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第161話 同郷

 この世界に、転生の魔法は二種類存在する。


 成功確率が低い代わりに、世界の理に干渉することによって次に自分が転生する場所や時間軸、髪色すら指定し、記憶を持ったまま次の生を謳歌することが出来る闇属性転生魔法《歪曲転生(リインカ―ネイション)》。

 時間や場所も大まかにしか指定できず、髪色も同じであることを条件に、習得さえすればほぼ100%成功する光属性転生魔法《再誕の日まで(リバースデイ)》。


 この二つの魔法は、あくまでこの世界からこの世界の次の世代に転生するものだ。

 そしてこの世界に、異世界から他人を呼び寄せる魔法など存在しない。

 だからこそ、わたしがこの世界に転生したのは、恐ろしく低い何らかの確率を引いてしまったからなのかもしれないと、勝手に自分で思っていた。

 魔法的なものではないはずなんだから、この世界に異世界からの転生者はおそらくわたししかいないだろうと。

 しかし、その仮説は今崩れ去った。


「異世界転生者かあ。これも元の世界ではありがちな展開だったよね」


 わたしの目の前に現れた、もう一人の異世界からの来訪者によって。


「最も、アタシが経験することになるなんて思わなかったけどさ。あなたはどうなの?異世界転生ヒャッホウって感じだった?」

「そう思いますか?黒髪のわたしが」

「違うだろうねえ。アタシも似たようなもんだった」


 ノワールはため息をついて、昔を思い出すように天井を見上げた。


「異世界転生の定番なら、超すごいチートで無双するとかそんな展開が待ってるのに、アタシに待っていたのは差別と貧困の最底辺の世界だった。ご主人様に拾われて、希少魔法の存在を教えてもらわなきゃ、アタシはこの第二の人生を何年も前に手放してたはずだよ。あなたもそうなんじゃない?」

「異世界転生の定番というものは知りませんけど、まあ否定はしません」

「ありゃ、もしかして異世界転生系とは無縁のキラキラした人生送ってた人?」

「逆です。底辺以下の生活で、そういうものに触れる機会がほとんどなかった」

「マジかー、それでこっちの世界では黒髪に転生?おたくの主人に出会ってなかったらリアルで死んでるじゃん」

「でしょうね」

「アタシは父親が虐待常習犯のクズでさー。十六歳の時に耐えかねて、母親庇って父親の喉笛にハサミぶっ刺したんだよ。でも親父ちょっとだけ生きてて、そのハサミでアタシも心臓抉られて死んじゃった。痛かったなーあれ」

「奇遇ですね、似たような境遇です。わたしもどうしようもない親に借金のかた代わりに売られかけて、これ以上利用されてたまるかという思いで自分に包丁を刺して自死しました」


 偶然にしては出来すぎた、あまりにも似た死の間際の状況。

 何か関係があるとしか思えないけど、今考えることではない。


 しかし確かに、わたしとノワールには共通点が多すぎる。

 異世界転生者であり、親に危害を加えられていて、最後は刃物で死んでいる。

 そしてどちらも劣等髪、しかも死を司る系統の魔法を持って生まれた。


「ついでに言うとね、アタシは王国で生まれたんだ。王国の当時名の知れてた盗賊の娘でさ、これがまた前世以下の毒親でさあ。子供は蹴るわ殴るわ、その衝撃で前世のこと思い出すくらい、昔から暴力受けてた」

「わたしは生まれて間もなく親に売られました。奴隷商に預けられて奴隷としての酷い教育を受け、いよいよ売られるって時の馬車転落事故で一人だけ生き残ったんです」


「でも五歳の時にたまたま近くを通りかかったご主人様が、その盗賊団を全員殺してアタシを助けてくれた。そしてアタシに、住む場所を、食べ物を、綺麗な服を、そして魔法を教えてくれた。アタシは蔑まれるような人間じゃないんだって、その髪色は誇るべきものだって言ってくれた」

「自由になったと思ったら、とある傭兵に騙されて大蛇の生贄にされかけました。闇魔法の暴走で何とか助かりましたが、そこでもう何もかもに疲れてしまって、いっそ目につくものすべて殺してやろうと考えてた矢先に、ノア様に拾って頂きました。あの御方にわたしは、すべてを頂いたんです」


