第157話 武器の支配者
薄紫色の髪。
そして、刃の雨。
ここまで来たら、誰だって気づく。
「てか、速かったねメロッタ。もーちょいかかると思ってた」
「既に城の中で待機していたからな。あの者たちが兵士をほとんど殺してきてくれたおかげで潜入しやすかった」
一人、増えた。
希少魔術師が。
「まずは挨拶だな。初めまして、ノアマリー殿の側近の皆さん。わたしの名はメロッタ。ホル………じゃなくて、ノワールと同じく、主君様に忠義を誓う希少魔術師だ」
「これはどうもご丁寧に。わたしはクロと申します。以後お見知りおきを」
律儀な女性だ。
というかノワール、本名はホルンっていうのか。
随分と可愛い名前だな。
「立てるか?」
「当然。てか、アタシ自身は怪我してないしね。それよりメロッタ、アレ持ってきた?」
「ああ、四人ほどな。それ以上はさすがに無理だった」
「十分」
何の話か知らないけど、何か企んでるならその前に倒せばいいだけ。
死霊魔術師のノワールには通じないけど、メロッタと呼ばれていたあの女になら。
「《死》」
「ぐ、おっ………!?」
魔法抵抗で一度目は失敗。
けど、リーフのようにわたしを完全に上回る魔力を持っているわけでも、フロムのように抵抗力を高めるマジックアイテムを持っているわけでもなさそうだ。
これなら何度かかけ続ければ、いずれ抵抗が弱まって殺せる。
そのための修業を、リーフたちが襲撃してきたあの日以来続けてきたんだから。
「ふう、危ない。抵抗こそできたが、やはり主君様のおっしゃっていた通りだ。闇魔法、なんと恐ろしい魔法だろう」
「相手を問答無用で殺すとか反則だよねー、まあアタシには効かないんだけど。メロッタ、また撃たれる前に早くあれを」
「ああ」
メロッタは上空に手を掲げた。
すると、上から四つの銀で出来た箱が落ちてきた。
その箱はサイコロを展開するように開き、中から四人の人間が出てくる。
………いや、違う。
四人の、死体か。
「おいおい、こいつぁ………」
「また敵が増えましたわね」
生気がないにもかかわらずゆっくりと起き上がる四つの死体たちは、虚ろな目でわたしたちを見てきた。
「アタシが持つ、ウェントゥス以外では最強の四体の人形だよ。将来的にはここにリンクを加えられたら言うことなしなんだけどねー」
「遠回しにリンクに死ねと言っているのか………」
「そーだよ、そもそもアイツ何やってんの?もう帝国にいるはずでしょ」
「誘ったのだが、お前がいるから絶対にイヤだと」
「あいつマジでそろそろ殺そっかなー、すっごい苦しい死に方してほしい」
まだ仲間がいるのか。
ノワールと仲は悪いみたいだけど。
「さあ、始めようかね!」
ノワールがそう号令をかけた瞬間。
四体の人形が、一斉に飛び掛かってきた。
属性は水が二人、炎が一人、風が一人。
「来るぞ!」
ルシアスがそう叫ぶのと同時に、一斉に四人から魔法が放たれた。
全員が回避し、散開する。
「ステア!」
「《精神―――》」
「させるか!」
「うくっ………!」
ステアがメロッタを殺そうとするが、直前でノワールの人形の一体がステアに襲い掛かる。
間一髪で躱したみたいだけど、やっぱりまずい。
わたしやオトハは一瞬で殺すことを封じられているだけで、溶かしたり消したりすることは出来る。
けど死人故に精神が存在していない死体人形とノワールは、ステアにとってこれ以上ないほどの天敵だ。
ノワールが邪魔する限り、ステアがメロッタを攻撃することは出来なさそうだ。
「ステア、あなたは下がっていてください、相性が悪すぎます!」
「でも………っ、わかった」
ステアは一瞬口ごもったけど、やがてルクシアさんたちの結界の中へと入っていった。
「ルシアス、わたしの闇魔法が効かない以上、あなたのその腕力がノワール攻略の鍵です。お願いします」
「………」
「ルシアス?」
返事がない。
ルシアスの方を見ると、それどころじゃないと言わんばかりの焦ったような表情をしていた。
しきりに背負っている大剣に力を込めているけど、何をしている?
