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第162話 完全なる死

 ノワールが魔法を唱えた瞬間、魔法陣から紫色の光が放たれた。

 次第にその光量は強まり、やがてわたしとオトハを覆う。


「な、なんですの!?」

「オトハ、わたしから離れないでください。死にますよ」

「はいい!?」

「あははは、安心しなよ。離れてようがくっついてようが死ぬから、さあ!」


 やがてノワールの姿すら見えなくなるほど強まった光は、やがてわたしの中に吸い込まれるようにして入ってきた。

 オトハの方も同様で、腹や腕を貫通して、体を蝕もうとしてくる。

 なるほど。これが死霊属性の最高位魔法か。


「最高位魔法、《魂の終着点(グレイビーヤード)》。闇魔法と酷似しているこの魔法の効果は、『生者を死体人形に書き換える』能力。魔法陣の範囲内にいる全生物の魂と、アタシが作り出す疑似魂を、強制的に入れ替えるんだ。つまり生者を死者に変える過程をすっ飛ばすわけ。そして魂というアタシしか感知できない不明瞭なものを操る以上、アタシの死霊魔法は『魔法抵抗力で防御できない』という特性がある。ここまで言えば、この魔法の恐ろしさが伝わるかな」


 やがて魔法陣を覆っていた光は晴れ、魔法陣の中心で立ち竦む二つの影だけが残る。


「アタシの魔法は、当たったら防御できない。つまりこの魔法陣に一度閉じ込めてしまえば、リーフだろうがノアマリーだろうが殺せる。性質は似ていても、闇魔術師と死霊魔術師じゃ、アタシの方が上手だったみたいだねー」


 ノワールは、勝ち誇った顔で二つの影を見ていた。


「あはっ、あははは!手に入れたよ、あのノアマリー・ティアライトの側近の死体人形を二体も!闇魔術師と毒劇魔術師の人形なんて、ご主人様がどれほど喜ぶかな!」


 強制的に魂を自らの作り出した疑似魂と入れ替える、防御不可の魔法。

 なるほど、反則だ。


「クロはちょっともったいなかったかなー、もうちょっと話してみたかったかも。まあいいか、アタシはご主人様と仲間かっこリンクは除くかっことじ、さえいればそれでいいしぶっはああ!?」


 だけどまあ。

 どんな魔法でも、規格外の強さでも持っていない限り対処できないようでは。


 あの御方の側近筆頭は務まらない。


「な、なんですの?何が起こったんですの?」

「驕りましたねノワール。奥の手を使うなら、それを外した時のための次の手を用意していないようでは、魔術師として二流と言わざるを得ません」

「な、なんっ、で………!?」


 オトハも無事で何よりだ。

 わたしにも死霊魔法の影響はない。


「んな馬鹿な!?ちゃんと魔法は発動したし、アタシの魔法は防御不可能だ!一体どうやって!?」

「その認識は正確ではありませんね。あなたの死霊魔法は()()()()()()ガードできないというだけで、その他の魔法防御ならば工夫次第で何とかなります」

「だから不可能だってば!魂なんて誰も感じることが出来ないでしょ!?それを操るんだから!感知も出来ないものを護れるはずないじゃん!」

「はい、たしかに死霊魔法に限定して防ぐのは不可能です。だから、()()()()()()を無効化しました」


 ノワールが訳が分からないといった顔をしたので、わたしはため息をついて説明する。


「まさか、わたしがさっきの雑談で何も用意していないとでも?あなたが先程の最高位魔法を用意している間、わたしだって最高位魔法を準備してたんです」


 いや、ノワールはそれに気づかないほど馬鹿じゃないだろう。

 だからこそ、先手必勝でわたしが魔法を放つ前にオトハごとわたしを殺そうとした。

 どんな魔法を準備していようと、発動させなければいい。それに、どの道ノワールの魂は別の場所にあるんだから、最悪食らっても死ぬことは無い。

 合理的な判断だ、ただ一つ誤算があるとすれば。

 わたしが編纂していた最高位魔法が、攻撃系ではなかったことだろう。


「闇属性最高位魔法、《失墜する全能(フォールンエナジー)》。その効果は、わたし自身とわたしが指定した人間に対する『魔法影響の無効化』です。誰が、どんな魔法を使おうと、数分間いかなる魔法も通用しなくなる。あなたの魂を操る力とやらも、根本である魔力の干渉を封じてしまえば無力化します」

「そんなのアリぃ!?」

「あなたが何かを企んでることは読めていました。しかしどんな攻撃系最高位魔法を編んでも、先に撃たれてしまえば意味がない、ただの博打になり下がります。だから先に防御したんです」


