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第99話 ノワール

「こんなヤバそうな状況なのに楽しそうですね、ノア様」

「勿論楽しいわ、難易度の低いゲームをしてもつまらないもの。それに、強い女の子は大好きだし」

「はいっ、お呼びですかお嬢様!」

「呼んでない」


 ノア様はなんとなく、帝国との戦いを、なんならこの世界そのものをゲームだと考えている節がある。

 勿論折り合いはつけているはずだけど、難易度が高ければ高いほど燃える、そんなタイプだ。

 元の世界なら、絶対縛りプレイとかやるタイプだと思う。


「とりあえず、気を付けるべきはリーフとフロムですわね」

「いや、ランドとフェリも侮れないぞ。油断したら負ける」

「誰が来ても、お嬢の敵は、殺す」

「いや、ステアは四傑クラスと戦うのは厳しいのでは?精神魔法はシンプルに最強ですけど、自身を強化することが出来ないですから」

「確かに、不意打ちとかには弱いかもな」


 全員が視線をステアに向けた。

 一対一の戦いの場合、ステアは意思力が異常に強い人間―――ノア様やルクシアさんなど―――以外に対しては無敵だ。

 いかに防御を重ねようが、自分の心までは守れない。

 その心に干渉し、自在に操るステアは、回避も防御も不可能。

 放つ魔法のほとんどが必殺だ。

 しかし多対一の場合、ステアは操れる人数が限られてくる。

 加えて常時心を読んでいるわけではないので、これから不意打ちする人間の心をピンポイントで読むことも出来ない。

 つまり、大勢の人間がいる空間においては、ステアは脆い。

 とはいっても、二、三百人程度までなら多分対処は余裕だと思うけど。


「ステアは極力、強いと判断した人間との戦闘は避けなさい」

「お嬢、でも………」

「いいから。あなたにはあなたにしか出来ないことがあるもの。別に戦力外だと言っているわけでも、あなたが弱いと言っているわけでもないわ。ただ相性の話よ」

「………わかった」


 少し不服そうだったけど、ステアは了承した。


「さて、四傑に関する情報はこれで全部かしら。ありがとうルクシア、助かったわ」

「いえいえ、ノアさんのためならこれくらい構いませんよー」

「後はもう一つ。カメレオンについての情報なんだけれど、なにかあるかしら?」

「それなんですが」


 ノア様は話をもう一つの脅威に持って行った。

 カメレオンは帝国の闇に動く隠密、場合によっては四傑以上の脅威になりかねない。


「実は、あまりよくわからないんですよ」

「あなたに情報を提供した男、元カメレオンなのでしょう?何故?」

「それが、カメレオンの構成員すら、他の誰が同業なのかを知らないらしいんです」

「と、言いますと?」

「カメレオンは百人弱で構成された暗部組織。普段は別の職に就き、身分を隠して動くそうです。仮の身分は多岐に渡り、一般業の人間から軍上層部、果てには貴族まで。しかし、互いにカメレオンだと分かっているのは一人か二人で、全容は構成員すら把握していないとか」

「徹底した情報秘匿だな」

「万が一構成員が捕まって自死を封じられても、吐く情報が無いようにだろうなあ」

「後は、構成員に選ばれたとき、体のどこかにカメレオンの刺青を入れられ、それが仲間だと示すエンブレムになるらしいですね」


 暗殺、諜報、情報統制、おおよそ汚いと揶揄される仕事の一切を請け負う暗部組織の名は伊達じゃない。

 情報を隠す究極の方法は情報を知らないことだ、とはよく言ったものだ。


「ああ、もう一つだけ。ペアでしか互いの情報を知らないカメレオンですが、唯一共通して知っていることがあるそうです」

「なに?」

「カメレオンの首領についてです」

「暗部の首領ですか、どんな人物なのでしょう」

「顔も声も身分も不明の、百人近いカメレオンを束ねる存在。真偽の方は定かではありませんが、その実力は四傑にも引けを取らないとか。勿論本名なんて誰も知りませんが、コードネームはそこそこ知られています」


「―――『ノワール』」


 ノワール。

『黒』を示す言葉。


「クロさん、あんたまさか………」

「なわけないでしょう」

「ですが、おかしいですわね?帝国では黒は不吉の色として敬遠されているはずなのに、仮にも首領に据え置かれるほどの人物がそれに準じる仮名を名乗るなんて」

「黒に何か思い入れでもあるのかしらねぇ」


 ジーーーッ。

 そんな音が聞こえてきそうなほどにわたしに視線が集まった。


「なんですか、違うと言っているでしょう!そもそも五歳の時からノア様からほぼ離れずに生きて来たのに、どうやって帝国暗部を動かすんですか!それにわたしがスパイならとっくの昔にノア様をどうにかしています!」

「まあそうですわね」

「そもそもクロさんがスパイとか絶対ないよな」

「ん、クロの、お嬢への忠誠、異常」

「異常とかステアに言われたくないです」


 まあもちろん冗談だったようだけど。

 しかしオトハの言う通り、帝国らしからぬコードネームだ。


「まあいいわ、こればかりは考えてもわからないでしょう。情報提供ありがとうルクシア」

「ええ、お役に立てたようで何よりです」


 ルクシアさんがにこりと笑って椅子に座った。

 優雅な仕草で、気品があり、しかも美人で優しい。

 おまけに頭も性格も気立ても良い。


「何故ルクシアさんほどの人が、ノア様が好きなんでしょう」

「ねえクロ、あなたたまに思い出すように主人に対する暴言を吐く癖やめなさい」

「だって、対極に近い存在じゃないですか。怠惰でだらしなくて容赦なさを極めたような性格のノア様に、謙虚できちんとしてて穏やかな性格のルクシアさん、同じところなんて顔と頭が良いことくらいでは」

「その顔が好きなんですよー。それにこの苛烈な性格も、ワタシにとってはドストライクです♡」

「クロ、後で本気お仕置きするわよ」

「ごめんなさい」


 ルクシアさんがノア様にすり寄り、それを奇声を上げて阻止しようとするオトハ、それを止めようとするオウランに、マイペースにチョコを食べているステア、いつの間にか寝ているルシアス。

 前世では考えられない賑やかさに、少し楽しくなったのは内緒だ。


「失礼します、ノアマリー様、ルクシア様、いらっしゃいますか」


 その賑やかな声も、扉の方から聞こえてきた声でいったん静まった。


「この声、ケーラ?入ってきていいですよー」

「失礼いたします」


 入ってきたのは、ルクシアさんのメイドのケーラさんだった。

 一通の手紙を持って、こちらに歩いてくる。


「ノアマリー様、こちらが届けられました」

「あら、なにかしら。………これ、うちの国の王族の印ね」


 エードラム王国の王族から、ということは。

 ノア様は封を開け、それに目を通した。

 そしてフッと笑い。


「全員支度しなさい。出かけるわよ」

「どこへです?」

「王都に行くわ」


 ノア様は手紙をこちらに放り投げてきた。

 キャッチして読んでみると、そこには。


「招集命令よ。想像より早かったわね」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 黒に執着しているかつここまでで出てきてないとなると例のヤンデレサイコレズ女(名前忘れた)がボス何じゃないですかねぇ…
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