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第189話 読心

 ルクシアが言葉を終える一瞬前に、お嬢とリーフがルクシアに飛び掛かった。

 けど、ルクシアが何もしていないのに、二人は壁際まで吹っ飛ばされている。


「げほっ!?」

「なに、が………!」


 ルクシアの最も強くて、最も凶悪で、最もシンプルなアイデンティティ。

 光の速度で動けるという、絶対的なスピード。

 その動きは、速すぎてルクシア自身は何もしていないようにすら見える。


「やっぱり弱くなってるなあ、ノアちゃん。やっぱりノアちゃんに光魔法は向いてないよ。ノアちゃんは他人からあらゆるものを消しつくす、闇魔法の方が合ってる」

「うっさいわね………」

「逆に、クロさんの方が光魔法に向いてるんじゃない?主の盾となりたいって思ってるような人間の方が光魔法は合ってるよ。光と闇、交換することが出来ればもっと強かったでしょうに」


 ルクシアが余裕で話をする間も、私たちは油断せずに身構えた。

 私たちをあざ笑うように、ルクシアはゆっくりとこっちに近づいてくる。


「あなたたちのことは、ノアちゃんがちゃんとワタシのものになってくれるなら生かしてあげる予定だったの。ワタシ個人としても皆のことは結構気に入ってるし。けど」


 ルクシアは不意に笑みを消して。


「ステアさんはダメかな。ちょっと調子に乗りすぎたね。その膨大な魔力と精神魔法は惜しいけど、君だけはここで死んでもらおうか」


 無表情で、多分ものすごく怒った顔で、私に剣を向けた。


「クロさん、オウランさん、魔法でガードしようとしても無駄だよ。光魔法の真の速度は、耐性魔法も闇魔法も捉えるなんて不可能だからね」


 咄嗟に私に魔法を展開してくれた二人をルクシアは一蹴して、


「じゃ、サヨナラ」


 神速で私に剣を突き立ててきた。

 それを私は。


 ―――右に一歩移動して、避けた。


 ルクシアは無表情のまま私たちの背後に回り、振り向いて、そして私が生きていることに目を大きく開いた。


「な、に?」

「え?え??」

「今、何が起こったんですの!?」


 光魔法の最大の弱点。

 そのスピードのあまり、それを術者すら認識しきることが出来ないということ。

 だからこそお嬢はスピードを絞って、自分で感知できるギリギリの速度を保って動いている。

 ルクシアの場合、長年の経験によってその恐れを克服し、光の速度で動く。


 けど裏を返せば、ルクシアは自分がどうやって動いているのか、自分自身でも認識していないということ。


 つまり速度が違うだけで、やっていることはお嬢と同じ。

 あらかじめ動くルートを決めて、その通りに動いている。

 つまりそのルートさえわかってしまえば簡単、その道順に私がいなければいい。

 その方法は、とってもシンプルだ。


「このっ!」

「………無駄」

「《乱反射光線(クレイジーレーザー)》!」

「当たらない」

「何故、光魔法の軌道をあなたが読める―――読める?まさか………」


 ルクシアは気づいたらしい。


「あなたまさか、私の心を………!?」

「そう、読んでる」


 ルクシアに精神魔法は通じない。

 けど、例外はある。

 私の膨大な魔力で無理やり魔法をブーストすれば、低級の魔法くらいならルクシアにも通用する。

 簡単な意識の誤認をさせたり。

 感覚をずらしたり。

 ―――心を読んだり。


「その異常な魔力をフル活用して、私の光魔法の軌道を読むか。本当にどうやってそこまでの力を手にしたのか、根掘り葉掘り聞きたいところなんだけどね」


 でも、この方法は一つ致命的な難点がある。

 それにルクシアも気づいた。


「心を読む相手の対処なんて簡単。避けられないくらい高密度の攻撃をすればいい。何の策も必要ないね」


 心を操るだけで、本来は非力な私にそれをされると勝ち目がない。

 だけど生憎、まだ秘策は残ってる。


