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第119話 クロvsランド

 この魔法は、その名の通り魔法を削除する。

 とはいっても、正確に言うなら魔法そのものを消しているわけじゃない。

 魔術師と魔法の繋がり―――つまり、魔力供給の繋がりを消す魔法だ。

 それによって結果的に急速に魔力が失速し、魔法はその力を失う。

 炎魔法や水魔法のような、魔法によって何かを生み出すタイプの魔法であれば即座に消える。

 ランドの土魔法はものにもよるが、基本的には既にある大地を使って攻撃することが多い。

 既にあるものを操るだけなので、四大属性の中では比較的燃費の良い魔法。

 そして《魔法削除(デリートマジック)》の特性上、消せるのは魔法の繋がりだけで、物質である巨人そのものを消すことはできない。

 だけど、魔力供給を消すということは、すなわち。


『なっ………なんだ、動かない!?どうなってる!?』


 こういうことになる。

 魔力供給を消すことによって、巨人の支配権をランドから失わせた。

 本来であれば、この魔法は正直そこまで有用な魔法じゃない。

 一度に消せる量も多くないし、そもそも一度消しても次弾を撃てばいいんだから、基本的に使わない。

 ただ、こういう操作系の魔術師にとっては最悪の技になる。

 今のはランドの姿が見えなかったからあの巨人にかけて消したけど、これを術師本人、例えば精神操作の魔法を持つステアにかけたりしたら、あの子が現在進行形で操っている全お人形にかけられた精神魔法が全て解ける。

 まあ、やらないけど。


 そしてランドのあの巨人、恐らく一度の発動に大量の魔力を消耗する。

 ランドに、もう一度あの巨人を動かすほどの魔力は残っていない。

 残っていたとしても、もう一度消すだけだ。


「諦めて出て来てください。そのおもちゃじゃ、わたしは倒せませんよ」

『ぐっ………!』


 わたしが呼びかけると、岩巨人の腰辺りからヒビが発生し、中から一人の男が出てきた。

 茶髪でまあまあ男前だ。わたしの好みじゃないけど。


「てめぇ、何者だ。もうノアマリー・ティアライトの側近の劣等髪が魔法を使ってることには驚かねえ。だが俺の《巨神兵(ロックナイト)》を一瞬で動かなくしただと?あの二人より遥かに強い。アイツらのリーダーか?」

「あなたの魔法を無力化できたのは単純に相性の問題ですが。リーダーかと聞かれればまあ、そうなんでしょうか。一応ノア様、ノアマリー様の側近の中では最古参ですが」

「はっ、そうかよ。だがなんで今まで戦場に出てこなかった」

「最初に魔法を放った反動で、少し魔力が不足しまして。それで休んでいました」


 親切にわたしが教えてあげると、ランドは眉をピクリと動かした。


「………最初に俺の部下たちを千人以上も殺したあの黒いのの術者は、お前か」

「はい。わたしの闇魔法は消す、歪めるが真髄なもので。寿命を消すことでああやって人を殺せます」

「ふぅーー」


 ランドは、必死に怒りをこらえるような表情を作った。

 当然の感情かもしれない、この男にとってわたしは、千人以上の部下の仇のようなものだろう。

 最も、多分殺した数で言えばオトハの方が勝ってるけど。


「なぜ俺に、親切にそこまで教えた?」

「『強者には敬意を払う』というのが、我が主の意向でして。わたしの仲間であるオトハとルシアスが攻めかねるほどの強さを示したあなたであれば、少しくらいは冥途の土産を持参させても罰は当たるまいという判断です」

「そうかい。ありがとよ」


 少し、ランドという男を舐めていたか。

 情報を得てこの男に対してわたしが抱いた人物像は、強いが短期で暴力的、かつ本能で暴れるタイプという、正直苦手な部類の人間だった。

 しかし、部下を労わるような発言、わたしへの怒りを必死に抑えて策をめぐらせることが出来る理性、これは評価に値する。


「あの、提案なのですが」

「なんだ」

「あなた、寝返りませんか?」

「なんだと?」


 だからわたしは、一度剣を鞘に納めた。


「あなたほどの術者であれば、ノア様も無碍にはしない気がしますし。戦争の才能や指揮官としてのキャリアなどを考えても、ノア様の国にはちょうどいい人材です。このまま殺すのは少し惜しいので」


