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第155話 禁術の書

 以前、ルクシアさんに聞いたことがある。

 リーフが皇衛四傑に選ばれた経緯、親殺し。

 リーフは自らの実の父親を一騎打ちで殺害することで、皇帝にその実力を認められ、その地位を簒奪したと。


「その親殺しの経緯は国民こそ知らなかったけど、軍上層部は誰もが知ってた。だからこそ、ウェントゥスを尊敬していた軍の人間からのリーフへの反発は大きかった。とりわけ、そこに転がってるランドなんかはウェントゥスを崇拝していて、だからこそリーフを恨んでたらしいよ」

「納得、道理でランドがウチに妙に突っかかってくると思った」

「あなた、知らなかったの?」

「肯定、別に興味がなかった」


 それはまあ、あれだけの実力差だ。

 リーフにとってランドなんかはちょっと強い雑魚程度の認識でしかなかったかもしれないし、そうでなくてもそこまで警戒するような人物ではなかっただろう。

 にしてもちょっと可哀想ではあるけど。


「だけどノアさん、あなたとリーフなら楽々倒せるのではー?リーフ一人でも倒せるくらいの強さなのでしょう?」

「否定。ルクシア・バレンタイン、それは違う。父は当時、ウチに迫る強さを持つ魔術師だった。二年前でその実力とはいえ、侮ることは出来ない」

「どうなってんだリュズギャル家」

「二年前は、この頭おかしい強さの風魔術師が二人いたってことですか………」

「当時の強さだからリーフもまだ言うほど強くなかったんでしょうけど、それでも警戒はしなくちゃいけないわね」


 ノワールは、死霊魔法を『感情と成長を失った人形に変える魔法』と言った。

 これはつまり、死人を操ることは出来るけど、生前以上のスペックを出すことは出来ないということだろう。

 つまりリーフは成長して覚醒にまで至り、ウェントゥスはそのまま。

 だけど、ノワールはそれを見て余裕そうに笑っている。何か裏があるのだろうか。


「リーフ、あなたがそこまであの男を警戒するというのは、何か理由でもあるの?それとも、二度も親を殺したくないという子供心?」

「否定、別にあの男を殺したことについてはそれほど大きな感情を抱いてはいない」

「おい」

「説明、あの男はかつて、この国を乗っ取ろうとした。だから殺した」

「どういうことですか?」

「そこの説明はアタシがしてあげましょうかねー。娘の口から父親の悪行を語るってのも酷な話でしょう」


 親代わりっぽかったフロムを殺した女が何か言っているが、さすがに耳を傾けざるを得なかった。


「ウェントゥス・リュズギャルは、二年前までフロムと肩を並べる帝国の二大壁と恐れられた天才風魔術師でした。しかし同時に非常に野心家でもありましてね。下級貴族であるリュズギャル家を、皇族に押し上げてやろうなどとが策していたそうです。そこで色々と知恵を働かせていた彼が偶然出会ってしまったのが―――」


 そこで言葉を区切ったノワールが、懐から一冊の本を取り出した。


「こちら。『ハルの呪術書』と呼ばれる、凶悪極まりない魔導書です」


 ふむ。

 ………ん?


「ハル?」

「ハルって………」


 側近五人がノア様に目を向けると、さっとノア様は目を逸らした。


「ハルの呪術書は、千年前に実在した大魔術師が書いたと言われる、世界に点在するあらゆる禁術と、それを身に宿す方法について書かれた恐るべき本です。今は封印してありますが、一度ページを開いてしまった者は、その感情と理性を失い、狂ったように禁術に手を染めてしまうと伝えられています」


 ステアがくいくいとノア様の袖を引くが、それすらノア様は無視する。


「帝国の最深部に封印されていたこの書を、ウェントゥスはあろうことか開いてしまったんです。自分なら使いこなせるとでも思ったんでしょうかねー。案の定ウェントゥスは禁術の虜にされ、それを習得してしまったんですよ」