 私はくるりとルクシアに背を向けて、ルシアスの元に走った。


「ルシアス、持ち上げて!」

「はあ!?」


 ルシアスは戸惑いながらも私を抱えてくれて、直後にルクシアの魔法の軌道が頭に流れ込んできた。


「右に、大股三歩」

「お、おう。………おわあああ!?」


 私一人じゃ躱せない。

 けど、超人のルシアスの機動力と合わせれば、それなりに動くことが出来るようになる。


「ジャンプ」

「おうっ!?」

「三時の方向に、飛んで」

「どうわっ!」

「かがんで」

「ぎゃあ!」

「死ぬ気で、前に、ダイブ」

「助けてくれええ!!」


 ルシアスには酷だけど、私が光魔法を避け続けるにはこれしかない。

 ルクシアもだいぶ苛ついてきている。

 ここで次の段階。

 私は、あらかじめホルンから掏っておいた笛を取り出した。


「!それは」


 ルクシアが気が付いたみたいだけど、私は構わずその笛を吹いた。

 一周目でホルンが吹いた時と、まったく同じ音色と音量で。


「クロ!」

「ええ、集まって来てます」


 間もなく、部屋のあちこちに空いた穴や扉や窓から、三十人の黒服が飛び込んできた。

 ホルンの配下、帝国の暗部組織カメレオンの構成員たち。

 今はルクシアの支配下に置かれている、死を恐れない希少魔術師たち。


「………困惑、カメレオンがなぜ?」


 復活したリーフが戸惑うけど、カメレオンが全員同時に頭巾を外し、その髪色があらわになったことで、寝返ったんだと悟ったような顔をした。


「ちょっ、なんですのこれ!?」

「これが、染色魔法の力だっていうのか………!?」


 未熟とはいえ、三十人の希少魔術師。

 勝ち目は薄い。


 本来なら。


「《範囲掌握(エリアグラスプ)》」


 この場にいる全カメレオンの意識を共有する。

 一周目では、私が未熟だったから出来なかった。

 だけど、今なら。


「《精神侵食(メンタルインヴェイド)》!」


 一人にかけた精神を侵す魔法が、全員に共有される。

 希少魔法で抵抗したのが四人。

 即座にクロにその四人を伝達し、闇魔法で殺してもらった。


 総勢二十六人の希少魔術師が、これで私の支配下に置かれた。


「ワタシの染色魔法を、逆に利用するなんて。ふふっ、やっぱりすごいなあ。天才だね」


 ルクシアは少し驚いた表情の後、ニコリと笑った。

 心底感心したと言いたげなその顔が、私は逆に恐ろしかった。


「優秀。天才。そして、あと一歩のところで邪魔をしてくるこの手腕………」


 直後、私の予想が的中し、ルクシアから凄まじい殺気が放たれた。


「だからこそ、ステアさんを見てると思い出しちゃうなあ、あの女のことを………ハルちゃんを手に入れる本当に直前で、ワタシからハルちゃんを奪ったあの女のことをさあ………!!」


 今だからこそ分かる。

 この「あの女」っていうのが、スイのことだってことを。


「あの泥棒猫さえいなければ、ワタシは千年もの時間に耐えることは無かったのに!あの時ハルちゃんを手に入れて、二人で暮らせていたのに!確実に殺しておけばよかったと何度後悔したことか!………不思議だなあ、全然関係ないし見た目も違うのに、ステアさんからはあの女の面影を感じるよ。そっか、無性に腹立たしく感じるのはそのせいか」


 勘が鋭すぎるルクシアに少したじろいだけど、関係ない。


「カメレオン、全員でルクシアをっ―――」


 私の言葉は最後まで続かなかった。

 ルクシアの神速の攻撃が、一秒もの間放たれたから。

 私とルシアスは道順を分かっていたから辛うじて避けられたけど、三十人ものカメレオンに命令を出す余裕はなかった。


 一瞬で、カメレオンがズタズタに引き裂かれて全滅した。


 あまりに速すぎて返り血すら浴びていないルクシアは、無表情のまま私に迫ってきた。


「死ね」


 ルシアスすら避けきれない神速の攻撃が、私の喉に迫ってきた。

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