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第128話 裏切者

「ノアマリー様、遠路はるばるご足労頂きありがとうございます」

「問題ないわ、領内だし半日もかからなかったもの。それより敵は?」

「はっ。ここから四キロほど離れた場所に陣取っている模様でございます」


 わたしたちはノア様と共に、ティアライト領の外れにあるエルムス砦跡地近くまで来ていた。

 もう間もなく、帝国兵との戦争がある。

 近隣の住民は既に避難しているし、遠慮する必要もなさそうだ。

 最も、別にいようがいまいが遠慮する気はなかったけれど。


「こちらで雇った傭兵たちは既にいる?」

「はい、昨夜遅くに到着いたしました。既にノアマリー様の天幕近くに配備しております」

「あら、仕事が早いじゃない」

「お褒め頂き光栄です」


 声をかけてきた兵士が、ノア様とわたしたちを天幕へと案内してくれる。

 周りにはすでにルシアスが声をかけた腕利きの傭兵たちが陣取っていて、各自で武器を磨いていた。


「こちらです」

「ええ、ありがとう」


 天幕の中に入ると、やはりノア様に用意されただけあって広く、綺麗に整頓されている。


「ではノアマリー様、一応のご説明をば」

「よろしくね」

「まず、現在我々はかなり一方的な劣勢に追い込まれております。あちらには四傑こそいないものの、数が多すぎるために非常に厄介です。加えて周囲が森ということもあり、野戦慣れをしていないこちらの若い兵士が音を上げてきています。そこで、ノアマリー様のお力を借りられないかと愚考した次第です」

「まあ、間違ってはないわね」

「いかがでしょうかノアマリー様、何か妙案などがあれば」

「まあ、妙案云々はいいのよ、ぶっちゃけ私とこの子たちが出れば一日もかからずに片付くし、あなたたちの出番も無いわ」

「は、はあ」

「だけどね、一つだけ」


 ノア様はわたしの方をちらりと見た。

 その意味を察し、わたしはこっそりと出入口の方に移動する。


「あなた、嘘をついたわね?」

「え………?」

「さっき、四キロくらい先に敵が陣取ってるって言ったでしょう?嘘よね」

「め、滅相もございません。私は―――」

「あなたの言い訳なんて聞いてないの。私は事実を述べているだけ。この私を騙そうなんて一億年早いのよ」


 嘘なんて、わたしたちには通用しない。

 こっちには表情を読めるわたしと、心を読めるステアがいるんだから、妙なブラフは一切利かない。

 この近くに足を踏み入れた時から、なんとなく違和感は感じていた。


「ここ、敵に既に囲まれてるわね」

「―――っ!?」

「私を逃がさないための布陣かしら。既に包囲済みなのでしょう?そしておかしいわね、この付近を360度完全に気付かれずに覆うなんて現実的に不可能よ。つまりあなたたちは、帝国兵の動きを気づいたうえで無視したことになるわ」


 兵士が冷や汗を流しながらも、少し右手を動かした。

 その動きに全員が気付いたけど、あえて無視する。


「あなた、というよりは、もうティアライト領に仕えるこの場の兵士の大半が既に寝返っているということでしょうね。帝国と秘密裏に繋がって、コソコソ頑張って私を罠に嵌めたつもりかしら?」

「くっ………」

「甘いのよ。私がそんな小賢しいとか以前の問題の手に引っかかるわけがないじゃない」


 ノア様は不気味なほどに満面の笑みで笑っていた。

 なんというか、こう。

 水の中を必死にもがいて泳ごうとする蟻を面白がってみている子供のような。

 無邪気の中にどこか狂気のある笑顔だった。


「クソッ!」


 兵士は胸元から短剣を取り出し、ノア様に飛び掛かった。

 しかし、遅い。


「ルシアス」

「おう」

「あぐっ!?」


 空間魔法で一瞬で移動したルシアスに簡単にねじ伏せられ、男はその場に転がった。


「ステア、ある限りの情報をこの男から搾りなさい。一番の裏切り者が誰なのかもはっきりさせておかないとね。ま、予想はついてるけど」

「ん、わかった」


 ステアの記憶抽出が始まり、男は必死にもがく。

 しかしルシアスの膂力を跳ね飛ばせるはずも無く、ただの悪あがきにしかならなかった。


「しかしノア様、本当なのですか?ティアライト領の兵士が裏切っているというのは」

「本当よ、ステアが収集した情報に間違いはないわ。念のためこの男からも抽出するけど、ほぼ確定ね」

「お嬢、終わった」

「どう?」

「お嬢の、読み通り」

「そう。じゃあ用済みね、クロ」

「《(デス)》」


 即刻ノア様を手にかけようとした不届き者を殺し、闇魔法で消し去った。


「お嬢様、現在の状況はどうなっているんですの?」

「私たちは敵兵二万人、味方兵士一万五千人、雇った傭兵三百人っていう構図だったわ。だけどこれが変わって、その一万五千人が既に帝国兵と考えれば、現在の構図は、実質わたしたちと傭兵だけが孤立している状態ね」

「おいおい、まずいんじゃねえのか?つまり約三万五千vs約三百人かよ」

「とても面倒な状態であることは間違いないけれど、まあ問題はないわ。あなたたちの動きと、傭兵の使いようによっては何とかなるでしょう」


 ノア様は相変わらず自信たっぷりにそう言い切った。


「それよりも問題は、何故こちらの味方だったはずの王国兵が裏切ったかってことね。まあこれは簡単よ、連中の主人が裏切って帝国側に着いたから、それに従ったんでしょう。実際の所、王国に勝ち目はないって考えている兵士は多いし、今のうちに寝返りたいと考える連中は少なからずいたんでしょうね」

「主人というのは、つまり―――」


 ノア様は黒い笑みを浮かべて、その人物の名前を言った。


「ゴードン・ティアライト。裏切者は私の父親ね」

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