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第95話 退勤、帰宅

「ひいい!許してください、今後は王国のためにこの命を」

「《(デス)》」


「おのれ黒髪ごときが調子に乗りおって!見るがいい、当家に伝わる一子相伝の」

「《(デス)》」


「くっ、この技だけは使いたくなかったんだがな………。褒めてやろう、この俺にこの技を」

「《(デス)》」


「よし分かった話し合おう!我らはきっと良い友達になれると思うぞ!だから物騒な真似は」

「《(デス)》」


 もはや何度同じ魔法を使ったか分からなくなってきた頃、わたしはカバンの中に入っていたリストがすべてなくなっていることに気づいた。

 別に落としたとかではなく、仕留め終えた人間のリストは消すようにしていた。

 それが無くなったということはつまり。


「任務完了、か」


 日を確認する。

 ノア様から御命令があってから十九日。

 ここからティアライト領まで馬車を乗り継いで一日とちょっと、概ね予想通りの時間だ。

 ステアとルシアスはもう仕事を終えているだろうか。

 オトハとオウランは遠くまで行く必要があったから、おそらくまだだ。

 いや、オトハがノア様がいない生活に耐えきれずに帰ってる可能性が無きにしも非ずか。


「とりあえず、帰ろう」




 ***




 予定よりやや遅れ、二日ほどかかってわたしはティアライト邸に戻ってきた。

 ノア様は大丈夫だろうか。


 去ってから思い出したけど、あの方は人間的なステータスを魔法と頭脳に全振りしているような人だ。

 メイドのニナさんを始めとするティアライト家のお抱えは何人かいるけど、あの御方のことだ、付き人として誰かが付いていないととんでもないことをやらかしかねない。

 心配で自然と足は速くなる。

 玄関を通り、階段を上ってノア様のお部屋に。


「ノア様、クロです。ただいま戻りました」

「あらクロ?早かったわね、開いてるわよ」


 とりあえず、声に異常はない。

 少しほっとして扉を開けると。


「はいノアさん、紅茶が入りましたよー」

「あらありがとう」

「ノアマリー様、お部屋の掃除も完了いたしました」

「ケーラもありがとう、助かるわ」

「………」


 ………色々つっこみたいところはあるが、とりあえず。


「何故いらしているんですか、ルクシア様」

「あらクロ、わからない?」

「いえ、逃げて来たっていうのは分かるんですが何故ここなんですか。現在進行形で戦争中の国に来てどうするんです」

「ふふっ、一刻も早く愛するノアさんに会いたくて。クロさんもお久しぶりです」


 ルクシアさんがここにいるのは、帝国から狙われるのを危惧してのことだろう。

 しかしどこか別の国に行くにしても、こっちとは反対方向に行くと思っていたんだけど、案外この人も頭のネジが数本飛んでいるらしい。

 天才と馬鹿は紙一重の意味を理解した気がした。


「お邪魔はしませんよ。ここにいるのはワタシとこのケーラだけですし、それに個人的にはノアさんに勝ってほしいですから、微力ながらお手伝いもさせていただきます」

「あなた、中立国のフィーラ共和国連邦の人間でしょう。手助けしてはダメなのでは」

「クロさん、バレなきゃ犯罪ではないんですよ?」

「犯罪とかそういうレベルを超えてるんですってば」


 この人がノア様を好いているのは知っているけど、まさか戦争にまで介入してくるとは。

 確かにこの人は頭がいいし、魔法も共和国連邦では指折りの実力者だと聞いてはいるけども。


「申し訳ございませんクロ様、ルクシア様はこう言いだすと聞かない性格でして」


 そう言ってきたのは、ルクシアさんのメイドのケーラだった。


「我々も、正直戦争中の国に逃げるというのは反対だったのですが、ルクシア様の強引さに誰も首を横に振れず」

「なんというか、変なところでノア様に似ているんですね。お互い苦労しますね」

「そうですね………」

「あら失礼しちゃうわ。私はこれくらいぶっ飛んでる子が好きよ、ねえルクシア」

「はい!ワタシもノアさんが大好きです!」

「もしかしてこの人たち、ずっとこの調子だったんですか」

「この調子でしたね」


 ケーラがどこか疲れた顔で苦笑した。