 ―――気持ち悪いくらいに、わたしとノワールの境遇は似ていた。


 忠誠を誓った主人も、拾ってもらう経緯も違う。

 だけどこの世界に深く失望していて、それを主人に救ってもらったところまでそっくりだ。


「ぷっ………あはははは!なんていうかさ、アタシとあなたが互いの主人より先に出会ってれば、マジで魔王みたいな存在になれたんじゃない?」

「かもしれませんね。仮定の話をしても生産性がない気はしますが」

「そうだねえ。結果としてあなたはノアマリー、アタシはご主人様に拾われて、互いにしっかり心酔しちゃってるわけだし」

「わたしはそのご主人様とやらが誰なのかが気になるところですがね」

「さあ、それは言えないねえ」


 ノワールは飄々とした笑いを浮かべた。

 だけどそういえば、たしかにわたしとノワールの魔法は妙に似通っている。

 系統という問題だけではなく、今でこそぶつかり合ってるけど、これが手を組んでいた場合どうだろう。

 ―――わたしが殺した人間を、即座に死霊魔法で操れる。

 控えめに言って悪夢だ。

 異世界転生者同士が、こんなに相性の良い魔法を?

 これは偶然?それとも。


「さて、じゃあ雑談はこれくらいで終わりにしようか。いくら同郷とはいえ、今はどうしようもないくらいの敵同士だからね。ちゃんと殺し合わなきゃ」

「なんてドライな。同じ異世界転生者同士、殺したくないという気持ちの一つくらい芽生えないんですか?薄情ですね」

「じゃあ逆に聞くけど、あなたはそういう気持ちが芽生えてるの?」

「いいえ微塵も」

「それでよく人にドライとか言えたね!?」


 だって、まあ。

 前世に未練のある人間ならもっとこう、感動とかあったのかもしれないけど。

 わたしに関しては今に満足しすぎていて、前世に未練が塵ほどもないし。

 だから同郷と言われても、少しは驚いたけどその程度だ。

 今は敵同士、殺し合う意外に道はない。


「前世トークが出来たのは少し嬉しかったですよ。ですがお互いに譲れないものがある以上、どちらも引く気がないのなら、相容れることは不可能でしょう。別の主に拾われてしまった互いの運命にあれこれ言っても仕方がありません」

「いや、まあそうなんだけどさあ。あなたにだけはドライとか言われたくないわー………」


 ノワールは灰色の髪をガシガシとかいて、わたしに手を向けた。

 直後、わたしの体は衝撃波を受けたかのようにぶっ飛んだ。


「ぐっ――――!?」

「え?ク、クロさん!?」

「ああ、オトハ。既に一人倒してましたか、ナイスです」


 飛んだ先には、既にメロッタを気絶させたオトハがいた。

 さすがだけど、今はそっちに感心してる場合じゃない。

 ダメージはそこまでではないけど、何をされた?


「何をされたんだって顔してるねー。答えは単純、魂をぶつけただけだよ」

「………?」

「あらゆる魂にはね、適合する肉体ってのがある。自分の肉体は勿論、極稀に他人の体でも適合する体ってのは存在して、アタシのこの肉体が壊されたら既に用意してあるその肉体を使うことになるわけだけど。

 裏を返せば、ほとんどの魂ってのは肉体に合わずに互いに反発し合うんだよ。だからアタシがわざと適合しない疑似魂を創ってぶつければ、ただの衝撃波になるってワケ」


 なるほど。

 こっちには魂は見えないから、どこから来るか分からないし気配どうこうで感知できるような代物でもない。

 完全に不可避の、魂の衝撃波。厄介だ。


「しかし、種さえわかってしまえば厄介さは半減です」

「だろうね。大丈夫。もう打つ気はないから。というか、打つ必要がない」

「!」


 わたしが再びノワールに攻撃を仕掛けようとした瞬間。

 わたしとオトハを取り囲むように、足元に魔法陣のようなものが浮かび上がった。


「メロッタが負けるのは想定してた。いくらなんでも毒劇魔法と相性が悪すぎるからね。アイツもそれが分かってたからこそ、ちゃんと時間通りに負けてくれた」

「なにをっ………」

「消耗した毒劇魔術師と闇魔術師、同時に屠る方法は―――一か所に集めて、最高位魔法で一気に叩くのが一番効率的でしょ?」

「たしかにそうですね」

「クロさん!?納得してる場合ですか!?」

「楽しかったよ、クロ。同郷のよしみだ、一瞬で殺そう」



「《魂の終着点(グレイビーヤード)》」

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