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第176話 ステアの絶望

※注意

この先、結構な胸糞展開があります。

苦手な方はバックしてください。

「んう………」


 頭に何かが落ちてくるみたいな感じがして、私は目を覚ました。

 ゆっくりと頭を上げると、そこはいっぱい瓦礫がある所。


「お嬢の、家?」


 そこは、私がお嬢たちと一緒に過ごした、ティアライトの家のすぐそばだった。


「なんで、私………」


 朦朧とした意識は、最後の記憶を辿って一気に戻った。


「そうだ、私、お嬢に………!」


 私は、帝国との戦いを終わらせるために、皇帝を倒しに帝国のお城にお嬢たちと行った。

 そしたら、皇帝はもう死んでて、フロムも殺されて。

 黒幕はルクシア・バレンタインで。

 ケーラもグルで。

 それで私は、お嬢にお腹を―――。


「っ!」


 まだ少し痛むということは、多分それほど時間は経ってない。


 考えろ。

 私はなんで、ここに移動してきた?

 そうだ、この下にある書庫に、何かあるかもしれない。

 お嬢たちを助ける何かが。


 私は指に嵌まっている指輪を見た。

 クロの闇魔法が詰まってる指輪。

 あと五回は使えるはず。

 私は立ち上がって、大書庫の真上にある部屋があったところに、指輪の魔力を流した。

 私を闇が包み込んで、下に降りていく。

 すぐに下に着いて、私は飛び出した。


「何か、何か………!」


 私は大書庫の中を漁り続けた。

 千年前の魔道具、魔法武器。

 お嬢の気に入っていたものは何かの暗示だったんじゃないかと思って、お嬢が見ていたものを、記憶にある限り全部探した。

 奥にあったいろいろな魔導書、禁術について書かれた書(お嬢の魔力がないやつ)、大書庫の中を引っ掻き回した。


 でも、何も見つからなかった。

 半日かけて色々調べたけど、何もない。


「…………………」


 お嬢が何かヒントを残しているのかもしれないって思ったのに、そうじゃなかった。

 ここに飛ばされたのは、ルシアスがとりあえず遠い場所と思って飛ばしたのがここだったとか、多分そういうのだ。

 とすると、ここで私に出来ることはもうない。


「やっぱり、戻るしか、ない」


 だったら、またお嬢たちの所に戻る。

 何もできないかもしれない。でもできるかもしれない。

 私の凄い大きな魔力は、お嬢のためにある。

 お嬢の傍にいられないなんて、絶対にイヤだ。

 だから私は、上に戻ろうとした。


「………?」


 でも、戻れなかった。


 なんで?

 指輪の魔力は、まだ残っているはずなのに。

 私は指輪を指から外して、灯りに照らしてみた。


 闇が消えてる。


 指輪は黒い宝石みたいで、使うたびにそれが消えて透明になっていく。

 使った時はまだ黒かったのに、指輪は透明だった。

 なんで、そんなことに。

 これじゃ上に戻れない。

 落ち着いて私。状況を客観的に分析しなきゃ。


 闇魔法の魔力が消えるのはどういう場合か。

 光魔法に当たった時。

 消す者を消した時。

 術者が、死―――


「違う!!」


 自分でも信じられないくらい、大きな声が出た。

 違う、違う。


 クロが死ぬなんてありえない。

 ―――何故?クロだって生き物だ、殺されれば死ぬ。


 クロは生きてる。

 ―――非論理的な考えだ。闇魔法が前触れも無く消えたということは、死んだというのが最も可能性が高い。


 違う、闇魔法は死んでも効果が残るはず。そうじゃなきゃあの大書庫の入り口の説明がつかない。

 ―――あれは『黒染めの魔女』ハルだからこそ出来た芸当だ。消したものこそ戻らないが、闇魔法は基本的には死すれば展開した闇はすべて消える。



 違う。

 違う違う違う違う違う違う!!



 自分の頭を何度も殴った。

 それなのに、自分の頭は勝手に分析を続ける。


 ―――クロほどの強さの人間が死んだ。ということは、他の三人、それにリーフも死んでいる?