 大分苦労なされたらしい。もう少し早く帰ってあげられてればよかった。


「ああ、そういえばいってなかったわね、クロ」

「なんですか?」

「おかえりなさい」

「!………はい、ただいま帰りました」

「早速、報告を聞こうかしら」

「かしこまりました」


 わたしはノア様に、この三週間の出来事をこと細やかに説明した。

 ルクシア様たちも同席していて、うんうんと聞いていた。


「報告は以上です。リストにあった者は全員この世にいませんので、ご安心を」

「相変わらず仕事が早くて助かるわ。さすが私の右腕ね」

「勿体ないお言葉です」

「しかし一月も経たないうちに裏切者とそれに準じる人間、百人近くを殺害ですか。お話には伺っていましたか、凄まじい魔法ですね。闇魔法というのは」

「ありがとうございます、ルクシア様。ところでノア様、ステアたちはまだ帰ってきていないんですか?」

「ステアとルシアスは三日前に一度帰って来たわよ。でも反対方向にもう一つ仕事があったから寄ったんだって言って出て行ったわ。あと二日もすれば帰ってくるでしょう。オトハとオウランはまだ帰って来てないわね」

「意外ですね。あのオトハのことですから、数日も経てば我慢できずにとんぼ返りかと」

「そうなるだろうと思って、あの子に出かけに耳打ちしといたのよ。『仕事が終わるまでの放置プレイに耐えられたら、気が済むまで踏んであげるからちゃんとしなさい』って。そしたら本当に帰ってこなかったわ」

「いよいよ手遅れじみてきましたね、オトハもあなたも」


 何にせよ、最初に仕事を終わらせたのはわたしか。

 別に競っていたわけではないんだけど、なんとなく満足感がある。


「あら、紅茶がもうないわね」

「あ、ワタシが淹れてきますねノアさん!」

「いえ、ルクシア様はお客様ですし………ってノア様、まさか今までルクシア様とケーラさんに淹れさせてたんですか」

「そうだけど」

「この物臭主人………」


 満足感もつかの間、頭を抱える羽目になった。


「だって、私が淹れると異常なほどに苦くなるんだもの。だったら最初から別の子にやってもらった方がいいでしょう」

「仮にも御客人を従者みたいに扱わないでくださいよ」

「あらなに、もしかして嫉妬してるの?私が自分以外の子が淹れたお茶飲んでるのが悔しい?」

「んなっ!」

「あら図星?それはごめんなさいね、気が付かなかったわ。ルクシア、クロにやらせてあげてくれない?ごめんねうちの子が我儘で」

「え?は、はあ」

「なんでわたしが悪いみたいになってるんですか!べべべ、別に嫉妬なんかしてませんよ!」

「そんなに興奮しなくても、クロが私のこと大好きなのは分かってるわよ。ほらほら、久しぶりにクロが淹れたのが飲みたいわー」


 ご主人様じゃなければひっぱたいてるところだ。

 このサディスト、わたしで遊んでそんなに楽しいか。


「ところでノア様、お話は変わりますが」

「あら変えなくてもいいのに。まあいいわ、なにかしら?」

「わたしの留守中、ちゃんと野菜食べましたか?」


 ノア様は静かに目を逸らした。


「ノア様」

「………なにかしら」

「わたしは言いましたよね?出された野菜はちゃんと食べてくださいと。それを留守中も怠らないようにしてくださいと、言っておきましたよね?」

「まったくクロは大袈裟ね。野菜なんて食べなくても生きていけ」

「ノア様」

「………は、はい」

「そろそろ野菜の鮮度が悪くなるので、今日一気に調理してしまいますね。お喜びください、今日の夕食は野菜尽くしです」

「わかったわいじって遊んだことは謝るから本当にやめて、ちょっとルクシア、あなたも何とか言ってちょうだい!」


 案の定、わたしがいないことを良いことにいつも以上に自堕落な生活を送っていたらしいノア様に、わたしが久しぶりに腕によりをかけて作った夕食をふるまった。

 ルクシアさんとケーラさんは絶賛してくれたけど、ノア様は初めて見るような泣きそうな目で料理を見つめていた。

 その後、一切甘やかさずに食べきるまで見張ったわたしに、ノア様がプライドをかなぐり捨てた本気の謝罪をしたことは、後にわたしの思い出し笑いの種になることとなる。

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