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第129話 光の最高位魔法

一昨日、予約投稿設定ミスって謝った時間に投稿されていました、すみません!

「御父上が裏切った、ですか」

「十中八九―――いえ、もう十、裏切ったわねあの男」

「姫さんの親父さんって、あのいつも女引き連れてるおっさんだよな?親子の絆とかがないのは察してたが、娘を殺そうとすんのかよ」


 ゴードン・ティアライト伯爵、ノア様の今世の父親。

 父親とはいっても親子の情とかは一切ないようで、互いに互いを利用するような関係だった。

 ただ、その関係の主導権は完全にノア様にあり、ぶっちゃけ御父上はノア様の傀儡と言っても過言ではない。


「そろそろ限界だったんでしょうね、私の存在が。私があの男を脅してから十年、ずっと娘に手綱握られてるのが我慢ならなかったんでしょう」

「なるほどなあ。そう聞くと、逆によく十年も耐えたもんだと思うぜ」

「それは仕方ないわよ、光魔術師である私を死なせたりしたら、自分で殺してたら問答無用の死刑、殺してなくても責任問題でお家潰しは免れないもの。だからこそ、私を殺す全責任を帝国に擦り付けられる今を狙ったんでしょうね」

「なるほど」

「お嬢様を殺そうとするとは、随分と愚かですわね。そのまま飼い犬に甘んじていれば痛い目を見ずに済んだものを」

「ああいう、自分を賢いと思っている人間ほど御しやすいものよ。オトハとオウランを私のものにした時の件、覚えているでしょう?」

「勿論です、あの時のことは片時も忘れませんわ!たしか、御父上が帝国に取り入ろうとして、お嬢様と我々の兄を―――あっ」

「気づいたわね。父はとっくに、帝国と秘密裏に手を結んでいたのよ。自分の娘を差し出す条件でね。かつては戦力として、今は首を帝国に渡すことによって、向こうで良いポストが約束されているんでしょう」


 なるほど。

 そうだとすると、ここまで短時間のうちにティアライト領まで帝国が進軍してきた理由にも納得がいく。

 内からの手引きがあったからだったのか。


「しかしノアマリー様、いかがいたしますか?さすがに一万五千人が寝返ったとなると敵は三万五千人、しかも広範囲を包囲しているので、クロさんの最高位魔法でも以前のようにまとめて倒せません。僕もこういった森の中だと、一気に倒すのは障害物に視界が遮られて難しいですし」

「それについては心配いらないわ」

「と、言いますと?」


 ノア様は少し面倒くさそうな顔をしながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、天幕の出口へと歩いていく。


「私が出るから」




 ***




 ノア様は森の中、何も知らない傭兵たちが武器の手入れをしている場所を突っ切って、少し歩いて止まった。


「さすがにあなたたちの主人として、少しくらいは働かないと格好がつかないものね。今回ばかりは少し働くわ」

「しかしノア様、危険です。ノア様の強さは存じていますが、真正面から敵と戦うのは―――」

「あらクロ、誰が真正面から戦うなんて言ったかしら?」

「え?」


 ノア様は森の奥を見据える。

 まだ見えないけど、奥には恐らく一万五千人の元味方兵が、ノア様の首を狙って構えている頃だろう。

 そろそろ帝国兵と打ち合わせて、周囲を囲いつつ攻めてくるかもしれない。


「とりあえず帝国兵は後回しよ。今は愚かにもこの私を敵に回して、あの愚父の言うこと聞いた無能な兵士連中に、自分がどれほどの過ちを犯したんのかを知らしめてあげなきゃね」


 ノア様はそう言うと、右手を掌を上に向けて前に突き出した。

 そこから光が発せられ、それが少しずつ、上空に向かって発射されていく。

 上空では光の球が出来上がり、それが徐々に大きくなっていく。


「この私に歯向かおうとしたその蛮勇へのはなむけよ。見せてあげるわ、あなたたちが崇めた、光魔法の最高位を。―――《月と太陽の裁き(トゥルースターライト)》」


 ノア様がそう唱えた瞬間、上にあった光の球―――見ようによっては太陽にも月にも見えるそれが、一層眩い光を放った。

 咄嗟に目を逸らし、一秒後に再び見ると、少し小さくなった光の球が未だ浮遊している。

 そして、わたしの生体感知に引っかかっていた限りでの敵の反応が、すべて消え失せていた。


 ノア様の最高位魔法《月と太陽の裁き》。

 この魔法は簡単に言えば『自動迎撃システム』。

 術者、つまりノア様に対して敵意を持っている人間を魔力で感知し、自動的に光線を発射する。

 秒速三十万キロメートルという、生物には百パーセント知覚できない速度で放たれる光線は、回避絶対不可。

 一瞬で頭を貫かれて終わりだ。


 わたしたちは敵の方へと進むが、私の生体感知に引っかかった瞬間に、その反応の大半が消えていく。

 恐ろしい速度で人が死んでいるのが分かるが、その魔法を発した本人は心底楽しそうな表情をしていた。


「ふふっ、最高位魔法を本気で放ったのは今世では初めてだわ!今ので魔力を半分近く持っていかれたけれど、まあ許容範囲ね。これならもう一発撃てる気すらするわ、やらないけど」

「さ、さすがっつーかなんつーか、本当に敵に回したくねえな姫さんはよ」

「なんだよこれ、一人ひとり狙い撃ちにする分時間はかかるものの、敵殲滅能力で言ったらクロさんすら遥かに上回るじゃないか………」

「はぁぁ………お嬢様素敵すぎますわ、この容赦のなさ、魔法の美しさ、どれを取っても最高ですわ!」

「お嬢、すごい」


 ここまで近づくと敵兵士の声が聞こえてくる。

 まあ、うん。案の定の阿鼻叫喚だ。

 上の球体が少し光っただけで、気づいたら周りの人間が死んでるんだから当然か。


「ノア様、このまま敵を壊滅させるんですか?」

「いいえ、半分くらい殺したところで止めるわ。この魔法の弱点は、殺意や敵意を感知するから、時間が経つにつれて恐怖でその気持ちが薄くなってしまうと通じなくなること。どのみち全員殺すことに向いた魔法ではないわ」

「となると、残った連中はどのようにいたしますか?御命令とあれば全員殺しますが」

「まあ待ちなさい、どうせ殺すならちゃんと利のある殺し方にしないとね?」


 ノア様はとびきりの悪い顔でそう言った。

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