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第159話 オトハvsメロッタ

 金属同士がぶつかり合う音と、何かが溶ける音が幾重にもなって聞こえてくる。

 金属がぶつかる音は、メロッタによって無数に生み出された刃が鳴らす音。

 溶ける音は、その刃をオトハが溶解している音だ。


「タイプ50、《猛毒の飛沫(ヴェノムスカッター)》!」

「《鋼鉄の自転剣(メタルサークラー)》!」


 超速で動く鋼の刃に、オトハは落ち着きを持って一つずつ溶かしていく。


「このっ!」


 メロッタが多種多様な金属で攻撃するが、オトハは冷静に的確に、最も効率のいい溶解液で金属を溶かしていく。

 元々のセンスに加え、クロの異世界の知識が、オトハをさらに強化している。

 防戦一方に見えるが、優勢なのはオトハだった。

 その一因として、金属と溶解液の化学反応が挙げられる。


「うぐっ!?」

「勘がいいですわね、普通なら今ので終わりなのに」


 オトハとメロッタどころか、前世の生前は中学生だったクロすら知る由もないことだが、金属を溶解することで有害な気体が発生する。

 例えば、銅と硝酸を反応させることで、呼吸器に多大な影響を与える二酸化窒素が大量に発生するなど。

 そしてこれらの毒ガスはメロッタには致命的だが、あらゆる有害物質に対する完全耐性を持ち、しかもそれを自在に操れるオトハにはむしろプラスにしかならない。

 発生した端から毒劇魔法で干渉・操作出来るようにするだけにとどまらず、未知の毒であれば解析して生成可能にする。

 つまり、戦えば戦うほどオトハが有利になっていく。


「プハッ!ケホッ、ケホッ!」


 毒ガスを噴射され、咄嗟に皮膚を金属で覆いつつ息を止めてガードしたメロッタだが、その想像以上の相性の悪さとオトハの強さに愕然とする。


(ぐっ、まさかここまでとは!総合的な強さでは互角くらいのはずなのに、型に嵌まるだけでこうも恐ろしいのか!)


 オトハはノアが絡むとポンコツだが、こと戦闘時での冷静な判断力に関しては側近の誰よりも抜きんでているのだ。

 一度自分の領域に入れてしまえば、あとはじわじわと毒を蓄積させていくだけ。

 ノアやリーフのような規格外相手じゃなければ、オトハはほぼどんな相手にでも対応できる万能型。

 しかも金属が相手となれば、格上だって倒せる可能性すらある。


「くっ、調子に乗るな!」

「!」


 しかし、メロッタも決して劣ってはいない。

 気は進まなそうだったが、上空に一つの巨大な物質を作り出した。


「《金の巨剣(デュランダル)》!」


 純金で出来た巨大な剣を、オトハは咄嗟にドーピングで回避した。

 一撃で地が崩れ、下層がむき出しになる。


「金まで作れるとは、一家に一台欲しい魔法ですわね………」


 ―――厄介だ。

 オトハは歯嚙みした。


 というのも、純金はその性質上、ほとんどの溶解液に耐性を持つ。

 つまり、オトハの毒をもってしても金を溶かすことは出来ないのだ。

 金属魔術師であり、すべての金属の性質を把握しているメロッタはそれを知っている。

 だからこそ、リスクを冒してでも金が必要だったようだ。


(しかしおそらく、これで彼女の魔力はかなり削れたはず。彼女の今まで生成してきた金属は銅や鉄といった簡単な物ばかり。ここから考えられるに、金属魔法の消費魔力は、その金属の『希少価値』に比例していると考えられます。金なんて恐ろしく貴重なものをあれだけの量生み出したなら、おそらくここからはあの金を分裂させて攻撃するしかないでしょう)


 オトハの予想は完全に的中していた。

 金をこれだけ生成したことにより、メロッタの魔力は金属操作の余力を残しているだけで、既にほぼ尽きている。

 これは、メロッタが長期戦は不利になると踏み、一気に畳みかけようとしていることを表していた。


「いけ!」


 金の剣は二つに分裂し、オトハに襲い掛かる。

 ドーピングしているとはいえ、側近の中で身体能力はステアに次ぐワースト二位のオトハには、メロッタの魔力が完全に尽きるまで躱し続ける余力はない。


「―――仕方ありませんわね」


 しかし、オトハはあくまで冷静だった。

 腰にあるポーチの中から小さい、しかし丈夫で性能の良いやすりを取り出し、隙をみて金をほんのわずかに削った。

 そして、あろうことかそれを、舐めた。


「なにを―――?」


(これを溶かすには―――タイプ4とタイプ13を混ぜ合わせる必要はありそうですね。あら、反応が薄い。ということはもっと違う毒を?いえ、強力で親和性が高いこの二つは必須。でもここに別の毒を加えると妙な邪魔になります。ということは、比率の問題?少しずつ生成して反応させていきますか)


 オトハは金を体内に取り込むことで、体内で生成している毒の実験に使ったのだ。

 結果、短期間でオトハは見つけ出してしまった。

 金を溶かす劇物を。


「これでラベリング番号100突破。もう少しレパートリーは増やしたいですが、良い毒が出来ましたわ」


 オトハには知る由もないことだが。

 オトハが合成したタイプ4とタイプ13は、クロがかつていた世界では『濃塩酸』と『濃硝酸』と呼ばれるものだった。

 この二つの超がつくほど凶悪な強酸を、3:1の割合で混合したもの。

 クロの元の世界では、その毒はこう呼ばれていた。


 王水と。


「タイプ100、《毒原液(ヴェノムハザード)》」


 オトハが意図せずして作り出したこの毒液は、化学の世界で『金と白金を唯一溶解できる液体』とされている。

 銀などの一部の例外を除き、ほぼすべての金属を溶かすことが出来る、極めて恐ろしい毒液だ。

 メロッタの虎の子である純金は、王水を掛けられた端から見るも無残に溶かされていった。


「なにいいっ!?」

「金は溶かせないと慢心したのが運の尽きでしたわね!」


 クロが見たら、『何故ファンタジー世界で化学で戦ってるんだこいつら』と呆れるような光景だ。


 オトハは金をものともせずに近づいていく。

 メロッタにはもう、オトハに対抗できる金属は無いし、あったとしても残った魔力では作り出せない。

 最後のあがきで残った金属をすべてオトハにぶつけたが、多少の傷をつけただけですべて対処された。


「これで終わりですの?」


 そして。

 オトハの指が、メロッタに突きつけられた。


「一歩でも動くか、魔法を使うそぶりを見せたら即座に殺しますわ。それとも自殺でもします?私は一向に構いませんが」

「………クソッ」


 誰が見ても、オトハの勝ちというのは明らかだった。


「自殺か。そうしたいのはやまやまだが、それは主君様に止められている。だからここは素直に降参しておこうか」

「そうですか。ぽっと出てきてぽっと退場とは悲しい人ですわね」

「誰のせいだ」


 オトハはメロッタに麻酔を打ち込み、眠らせた。


「相性の差で勝ちましたが、このレベルの希少魔術師を従えるとは―――主君様とやらは、一体どんな人物なんでしょう」


 オトハは思考を巡らせるが、さすがに見当もつかない。


「まあ、考えても仕方ありません。皆の加勢に―――」


 そう言いかけた途端、空から何かが降ってきた。

 それは。


「ク、クロさん!?」

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