 ―――ルクシアはお嬢に固執していた。しかもお嬢よりも強い。

 ―――あの強さ、三十人の希少魔術師、さらに死霊魔術師。


 ―――お嬢たちに、勝機は、



「うるさい!!!」



 自分の頭の中を、無理やり押さえつける。

 お嬢が、クロが、負けるはずがない。

 オトハもオウランもルシアスもついてる。私なんかいなくても、今にあの入り口から、「ただいま」って言ってくれるはずなんだ。

 だって、ずっとそうだったんだから。


 そう、そうだ。

 どうせ今は出れないんだ、本を読もう。

 この書庫にある本、全部覚えたら、きっとお嬢たちは褒めてくれる。

 精神魔法だけじゃない、色々な魔法の本を全部。

 そうすれば、きっとお嬢の力になれる。

 だから私は、一番隅っこの本棚から、一冊の本を取った。




 ***



 一日経った。

 お嬢たちは戻ってこない。

 明日はきっと戻ってくる。



 ***



 三日経った。

 もう二十の本棚の本を読破してしまった。

 お嬢たちは戻ってこない。




 ***



 一週間経った。

 百以上の本棚を制覇した。

 お嬢たちは、戻ってこない。



 ***



 二週間経った。

 最近、闇魔法を使わずにここから出ようとしてみたけど、無理だった。

 お嬢たちは、まだ、帰ってこない。



 ***



 一ヶ月経った。

 大書庫の半分を記憶に収めた。

 お嬢たちは、まだ…………帰ってこない。



 ***



 二ヶ月が経った。

 とっくの昔に大書庫の本は全部読んじゃった。

 完全記憶で全部覚えてる。

 なのに、お嬢たちはまだ戻ってこない。


 まったく、何をしているんだろう。

 ここの食べ物にも限界があるのに。

 きっと私のことを忘れてみんなで遊んでるんだ、きっとそうだ。

 まったく、お嬢は仕方がない人だ。

 クロもなんで私のことを思い出してくれないんだろう。

 帰ってきたら、天井に届くくらいのホットケーキを焼いてくれないと許してあげない。

 オトハも、オウランも、ルシアスも、私のこと忘れちゃうなんてひどすぎる。

 帰ってきたら、新しく習得したいろいろな精神魔法で懲らしめてやるんだ。



 ………だから、ねえ。

 早く、帰って来てよ。




 ***




 私の正確な体内時計が、三ヶ月経ったことを教えてくれた日だった。


 その時私は、お嬢がよく読んでいた本を積み上げて、じっくりと読み返していた。

 記憶していても、良い本は良い本だから。

 基本的にパラパラ捲って覚えるだけの私が、丁寧にページを捲っていると。


 出入り口から複数の足音がした。


「お嬢!」


 よかった。

 ほらやっぱり、私の頭なんかお嬢はよゆーで超えてくるんだ。

 きっと全部終わらせて帰ってきたんだ。

 やっぱり、お嬢は最強―――。



「わお、凄いところだねえ。まあうちの近くにも似たような場所はあるけどさ」



 私の中の何かが、音を立てて崩れ去った。

 お嬢じゃない。

 この女は。


「いや、ここを探し出すのには本当に苦労したよ。なにせノーヒントだからね、うちの精神魔術師の技量じゃノアマリーから記憶を抽出できなかったし、完全に手当たり次第だったもの。それに四大魔術師ベースの闇魔術師じゃすぐに魔力尽きちゃうしさあ」


 ノワール………違う。

 死霊魔術師で、クロと同じ世界に元々いて。

 ルクシアの側近の。


「ホルン………」

「おっ、覚えててくれたんだ。って、精神魔術師なら当たり前か。それでステアちゃん、アタシが何しに来たか分かるよね?」


 ホルンの近くに、クロじゃない黒髪の女がいる。

 ルクシアの染色魔法で髪色を操作されたってことだと思う。

 でも、なんでホルンがここに。

 お嬢たちが倒したはずじゃ。

 だって、そうじゃなかったら、私は。


「お嬢、たちは………」

「やっぱ知らないかー。ここの入り口は闇魔法みたいだし、クロが死んだからここから出られなくなってたってとこかな?そりゃ外の情報もわからないよねえ」

「違う………クロが、死ぬわけ………」

「死んだよ。アタシが致命傷を与えたからね」


 息が荒くなる。

 三ヶ月の間、絶対に考えないようにしてた仮説が、頭に無理矢理押し込まれる。

 もしかしたら、お嬢は、みんなは、もう………?


「ただ、ルシアスの最後の魔法で逃がされてさー、クロの死体だけ死体人形に出来なかったんだよね。同郷のよしみで大事にするつもりだったのに、まったく余計なことをしてくれるよ」


 お嬢に褒められた、私の良い頭が、今は恨めしい。

 色々な負の予測が知らないうちにたてられていって、しかも聞かなくていいことまで思わず疑問となって口から出てしまった。


「クロ、()()って………」

「ん?ああ、他の三人、いやリーフを入れたら四人か。ほら、アタシの後ろにいるでしょ」


 見たくない。

 見た瞬間、自分の何かが完全に壊れてしまう気がした。

 なのに、体は勝手に動いて、ホルンの後ろを覗き込んでしまった。


 そこには、私の予想通りの―――絶対に当たってほしくなかった予想の結果があった。


「あ、ああ、あああああ………!」

「いや、その。アタシだってこの子たち連れてくのは抵抗あったんだよ?でもご主人様が、その方が心を折るのに効率的だから連れてけってさ………」



 オトハ。

 オウラン。

 ルシアス。

 リーフ。


 四人の虚ろな目が、私のことを見つめていた。

こんなヤバい展開の時になんですが、ご報告です!

以前当選しましたとお知らせした、ネット小説大賞九様の四月付の応援イラスト企画のイラストが完成いたしました!!

プロローグの上部に差し込ませていただいたので、是非ご覧ください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 基本的に自分は胸糞展開が何よりも嫌いなのですが、この作品はなぜかすんなり読むことができました。 正直言って理由はわかりません。何しろ転生吸血姫の時は読むの嫌すぎて数話分溜め込んだ後流し読みす…
[一言] あえて言います。こんな形で主人公が変わるのを見たくなかったです。 吸血姫の作者の新しい百合作品だったので途中まで楽しく読ませていただきましたが、主人公たちに感情移入しすぎたせいか、ここ何話か…
[一言] いやいやいやマジですかこの展開…前作以上の絶望感じゃないですか…笑 ルクシアに勝つ方法なんて正直全く想像つきませんけど、ノアとクロ、それにステアが何とかしてくれると信じてます。いやー面白いで…
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