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第167話 封印魔法

 んな無茶苦茶なと、声を大にして叫びたい。

 決まった髪色を持たない魔法って、いくら黒幕にしたってチートすぎだ。

 だってそれはつまり、理論上『すべての魔法が使える』ということだ。


「自在に髪色を変えられる、ねえ」

「そう。ハルちゃんが光魔術師としてこの世界に転生しようとしたからこそ生まれた魔法。言わばワタシとノアちゃんの愛によって生まれた魔法ってことかな、ふふ♡」

「ちょっと何言ってるか分からない」


 うんざりするようなノア様の声という中々なレアなものも、染色魔法などという恐ろしい魔法の前ではかすんで見える。


「どうすりゃいいってんだ、そんな馬鹿みてえな魔法」

「おいおい、すべての魔法を使えるとか対策のしようがないだろ」


 どうすればいいのかと頭をフル回転させるけど、具体的な対策が全く浮かばない。

 ノア様とリーフの同時攻撃を防ぐような化け物じみた能力を持つルクシアに、どうやって立ち向かえばいいんだと、少し絶望しかけたのだが。


「あなたたち落ち着きなさい。あれ、そんな大した魔法じゃないわよ」

「ん、勝てないわけじゃ、ない」


 ノア様とステアはサラリとそう言った。


「やっぱりノアちゃんは気づくか。ステアさんもさすが」

「ど、どういうことですの?」

「ちょっと考えればわかるじゃない」


 わたしはノア様の言う通り落ち着くために深呼吸し、染色魔法の対策ではなく、魔法そのものについて考えてみる。

 ………ああ、そうか。


「なるほど。たしかに強力ではありますが、思うほどどうしようもない魔法ではなさそうですね」

「ええ」

「えっと………?」


 オトハは遅れて気づき、オウランもそれに続くが、ルシアスだけが分かっていないようだったので、仕方がなく説明する。


「ルシアス、あなたが空間魔法をそこまで習得するのにどれほどかかりましたか?」

「二年くらいだな、ステアの拷問………もとい、手助けがなけりゃもうちょっと遅かったろうぜ。それがどうかしたのか?」

「それと同じですよ。染色魔法とやらで髪色を変えても、使う魔法の質も、知識も、編纂の仕方も全く異なります。一つの魔法を極めるのに成長期を踏まえても十年、それ以外の時に習得しようと思えば二十年以上はかかります。だから、彼女の使える魔法はおそらくかなり限られています」

「おお、なるほどな」

「クロさん正解、さすがノアちゃんの見込んだ子ね。すべての魔法が使えるなんて、聞こえはいいけど一気に全部使えるわけじゃないもの。光魔法だけは魔力さえ上がれば即座に使えるくらい使い込んできたから問題はないけど、その他一つくらいしかマトモに習得はできない。だからワタシの使いこなせる魔法は、光魔法と水・氷雪魔法だけ」


 嘘は言っていない。

 それにしたって恐ろしい魔法なのは変わりないけど、隙が無いわけではなさそうだ。


「それより他人の髪色を変えられるって話だったけれど、もしかしてケーラやノワールみたいなあなたの側近は、あなたが髪色を変えたのかしら?」

「ううん、この子たちは元からあの髪色よ。みんな酷い環境にいたところをワタシが拾ったの。ノアちゃんを手に入れるのに尽力してくれた、大切な仲間よ」

「勿体ないお言葉でございます」


 ルクシアがケーラたちを見る目は、しっかりと仲間意識と慈しみに溢れていた。

 ヤンデレメンヘラクレイジーサイコレズだけど、仲間は大切にするタイプなのか。

 厄介だ、そういうタイプは寝返らせるの不可能に近い。


「さあ、ノアちゃん。お話はこれくらいにしようか」


 ルクシアは髪色を青に戻し、氷の剣を作り出す。


「もう我慢できないの。鼓動が抑えられない、一秒でも早くワタシのものにしたい、屈服させてあげたい………!さあノアちゃん、ワタシのものになって?」


 ノア様も光の剣を作り出すが、その手は相変わらず少し震えている。

 やはり、かつての戦いがトラウマになっているのかもしれない。


「クロ、ステア、オトハ、オウラン、ルシアス。あなたたちはそっちのケーラを相手しなさい。袋叩きにして、リーフの封印を解いて」

「かしこまりました」


 ノア様のことは心配だけど、あの実力のルクシア相手じゃわたしは足手まといだ。

 それなら、対抗できるリーフの封印を解かせるのが一番いい。


「先に言っておくわ、絶対に殺してはダメよ。慈悲とかではなく、封印魔法は希少魔法の中でも数少ない、『死後も効果が持続する』タイプの魔法。つまり彼女自身に解除させない限り、リーフの封印を解くことは出来ないわ」