「ルシアス、どうしたんですか?」
「剣が、抜けねえ………!」
「え?」
ルシアスが抜けない?そんなバカな。
岩に刺さった選ばれしものだけが引き抜ける聖剣とかすら、腕力だけで引っこ抜いてしまえそうなこの男が?
「くそっ、どうなってやがる!?」
ルシアスが再度力を込めると、あっさりと剣は抜けた。
「なんだ、抜けるじゃ―――」
わたしの言葉は最後まで続かなかった。
突如、ルシアスの剣が勝手に浮きあがり、ルシアスを攻撃し始めた。
「うおおっ!?」
「何事ですの!?」
「って、うわっ!?僕の弓矢も!」
見るとオウランの弓も浮き上がり、そして矢が勝手にオウランに向けて降り注いでいる。
何が起きている。
「メロッタ、そのまま二人押さえてて」
「ああ」
そうだ、あのメロッタという女が来るまでは二人はちゃんと剣と弓を扱えていた。
ということはこれは、彼女の魔法だ。
念動力のような力?
それならわたしたちに直接攻撃してこない理由が分からない。
武器を操る力?
違う、それならさっきの死体入れの箱を動かせていた理由にならない。
考えろ。あの女の魔法は何だ。
「うおおおおっ!?畜生、まさか剣が敵に回るとは!」
剣が敵に回る。
物に意思を与える魔法―――違う、そんな恐ろしい力があるならこんな遠回しなことをやらずにわたしたちの服とかを操ればいい。
待て、そうだ。
メロッタが最初に降らせた刃の雨。
死体入れになっていた丈夫そうな箱。
ルシアスの剣。
オウランの弓矢。
これ、全部。
「なるほど」
種さえわかれば、あとは簡単だ。
「ルシアスすみません、《物質消去》」
ルシアスの剣を消し、続いてオウランの矢も消す。
「あああっ!?俺の剣が!」
「あれ?僕の弓は消さないのか?」
「ええ、あれだけあっても意味がないはずですから」
わたしはしばらく、オウランの弓を眺めていた。
すると少しして、糸が切れたようにカランと音を立てて弓は落ちた。
つまり、弓を操ったのはついで。
彼女の本命は矢―――否、弓矢そのものを操れなかったのか。
「オトハ、あのメロッタという女はあなたが相手してください」
「え?私ですの?」
「はい、魔法の相性的に適任かと」
「てことは、あの女の魔法が何かわかったのか?」
「はい」
気づけば簡単だ。
なんてことはない。
「あの女の魔法は―――金属です」
「金属?」
「はい。最初の刃の雨、あの鉄製の箱、そしてルシアスの剣もオウランの弓も、金属を含んでいます。彼女の魔法はおそらく、金属を生成して操る、そして既存の金属を自分の手足のように操る魔法でしょう」
「ふむ、さすがはノアマリー殿の側近筆頭。この短時間で見破って来たか」
メロッタは薄笑いを浮かべ、自らの周囲に弾丸のようなものを数発作り出した。
「お察しの通りだ、わたしの魔法は《金属魔法》。世の中に存在するあらゆる金属を支配する魔法だ」
「やはり。だからオウランの弓で矢を射出出来なかったんですね。弓は持ち手こそ金属ですが、弦の部分は麻糸ですから」
「ああ、不便な魔法だよ。それなりに応用は効くがね」
メロッタは自らの背後に、何本もの剣を創りだした。
それはヒュンヒュンと音を立てて回転を始め、さながら延々と回り続ける手裏剣のようだ。
「冗談じゃねえぞ、金属を操るとか!この世の大抵の武器があの女には機能しなくなるじゃねえか」
「はい、それどころかすべてが彼女の思いのままとなれば、かなり恐ろしい魔法です。しかし、こちらにはこの子がいます」
そう、相手が金属なら。
「なるほど、そういうことですか。じゃあ私の出番ですわね!」
どんな金属も溶かす、最強の溶解使いをぶつければいい。
「頼みましたよ、オトハ」
【重大発表】
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