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第102話 覗き

 王国乗っ取りを明日に控えたノアとその一行は、ホテルの大浴場で汗を流していた。

 貴族の屋敷でもないのに風呂が、それも非常に広い浴場があるというのが、このホテルがどれほどの投資の元作られたかを物語っている。


「お、お嬢っ、お嬢様の、裸………!」

「オトハ、鼻血出てます」

「拭いても流しても止まらないので、もう諦めましたわ」

「のぼせと興奮が同時に来てるんです、出血多量で死にそうな勢いですしそもそも風呂にあなたの血が流れて迷惑なので、さっさと上がってください」

「お断りしますわ」

「じゃあノア様も一緒に出てくれませんか」

「イヤよ、私は長風呂主義なの」

「ふふっ、ノアさんの肌、すべすべですねー」

「あああああっ!?誰の許可を得て触れてますのルクシアさん、私も触りたいいいい!!」

「ルクシア様、お背中お流しいたします」

「ありがとうケーラ、お願いします」

「ほらステア、あなたも流しますからそこ座ってください」

「ん」


 女子風呂でキャッキャウフフな平和な時間が流れている時だった。

 一方その隣の風呂では。


「………熱いな」

「そうか?丁度いいが」

「僕は半身浴くらいの温度が好きなんだ」

「俺はそもそも風呂に入ったのが姫さんについてきてからだからな、違いが正直分からん」

「そういえばそうか」


 隣の男湯では、オウランとルシアスが同じ風呂で息をついていた。

 ノアのお気に入りの中で数少ない男の彼ら。

 壁一枚隔てた先から聞こえる女子たちの声を聴きながら、男二人で肩を並べて風呂に入っていた。

 男性諸君であれば、彼らの内心がうかがい知れることだろう。


「そういやオウラン、お前明日はどうすんだ?姫さんについて行くか?」

「一応な。万が一の時に一番ノアマリー様を守りやすいのは僕だし、それにオトハが行くって言うから」

「クロもお前も大変だなあ」

「そう思うなら、オトハやノアマリー様みたいに問題を起こさないでくれよ」

「オトハとは双子なんだろ?どっちが上なんだよ」

「オトハが姉だよ。三十秒差だけどね」


 オウランとルシアスは、互いに魔法と物理を教え合う過程で、なにより唯一の同性ということもあって仲が良い。

 少なくとも、こう言った場面で気まずくなるようなことは無かった。


「さて、じゃあそろそろやるか」

「やる?なにを」

「馬鹿野郎、男が風呂に来てやることと言ったら一つに決まってるだろうが」

「………?」

「NOZOKIさ」


 しかし、気まずくはならなかったが馬鹿にはなりだした。

 オウランは少しキョトンとし、そして顔を真っ赤にした。


「なななな、何を言って!?そ、そんなのダメに決まってるだろ!」

「おーおー、思春期の坊ちゃんらしいうぶな反応だな。覗かねえのか?」

「誰が覗くか!」


 NOZOKI。覗き。

 古来より男女で分かたれた性別という名の壁を男湯・女湯に隔たる風呂の壁に見立て、それを乗り越えることによって真なる男女平等を手にせんとする、由緒正しき行為。

 というのは建前で、実際は普通に異性の裸を見たい連中がやる、紛うことなき変態行為である。


「馬鹿野郎、それでも男か!そこに女子の裸体があるならとりあえず覗いておく、それが男のロマンだというのが分からねえのか!」

「いや、それは………」


 オウランは否定できなかった。

 思春期男子、しかも十三歳という男が最も馬鹿で多感な時期の直前にいるオウランは、不本意にも気持ちが分かってしまったのだ。


「いいか、オウラン。この壁の向こうにいるやつを想像してみろ。オトハとステアはともかく、この大陸を代表すると言ってもいい美人ぞろいだ。クロに姫さん、ルクシアさんにケーラ。正直に言おうじゃねえか、俺はあの美人たちだったら普通におっぱいが見たい!お前は違うのか!」

「えっと、その」

「見たいだろ!?恥ずかしがらなくていい、それは男の本能だ!いやそもそも、何故人間は服を着る?人間は生まれ出でし時は皆全裸だ。誰が服などという悪しき風習を広めた?俺は物申したい、全裸こそが男女のかくあるべき存在なのではないかと!いや、むしろ裸こそが真の服と言えるのではないかと!」


 当然ルシアスは微塵もそんなことを思っていないが、覗きがバレた時に一人でぶっ飛ばされるのは御免な彼は、オウランを仲間に引き入れようと思ってもいないことを並べた。

 しかし悲しいかな、まだ子供が残っているオウランは、少し目を輝かせてしまった。


「これは聖戦だ。人間としてのあるべき姿を取り戻し、一歩大人の男になるための儀式だと言ってもいい!自分は猿ではない、人間だという誇りを取り戻すために俺は戦う!よし、というわけで覗くぞ」

「わかった!」


 馬鹿である。

 オウランは基本的に思考はマトモだが、男としての本能に逆らえなかった。

 人間としての誇りを捨て、一匹の猿に成り果てようとしていた。


「よっしゃ決まりだ。行くぞオウラン、お前ならこの壁を登れるな?」

「勿論だ!」


 オウランはまさしく猿の如く、壁をよじよじと登っていった。

 ルシアスもそれに続き、高い壁をものともせず、その頂上へ手をかけた。


「いいか?いっせーので覗くぞ。いいな?」

「了解」

「行くぞ、いっせーの!」


 ルシアスとオウランは一気に顔を出し、その桃源郷(ユートピア)の光景を目に焼き付けようと、


「《灼熱湯の飛沫(ヘルアクア)》」

「「目があっ、目があああ!?」」


 したのだが、望み叶わず男湯に落下して頭をぶつけ、目と頭を同時に抑える羽目になる。

 一瞬たりともその光景を覗くことはできず、それどころか目に深い傷を負ってしまった。

 どうせあとでノアが治せるとはいえ、惨い。


 同時刻、女湯では。


「あんな大声で話して聞こえないわけないじゃない。ご苦労様ルクシア」

「お役に立てて何よりですが、良かったのですか?目に熱湯なんて」

「いいのよ、後で治すし。それに馬鹿やらかそうとした男にはちょうどいいわ」

「しかしルシアス、なかなかやりますね。話術と気合いであのオウランを突き動かすとは」

「あれは愚弟が馬鹿なだけだと思いますわ、まったく。あの子がお嬢様の裸体を見るなど五千年早いですわ、というわけでお嬢様、そのタオルをどけていただけると」

「あなたも五千年後に出直してきなさい」

「そんな!?」

「そうでなくともあなたはノア様の全裸なんて見た日には周囲が血で大惨事になるのでやめてください」


 バレていた。

 当然である。


「あの二人どうします?」

「半殺しにして治しましょうか、二度とそんな気が起きないように」

「珍しく厳しい罰ですね」

「私たちの警戒をかい潜ってバレずに覗くくらいやればむしろ感心してあげたくらいだけど、あまりにもお粗末な作戦だった罰よ」

「罰する部分そこ?」


 その後、ホテル内で男性二名の悲鳴が聞こえてきた。

 だがその悲痛な声に、周囲にいた男性は、思わず局部をそっと抑えてその場を立ち去ったという。


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