 わたしの本心だ。

 わたしはぶっちゃけ、相手を見る基準はノア様の役に立つか立たないか、それだけだ。

 そこから親近感や愛情が芽生えることはあっても、最初に考えるのは相手がノア様にとってどんな風に働いてくれるか。

 万が一不埒なことを考えていても、それはステアが看破できるんだから問題なし。

 この男は役に立つ。


「どうでしょうか?悪くない提案だと思いますよ」

「………ああ、そうだろうな」


 だけどランドは、残った魔力で大きい岩の剣を作り出した。

 これが返答だとでも言うように。


「魅力的な提案であることは認めてやるよ。あの光魔術師サマの下で働けるんだ、人によっちゃあ涙流して喜ぶかもな。

 ………だけど、だけどよお。俺の部下をこんなに虐殺した連中の親玉につけだと?ふざけるのも大概にしろよ、クソガキが!」

「そうですか、残念です」


 断られてしまった。

 ノア様の存在が全てであるわたしには、理解できない思考だ。

 どうせこの世はすべてノア様のものになるんだ、遅かれ早かれの違いだろうに。

 まあいい、じゃあこの男は不必要だ。


「それにてめえ、さっきなんつった?『このまま殺すのは惜しい』だと?なんで俺が、てめえに負ける前提で話が進んでるんだよ」

「はあ、そう言われましても。この状態ではどうやっても、あなたはわたしに勝てないので」


 会話で時間を稼いで、こっそり地面に土魔法の魔力を流しているんだろうけど、そんな不意打ちは反射神経と勘で躱せる。

 いや、躱す必要すらないかもしれない。


「随分な自信だな。だが、その慢心を後悔しろ」

「慢心しているわけではありません、事実ですので」


 ランドの目つきが変わった。

 わたしに何かをしようとしている。

 だけど、表情で相手の思考をある程度読み取れるわたしにとっては、何をしようとしているのかバレバレだ。

 準備が終わったとでも言うように、僅かに口角が上がった。

 多分、あと一秒くらいでわたしに不意打ちが来る。


「おらああああああ!!!」


 不意打ちから目を逸らすためか、ランドがわたしに剣で向かってくる。

 剣を土から生み出すことによっていかにもそれで襲うと相手に錯覚させるという心理テクニック、会話で魔力の回復と遠距離からの魔法の構築をする精神力。

 どれをとっても、間違いなくランドは優秀だった。

 しかし、わたしに向かってきた時点で失敗だ。

 極小の確率にかけて、全力で後ろに―――闇魔法の範囲外に離脱することを試みるべきだった。


「死ねええええええ!!!」

「―――《(デス)》」


 彼の剣がわたしの服に届く寸前で、その場で倒れた。

 剣を離し、その剣は砂に戻っていく。

 後ろを見ると、鋭利な棘状になった岩がいくつもわたしの背中に向かって伸び、あと一センチというところで止まっていた。

 魔力の供給が消え、ここで止まったのだろう。

 つまり、ランドは死んだ。


「皇衛四傑クラスでもわたしの魔法が通じるということが分かったのは収穫ですね。しかし惜しい。これほどの魔術師なら、ノア様のお役に立てたでしょうに」


 少し残念ではあったけど、仕方がない。

 ランドは軍人らしく私に戦いを挑み、そして散った。

 ノア様のお役に立つことなく。それだけだ。

 取り敢えずわたしは、残っている赤銅兵団のわずかに残った戦意を削ぐため、ランドの死体を首ちょんぱしようと振り返って―――。



「………あれ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ランド、部下が虐殺された事を気にするかよ、自分が侵略者の側で散々殺した癖に。。。 そしてクロさん、強大な敵の方に敢えて情報を与えるのは逆でしょう!?敬意を払うところか自殺ですら繋がるだと思い…
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