 《失墜する全能(フォールンエナジー)》は、魔力というこの世界の最大の特徴ともいえる力を、理に干渉して封じてしまう。

 それ故に使用する魔力も高いけど、才能の限界近くまで魔力を引き出しているわたしなら、一度くらいは戦闘で使ってもさほど影響がない。

 加えて、この魔法にはもう一つの利点がある。


「この魔法の最大の特徴。それは、相手からの魔法は防ぎますが、自分の魔力だけは封じない点にあります。つまり―――」


 わたしはお返しに、ノワールに対して手を掲げた。


「わたし自身は、魔法が使えるんです」

「魔法を無効化しといて、自分は魔法使い放題い!?チートでしょそんなの!」

「何とでもご自由に。そして、そろそろ決着をつけましょうか」

「えっ………」


 ノワールの頭上と足元に、黒い穴が出現する。


「ちょ、なにこれ」

「本来なら死体ごと消してしまうんですが、あなたの肉体はあなたの本体を探す重要な手がかりです。消すのはその疑似魂とやらだけにして差し上げます」

「何をする気!?こんなものっ!」


 ノワールは死霊魔法を駆使して脱出を試みる。

 しかし、出られない。

 当然だ、この魔法は一度捕らえてしまえば、光魔術師であるノア様以外は脱出不可能だ。

 そう、さっきわたしが編纂していた最高位魔法は、もう一つある。


「闇属性の最高位魔法の中で、これは最もシンプルと言えるでしょう。すなわち、死の力の強化版です。相違点をあげるとするならば、わたしの倍以上の魔法抵抗を持っていない限り抵抗できないこと。それに加えて、命ではないなにかを劣化させることによって殺すことです。その『なにか』が何なのかとずっと疑問に思ってましたが、ようやくわかりました」

「………あー。答えは魂なのね。なるほど、生きていないこの体を殺すには、アタシの疑似魂を殺すしかない。まさに対アタシ用にあるような魔法だ」

「そのようです」

「抜け出せない、防御できない、そして食らえば終わり。つくづく反則だなあ」


 ノワールは観念したように手を挙げ、ニヤリと笑った。


「オッケー、今回はアタシの負けだ。だけど悪いね、本体が生きてる以上アタシは死なない。すぐに戻って来て、殺すよ」

「そうですか、それはどうぞ頑張ってください」

「ははっ、同郷とは思えないくらいドライだ」


「《完全なる死(トゥルーデス)》」


 わたしの魔法が放たれた瞬間、ノワールの体は今までわたしが殺してきた人間と同じような動きをして。

 そして、動かなくなった。




 ***




「クロさん、終わったんですの?」

「はい。これで終わりです」


 周囲を見ると、それが顕著に表れた。


「あら?」

「うおっ」

「おっと」


 ノア様とリーフ、ルシアス、オウランが相手していたすべての死体人形が、役目を終えたように倒れ、ただの死体に戻った。


「ノワールの疑似魂が死んだことで魔法の操作権が本体に戻り、結果として射程範囲外になったんでしょう」

「なるほど」

「ちょっとクロ、もう少し遅くても良かったのに。禁術使いとの戦いなんてそうできるようなものじゃないのよ?」

「同意、まだ憂さ晴らしが済んでいなかった」

「おいおい、もうちょっとで仕留められてたのによー」

「正直僕も、まだ力を試したかったかな」


 なんで頑張ってノワールを倒したのに責められなきゃいけないのか。


「まあいいわ。オトハ、メロッタとかいうあの女は?」

「はい、お嬢様!倒して麻酔で眠らせてありますわ、あそこです!」

「あら、手際が良いじゃない。ご苦労様」

「ふ、ふへへぇ………」


 恍惚とした顔で悶え始めたオトハにリーフが若干引いている。

 今後行動を共にするなら、これに慣れてもらわなければならない。


「さて、じゃあ拷問………もとい、事情聴取を始めましょうか。少なくとも彼らの主人というのが誰なのかというのは、聞いておきたいわねえ」


 ノア様が黒い笑みを浮かべてメロッタに近づこうとする。

 しかし、それを腕をつかんで止めた人物がいた。

 リーフだ。


「主張。ノアマリー、その前にやらなければならないことがある」

「なにかしら?」

「進言、この場にもう一人、話を聞いておかなければならない人間がいる。その人物に先に話を聞くべきと考える」

「もう一人………?」


 ノア様すら首を傾げる、リーフの発言。

 その直後、リーフはレイピアを引き抜き、一人の人物に神速で近づき、その喉元に当てがった。


「要求、あなたが何かを隠しているのは分かっている。答えて」


 いや、待て。

 なんで、その人に刃を向ける?

 なんで―――?



「一体、何を隠してノアマリーたちに近づいた」








「ルクシア・バレンタイン」

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