出走拒否
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキット及び、筑波サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
後10分走った後、最後の20分間でチーム対抗戦が行われる。
九重拓洋は必死になって走っている。
だが、どこまで走っても、脳裏には彼女の事が絡み付いて離れない。
むしろ、走れば走るほど絡まって外れない。
メインストレートを走り抜ける。前には海老原レーシング6号車のレクサスLC500。ずっと、この6号車の後を走り続けている。
(6号車のドライバーは、恐らくあの人。スーパーGTでも活躍する人だ。この人のラインをなぞって走って、テクの一つ学んでやる。)
それに、6号車のドライバーも気が付いていた。だからワザと、本気の走りをせず、遊んでいた。
(ホワイトインパルス4号車。S660で良く頑張っている。だが、何度も何度もミスっている。ピットの会話を見る限り、テクはそれなりだが、それ以外の事で悩みがあってうまく走れないらしいな。前に出すか。)
6号車がピットレーンに入る。
S660はそのまま、メインストレートを突っ切る。だが、イエローフラッグが振られた。S660が1コーナーでスピンしたらしい。
イエローが解除され、再度、6号車はピットレーンから出て、S660の後に付く。
(コーナリングは良い。最終を立ち上がって、メインストレートへ。ん?なんだ?)
S660から、得体の知れないオーラが放たれる。
「―。」
6号車はそれが何か解らなかった。だが、S660はラインを外してコーナーへ。
「危ねえ。でも、俺の後にいた時はラインを外さなかった。なんで俺の前でそうなる?」
トヨペット100RコーナーでS660の前に出る6号車。
(少し本気を出すぞ。付いて来られるなら付いてきてみろ。S660!)
ライトを付けるLC500が、前を走るプリウスとホワイトインパルス2号車、S2000AP1を蹴散らす。
(速い。ついて行くぞ。頑張れ純白のS!)
九重拓洋もライトを付けて、必死にLC500の後を追う。
アドバンコーナーを抜け、300Rへ飛び込む。しかし、徐々にその差が開いていく。
(レクサスとのパワーの差か。頑張ってくれ。)
ダンロップコーナーに入る。
LC500とS660の差が大きくなっていく。
パナソニックコーナーを、タイヤを鳴らしながらクリアしてメインストレート。
「何ぃ!?」
レクサスは一気に加速。S660も必死に加速していくが、追い付けない。
(どこへ行くの?拓洋。)
「うわっ!?」
1コーナーでオーバースピードからアンダー出してオーバーラン。コースアウトだ。
(ダメだ。アレは。)
と、6号車は思った。
走行時間終了後、レース前のブリーフィングが海老原陽一、拓磨親子と坂口真穂、愛衣で行われていたがそこに、6号車のドライバーが割って入る。
「ホワイトインパルスの4号車だが―。」
「彼が?」
坂口真穂が応える。
「何か精神的に負荷がかかるような事があったのか?」
愛衣がどうしようかと考えたが、
「実は―。」
と、九重拓洋が抱えている問題を話した。
「女。それも、過去の趣味を引きずり出して目茶苦茶にか―。分かった。」
「それが何か?」
「結論から言う。彼を、レースから外せ。」
それに、海老原親子も坂口姉妹も息を飲んだ。
「俺だってプロだ。プロドライバーとして、彼とレースはしたい。だがそれは、彼が本気を出せる状態ならの話だ。プライベートの問題に足を引っ張られるあまり、本気が出せず、そればかりかストレートで周りが見えず、クラッシュしかけていた。危ねえ走りをするような状態でレースに出られると、彼自身もだが、こっちも危険だ。」
海老原親子と坂口姉妹は考えたが、
「分かった。そう彼に、九重君に伝えよう。」
と、最高責任者の海老原陽一が言った。
「彼には申し訳ないが、モータースポーツの世界は、死に直結する。彼とは、彼の悩みが消えたときに改めてレースをしたい。ああ待った。」
海老原陽一と坂口愛衣が九重拓洋に、レースに出るなと伝えに行こうとしていたのを止める。
「彼には、俺の口から話そう。嘘の理由で。本当の理由を伝えると、余計に萎縮してしまうだろう。」
「分かった。」
海老原陽一が肯いた。
S660の脇で用意をする九重拓洋に歩み寄る。
「九重君。ちょっといいかな。」
と、海老原陽一が話しかける。
「はい?」
6号車のドライバーが、「レースに出るな」と言う。
「君のS660。レクサスやTOYOTA86が相手ではパワーの差がありすぎてついて来れない。つまり、レースにならないのだよ。」
「すまない。俺達がbeatで来ればよかったのだが―。」
九重拓洋はそれに何も言えなかった。
「それが理由ですか?俺はレクサスに、6号車について行けました!MR‐2にも、S2000にも―。」
「レースとなれば話は別だ。皆が本気になる。」
「ちっ―。」
九重拓洋は悔しさのあまり、拳を握っていたが、どうすることもできない。
「俺、帰るわ。」
と、九重拓洋は着替えをユーリティーボックスから引っ張り出し、着替えに向かう。その際、ユーリティーボックスを蹴っ飛ばした。
「すまない。そちらの4号車が下手くそだってわけではない。俺も彼とレースがしたかったが―。」
「いえ。良い判断だと思います。本当の理由は私たちから話します。これを気に、彼が良い方向へ行ってくれれば良いです。ただ、彼の彼女が彼のモチベーションの中心になっていたら、かえって悪化するかもしれませんが。」
それを見ていた知恵はある行動に出ようと思った。




