですか?今忙しいんで、後にしてもらえます?」

「はっ!黒髪が忙しい?逃げ回るのにか?」


 煩わしい。

 ………あ、思い出した。

 この人たち、前に散々わたしを追いかけまわしてきた、髪色至上主義者の連中だ。

 右の男に関しては、わたしが荒れていた時に死のオーラで寿命いくらか持ってっちゃった人じゃないか。


「逆ですよ、人探しです。わかったらどいてください」

「なんだ、その態度は!」

「はあ………」


 こっちは一刻も早くノア様を探さねばならないというのに。

 最初に会った時は恐ろしく、二回目に会った時は憎く感じたものだけど、不思議だ。今は何も感じない。

 この人たちがどんな目に会おうが心底どうでもいい。興味もない。ただ、今こうしてわたしの前に立ち塞がり、ノア様を探すことを邪魔されていることが非常に煩わしかった。


「ではどうすれば?あなたたちはわたしをどうしたいと言うんですか」

「決まっているだろう!黒髪がこの街にいるだけで、不幸を呼ぶ!」

「そして他の街に行き、再び貴様は不幸を招くのだ」

「そうなる前に、その根をここで摘み取る!」


 男たちは各々手を構え、魔法を放つ姿勢に入った。

 炎が二人、風が一人。四大属性の中では比較的攻撃力が高い二属性。

 だけどこの人たちは戦闘職じゃない。最低限の魔法の知識しか知らない。


「《(ファイ)

「《闇拘束(ダーク・バインド)》」


 なら、せっかくだ。

 習得した闇魔法の実験台になってもらおう。


「なっ………なあっ!?」

「な、なんだよこれぇ!!」


 闇魔法の初級クラス魔法『ダーク・バインド』は、その名の通り闇を展開して敵を絡めとり、拘束する。

 だけどそれだけじゃない。


「《風切断(ウインド・カッター)》!………あ、あれ?」

「おいどうした!早くこれを解いてくれ!」

「ま、魔法が使えない!」

「はあ!?」


 この闇は、相手の魔力を消す性質を持っている。

 未熟な今のわたしじゃ、引き出せる魔力量が高い人の魔法は消しきれないし、ノア様に至っては拘束する前に光魔法で無効化される。

 だけど、この人たち程度。引き出せる魔力量が一桁くらいしかない雑魚なら、数秒あればすべての魔力を消し去れる。

 わたしは彼らの魔力が消えたことを察し、拘束を解いた。


「はあっ………はあっ………」

「な、何だ今のは………!?」


 意図せずして、闇魔法の力を確認できた。

 さて、ノア様を探しに行かなければ。


「ま、待て!」

「まだ何か?」

「な、なにをした!?貴様は黒髪だろう!魔法を使えないはず!なのにっ」


 なんて面倒な。

 いっそいくらか寿命を消して、早死させてやろうか。

 加減を間違えなければ、数日後に死ぬくらいに調節することはできる。


「………あなたたちは知らなくていいことです」


 いや、やめた。

 こんな連中でも、後にノア様のお役に立つことがあるかもしれない。


「ふ、ふざけるな!何をしたのか知らないが、黒髪ごときが!」

「だ、だけど何とかしようにも魔法がっ」

「あんなガキ一人、魔法がなくたって何とでもなる!」


 さっき、魔法があったのに何とかならなかったのは誰だと言ってやりたい。


「かかれ!」

「ああもうっ、ノア様をお探ししなくてはならないのにウザったい………!」


 まだ向かってくるならやむを得ない。

 わたしは寿命を少し削ろうと魔力を練った。

 だけど、その魔法が放たれることはなかった。



「《光拘束(フォトン・バインド)》」



 何故なら後方から、まったく別の魔法が放たれたから。


「う、うわあっ!?」

「こ、これはまさか、光魔法!?」


 魔法が放たれた方向から歩いてきたのは、当然。


「あなたたち、うちのクロに何してるのかしら?」


 両手に買い物袋を携えた、ノア様だった。


「ノ、ノアマリー様………!?」

「なんで黒髪を庇うのですか!金色の髪を持つあなたが!」

「そんなことどうでもいいの。その子は私の従者よ。あなたたち、誰の許可を得て私のものに手を出そうとしたのかしら?」


 男たちが信じられないという顔で、わたしとノア様を交互に見てきた。

 金髪が黒髪を従者に選ぶなんて、彼らの常識では考えられないんだろう。


「知らなかったとはいえ、貴族の娘の配下のものに手を出した。それがどれほどの罪かわかってるわよね?」

「そ、そんな、馬鹿な………!」

「我々はただっ」

「言い訳なら牢屋でするのね」


 どうでもいいものを見るような目でノア様は男たちを見ると、表情を変えてこちらに歩いてきた。


「クロ、こんなところにいたのね。実は急にソロショッピングというのに憧れが芽生えて、ちょっと撒いちゃったわ。ごめんね?」


 イラッ。


「こ、こっちが………どれだけ心配したと………?」

「心配してくれてたの?光魔法の使い手であるわたしを?クロ、なかなか面白い冗談が言えるように」

「そういう問題じゃないんですよこの馬鹿主!なに人を心配で死にそうな目に合わせといて、颯爽と助けに入った主人公みたいなポジションに落ち着こうとしてるんですか!」

「きゃっ!?」

「言いましたよね?わたしから離れないでくださいと!ご自分の立場を考えてくださいと!あれだけ言ったのに言うこと聞かないってどういう神経してるんですかあなたは!?本気で一度怒られたいんですか!?」

「も、もう十分怒ってるじゃ」

「つべこべ言わない!」


 なんだこの人は。

 なんであんなかっこよく登場してるんだ。

 人を心労で殺しそうになっておいてよくそんなことできたな!


「この男たちを警察に引き渡したら、すぐに帰りますよ!もうわたしは学習しました、あなたから目を離してはいけないと!二度と一人で出歩かせませんからね!」

「な、なにそれ。プロポーズ?」

「違います!」


 こうして、わたしを襲った男たちは見事にとっ捕まり、ティアライト家の名で厳正な処罰が下される運びとなり。

 ノア様はと言えば、勝手に屋敷を出たことを使用人咎められそうになった。

 しかし、わたしの剣幕があまりに激しかったために、彼らは怒るに怒れなかったという。

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