同窓会通知
一話完結です。趣味的小説なので、気が向いたら連続投稿します。
同窓会通知
しばらくぶりに慶太から呼び出されたのは、藤が丘にある瀟洒なカフェだった。時間は16時と半端な時間だったが、大学生が多い土地柄もあってか、客入りはそれなりである。
「僕はね、子どものころは一人っ子に憧れていたんだ。」と慶太がつぶやく。
「子どもの時から兄弟二人で一人分の扱いをされていると思っていたんだ。楠間慶太と楠間裕太、双子ふたりで一人分。見た目も瓜二つだったしね。」
「なるほど」と私。
「双子の親ってさ、実のところ、幼い双子の区別なんてつかないんじゃないか。父さんは外出するときは決まって目印の帽子をかぶらせていた。でも、入れ替わりの悪戯なんてこともよくやっていたし、自意識が曖昧なところは双子特有の感覚かもしれないね。」
「ところで、小学校の同窓会の通知はもう読んだかな。実はこんな話をしたのは、同窓会のはがきを貰ってふと昔を思い出したからなんだ。」
私はなんとなく頷いて、コーヒーを飲んだ。マンデリンの酸味がふわりと香ると、体が軽くなった気がして、私は右上に目を移した。
「読んだよ。懐かしいよね。だれだっけ、あの子。電気屋さんの子で、いつも一緒に遊んでたけど、元気にしてるかな。」
慶太はスコーンに目を落とすと指先を合わせる。こんなとき、慶太は慎重に言葉を選んでいるのだということを、私は知っていた。
「ああ、ヒロちゃんだよね。覚えてないかな。あの子、修学旅行のときに亡くなったじゃないか。」
「そう、だったかな。そんなことあっただろうか。」カフェの湿度が急にあがったように感じた。
「うん、僕たち双子とヒロちゃんの三人は、あのとき記念公園で、みんなと離れて高台を散策していた。ヒロちゃんは、何かの拍子に急斜面から落ちてしまった。不注意の事故だった、とみんなは思ってる。」
「思ってる?」
「そう、あの時、ヒロちゃんは僕たちとふざけあっていて、何かの拍子に足を滑らせてしまったんだ。衝撃だった。僕は一生、この光景を忘れないだろうと思った。ところがぼくはあのとき幼い保身に走ってしまったんだ。まわりの大人も、自分もだまして、いつしか同窓会のはがきが届くまでこのことを忘れてしまったんだ。」
すでにカフェの外は暗くなっており、いつしか私たちの周りには沈黙が降りていた。私は、冷めてしまったコーヒーのように冷静でいたいと努めていたが、きっと、顔色は死人のようであったろう。
「さて、さっき双子の話をしたけれど、記憶なんて曖昧なもので、実は、ヒロちゃんを押したのは自分だったような気もするし、そうじゃなかったような気もする。双子の自意識の曖昧さも罪なもんだ。辛いんだ、とても。本当に申し訳ない気持ちで一杯なんだけど、思い出してほしい。どちらかがヒロちゃんを殺した。君はどっちだと思う?裕太」。
私は答えることができなかった。絶望はつかつかと早足で私に近づいてきて、そして私の肩をぽんと叩いた。
小説を書くのは初めてで投稿ボタンを押すのは勇気が要りました。今後のために、ご感想を頂けると大変嬉しいです。
最後までご覧頂きありがとうございました。