 リーフは自分が足手まといになることを察知し、早々に退避している。

 正しい判断だ、さすがにわたしですら殺せるレベルにまで能力が落ちているリーフを戦わせることは出来ない。


「痛めつけるなり、操るなりして、とにかく魔法を解かせなさい。いいわね?」

「はい」


 わたしは振り返り、ケーラを見据える。

 他の四人も、一切油断していない顔で彼女に向かって各々の技を放つ姿勢に入った。


「これは恐ろしい。自分はルクシア様の四人の側近の中では最強と自負しておりますが、リーフ様やノアマリー様のような規格外の強さを持つわけではありません。あなたがた五人を同時に相手しては、まず勝機はないでしょう」

「それならば、リーフにかけた封印を早く解いてください。そうすれば拘束で済ませましょう」

「申し訳ございませんが、それはできません。それに―――」


 否定の言葉が入った瞬間、ルシアスの大剣とオトハの毒弾が繰り出された。

 顔見知り相手でも一切容赦のない二人の攻撃。

 だが。


「自分は皆さんに勝つことは出来ませんが、足止めすることくらいはできます」

「「!」」


 二人の攻撃は届くことなく、ケーラの直前で阻まれていた。


「なるほど、これが封印魔法」

「《空間封印(ディメンションシール)》、あなた方の攻撃が自分に着弾するまでの空間を封印しました」


 なるほど、少し理解してきた。


 封印魔法は、オウランの耐性魔法と似て非なる魔法と言ったところか。

 オウランが『威力を下げる』だとしたら、ケーラは『攻撃を届かせない』タイプの防御系魔術師。

 しかしルシアスとオトハから距離を取ったことから、封印は有限。

 おそらく、長時間の封印はそれに比例するだけの魔力を使うんだ。

 故に数秒の封印に止め、魔力を節約しようとするはず。

 なら、こちらの取れる手段は一つ。


「とにかく攻撃連打。ステアは精神攻撃を続けてください」


 全員がこくりと頷いた。

 そう、封印魔法を使いきらせればいい。

 単純だけど、効果的だ。

 じわじわ追い詰めて、最後にひっ捕らえれば済む話。

 と、思っていたが。



「さあ、果たしてそう上手くいくかなー?」



 声の方を振り向くと、そこには非常に端正な顔立ちをした少女がいた。

 顔は見たことがない。しかし、その髪色には見覚えがあった。


「まったく、さすがにここまで疑似魂を飛ばすことは出来ないから、モノホンの魂を使うことになっちゃったよ。自信作のあの魂を消滅させるなんて、酷いことするねえクロさん」


 濃い灰色の髪。

 死霊魔術師を指し示すその髪色を持つ人間を、わたしは一人しか知らない。


「ノワールですか」

「あははは、もう任務終わりっぽいし、本名名乗っちゃっていいかな?ってあ言い損ねてた、久しぶり筆頭」

「お久しぶりですね。それと、あなたの本名はおそらくもう全員知っているでしょう」

「だろうねえ、メロッタがめっちゃ大声で叫んでたし、多分―――」


 ノワールは、奥で目にもとまらぬ死闘を繰り広げているノア様とルクシアを眺めて。


「ご主人様も言っちゃってるでしょ?」

「ええ、思いっきり言ってました」


 改めて、ノワールが彼女の仲間だということを知らされる。

 ああ、ノワールじゃないのか。


「じゃあいいか、改めて自己紹介しよう」


 帝国を一人で引っ搔き回し、皇帝を殺し、フロムを殺した女。

 そして、わたしとおなじ異世界転生者。


「アタシの名前はホルン。ご主人様―――ルクシア様にすべてを捧げる死霊魔術師。あの御方の野望のために、ちょっと大人しくしててもらおうかな!」


 ノワール―――否、ホルンがそう叫んだ瞬間。

 入り口から、大量の人間がなだれ込んできた。

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