第160話 共通点
辺り一帯を観察すると、この場の全員の戦況が分かる。
「あはははは!ほらほらどうしたの、元帝国最強ってその程度!?」
「面倒、死人故にいくら致命傷を負わせても起き上がってくる。機を見て消し飛ばす」
ノア様とリーフはウェントゥスを圧倒。
「おいおいおい、普通に強いぞこいつら!はっはあ、いいねええ!!」
ルシアスは二体の死体人形相手に派手に暴れまわり。
「ふん、同じ属性が二人なら完全耐性を一つしか付けられない僕でも対応できる。水魔法は効かないぞ」
オウランは別の死体人形二体に対して完全耐性で無双。
「どうしました、意味深な感じで降ってきてその程度ですの!」
「クソッ、相性の問題さえなければこんなヤツ………!」
オトハは金属魔術師のメロッタ相手に押している。
差はあるものの、全体的にはわたしたちが優勢だ。
ステアとルクシアさんとケーラさんも、ルクシアさんの超がつくほど優秀な水の結界で守られているし、あれを破れるのはノア様とリーフくらいだろう。
つまり、現状で最も苦戦しているのはわたしということだ。
「《結集される暗黒》」
「《魂の嘆き》!」
「うくっ………《邪剣の薙ぎ》!」
「ぐううっ!?」
苦戦とはいっても、決して劣っているわけではない。
互角だ。
完っっっっ全に、互角。
「ハァ………ハァ………」
「フーッ、フーッ………」
死霊魔術師に、わたしの闇魔法の死の力は効かない。
しかしそれなら、直接肉体に干渉して体を消してしまえばいいと思ったけど、ノワールが想像以上に強い。
それ故に、ピンポイントで使わなければならず、動きも遅い広範囲系の闇魔法を使う機会がない。
そしてノワールも、死体人形をすべてかかりきりにする羽目になり、使えるのは自分の肉体だけ。
お互いにハンデを背負った状態で戦っている。
しかしそれを差し引いても。
「この肉体は死体だから、脳のリミッターなんかない!昔からよくあるヤツだよねー!」
「さあ、わたしはあまりフィクション系の本を読まないので」
「おっと!?その劣化能力も結構ファンタジーにはありがちだ!」
この女は手強い。
総合的な実力はわたしが上回っているけど、死体だからこその特性でとてつもない耐久力と身体能力。
加えて、魂を操るその魔法も、わたしに随分と悪影響を及ぼしてくる。
しかしわたしもやられっぱなしではなく、《魔王の邪剣》をはじめとする急速劣化の魔法で既に体の数ヵ所を腐蝕させた。
今の戦況は、完全に五分五分と言っていい。
「唐突だけどさ。あなたは魂はどこに宿ると思う?」
「何ですか突然」
「いいじゃん。どうせどっちも体力を回復したい頃でしょ?ちょっと雑談でもしようよ」
「…………………」
まあ、たしかに少しは魔力と体力を回復したい。
乗っておくか。
「脳では?」
「ぶっぶー」
「じゃあ心臓」
「違う」
「体全体」
「惜しい!」
「じゃあどこに?」
「答えはね。体の外側にあるんだよねえ」
「………?」
体の、外側?
「魂は常にあらゆる生物の外側を覆っている。誰にも干渉できない、出来たとしても即座に治ってしまう。そしてその大きさは、その人物の総合的な強さに比例する。ほら、よく『オーラが違う』とかいうヤツあるでしょ?あれはペテンじゃないなら、魂の質量を無意識で感じ取ってるんだよ」
つまり、体を覆うオーラこそが魂の正体だと。
随分と突飛な話だけど、魂を操る魔術師が言うなら正しいのかもしれない。
「そしてアタシの死霊魔法の特性は、その魂の色と大きさを知覚できること。悪意がある人間、生粋の善人、優しい嘘つき、悪い正直者、見るだけでどんな性格してるのか、どの程度強いのかがなんとなくわかる」
「ほう。じゃあわたしたちの魂のオーラとやらも見えているんですか」
「見えてるよ。そしてアタシとあなたの魂は、かなりの精度で酷似している」
「そうでしょうね」
「ありゃ、一緒にするなって言わないの?」
?別に、当然のことだろう。
「互いに主人に忠誠を誓っていて、主人のためならどんなことでもするある種の異常者。しかも互いにジャンルは違えど死を司る属性の魔法となれば、似ていて当然でしょう」
「あははは、異常って自覚はあるんだ!自覚してるヤバイヤツが一番ヤバイとは聞くけど、まさに典型例だね!ま、アタシも人のこと言えないけど」
ノワールはニヤリという擬音が似合いそうな笑みを崩さず、少しこっちに近づいてきた。
「でも、アタシが似てるって言ったのはそういう点だけじゃないんだよね」
「じゃあなんですか。性格も忠を誓う主も違うわたしたちの共通点と言えばこれくらいでしょう?」
「いやいや、もう一つあるような気がするんだよね。とびっきりの、これ以上ない共通点が」
気がするってなんだ。
確定じゃないのか。
「ねえねえ、好きな食べ物は?」
「クリームパンですが。これが共通点ですか?」
「嫌いな食べ物」
「特にありません」
「枕は固め派?」
「柔らかい方が好きです」
「好きな本のジャンルは?」
「強いて言えばノンフィクション系です。で、何なんですかこれ」
「趣味は?」
「強いて言えばノア様のお世話でしょうか」
「好きな飲み物は?」
「紅茶とリンゴジュース」
「嫌いな飲み物は?」
「ミルクが入ったコーヒー」
「得意料理は?」
「ホットケーキ」
「好きな色は?」
「金」
「何フェチ?」
「セクハラで殺しますよ」
「無人島に一つ持っていくなら?」
「気球」
「聞かれて困る質問は?」
「こういう質問攻めです」
「過去に戻れるならいつに戻りたい?」
「無視ですか、煩わしい。………別に過去があって今のわたしがあるので、戻りたいと思ったことはありません」
「主人以外で憧れている人は?」
「いません」
「必ず持ち歩いているものは?」
「ノア様の化粧セット………いつまで続くんですかこれ、まあ体力回復になるので構いませんが」
「好きな花は?」
「………金木犀」
「苦手なタイプの人間は?」
「あなたみたいなタイプです」
「湯舟派?シャワー派?」
「湯舟派」
「欲しかったひみつ道具は?」
「あらか〇め日記」
「好きだったアニメ映画は?」
「風の谷のナ〇シカ」
「好きだったゲームは?」
「うちがどうしようもない毒親だったのでほとんどやったことありませんが、まあ強いて言うならまだ裕福だった頃にやったドラゴ―――」
え?
なん、で。
「へえ、ドラ〇エやったことあるんだ。アタシはⅧが好きなんだけど、そっちどう?」
「え、いや、なんっ………?」
なんで。
なんで、知ってる。
あまりに自然に聞いてくるから、頭が追い付かなくてつい三つ目まで答えてしまったけど。
有り得ない、その話は、この世界でわたししか知らないはずなのに。
「ほら、言ったでしょ?魂の色が似てるって。性格的なところじゃなくてね、こういうところが似てたのよ。アタシと同じ色を今まで見たことがなかったからもしやと思ったけど、まさか本当にそうとはねー」
いや。
わたしがそうなのに、他にいないと思うのは、少し驕っていたのかもしれない。
わたしみたいなのが来れたんだ。
他にいたって、不思議ではない。
「あなた………異世界転生者?」