 ノア様が逃げそうな雰囲気がしたので、腕を力強く掴んだ。

 ルシアスももう一方の腕を掴む。


「そして禁術で超強くなったウェントゥスを、娘のリーフが殺して解放してあげたっていう、なんともビターエンドの話ですよ」


 わたしはステアの方を向いて目くばせをした。

 聡明なステアはそれだけでわたしが何を言いたいのか察してくれた。

 つまり、側近とノア様だけでの念話だ。


『ノア様、ご説明を』

『ハルってアンタのことだよな?』

『そ、そうだったかしら?』

『お嬢、とぼけるのは、無理』

『あのう、お嬢様。さすがにこれは………』

『感情と理性を失う本って、絶対闇魔法ですよね。どういうことですか』


 ノア様はしばらく黙秘していたけど、わたしたちが引き下がらないのを見てついに折れた。


『………私が書いたわ』

『でしょうね』

『その、誤解しないでほしいのだけれど、別に世界を混乱に陥れようとして作ったわけじゃないのよ。禁術についての実験を国で行っている時に、研究結果をまとめた本に鍵代わりとして闇魔法を付与しておいただけなの。許可のない人間が開いたら情報の流出を阻止できるし、禁術の実験体も出来るしで一石二鳥だって思って』

『ひでえ………』

『その研究ノートが死後に最悪の魔導書として封印されたわけですか』

『さすがはお嬢様、やることがえげつなすぎですわ』

『リーフに話したら殺されても文句言えないですよ』


 千年前から世界征服企んでた、黒色を不吉の色として定着させたほどの悪の権化だったとはいえ何してくれてるんだこの人は。

 いっそルーチェに管理されてた方が世界の清潔さという意味では良かったんじゃないだろうか。


「リーフ、その、あなたは下がっていた方がいいんじゃない?父親を二度も手にかけるなんて、思うところもあるでしょう」

「………?困惑、あれは父じゃない。もう死人なんだから、二度殺すというのは語弊がある」

「いいえ、それでもよ」

「そもそも父は奥さんがいるのに片端からメイドや使用人孕ませて同い年の兄弟姉妹をたくさんこさえた馬鹿。別に十回や二十回殺したところで心も傷まないし、正直禁術で頭がパアになった時はちょっとざまあみろって思った」

「じゃあ問題ないわね」

「大ありです」


 さばさばしすぎだろリーフ。

 あの呪術書とやらがノア様が書いたものだと知られても恨まれることはなさそうだし、むしろ感謝されそうな勢いだけど、父親を殺したことに対して随分と割り切りすぎだ。


「補足、野心は強かったけど外面はよくしていたみたいだから、ファンも多かった。だからこそ禁術書が封印されているところにも入れたんだと思う。それで乗っ取られていては世話ないけど。でもそれを差し引いても、あの本は危険」

「まったく、忌まわしい本があったものね。今後被害者が出ないように破壊するべきだわ」


 どの口が言うんだと、主人じゃなければひっぱたいてたところだ。

 何を黒歴史密かに葬ろうとしてるんだこの人は。


「ま、この本は本当に偶然拾ったものなのでどうでもいいんですけどね。ウチの御主人様が欲しがるかもなって思って持ってるんですよ。だからあんまりあげたくはないんですよねー」

「じゃあ力づくで奪うしかなさそうね」

「さあ、そう簡単に行きますかねー?」


 ノワールがそう言った瞬間、再び上から超高圧の風が降り注いだ。

 再びリーフがそれをかき消す。


「………?困惑、威力が上がっている」

「ええ、ええ。確かに死霊魔法は、生前以上の強さを出すことは出来ない。けど例外はあります。魔法自体に、その力を強化する能力が備わっていた場合です。ウェントゥスが理性を破壊されて尚習得した禁術―――使えば死ぬ、けど死人であれば何ら問題のない。

 アタシの最強の人形の力、とくと味わってください」

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