交流戦の誘い
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
海老原拓磨というレーシングドライバーから、交流戦の事を聞いた。
「いいですね。ちなみに何処でやります?」
俺はいきなり、レーシングチーム同士の交流戦に参戦しないかと言う誘いを受けて舞い上がった。
当然これは行くしか無いだろう。
「海老原レーシングの拠点はスポーツランドやまなしってサーキット。韮崎にあって、近くには昇仙峡ラインって言う道がある。」
「昇仙峡―。」
そこは、恐怖の場所だ。
怒りまかせにアタックしてクラッシュした因縁の場所だ。
「この外にも、国際サーキットでは富士スピードウェイで走る事もある。九重君の希望によっては別のサーキットでもいいが―。」
「すみません。その、出来れば富士スピードウェイでお願いします。」
「富士か。OK。」
だが、俺の言い方で海老原拓磨は感付いたらしい。
「ちなみに、昇仙峡ラインでは何か?」
「いや、その、なんでもないです。ただ、富士を走れるのなら走りたいなって―。」
本当の理由は言えそうもない。
坂口さんは知っているけど。
風呂を出る時は、海老原拓磨と一緒だった。
ちょっとの間に打ち解けてしまった。驚いたことに、彼は俺と同い年。更には、フォーミュラカーのレースにも出ており、目指す場所はなんとF1だというのだ。
「それじゃあ、詳しいこと決まったら連絡するな。」
「はい。楽しみにしております。」
そういって、俺は自分の部屋に入る。
(ライセンスを取ったその日に、レーシングチームの交流戦の誘いとは、凄いなあ。って、俺はどっちに所属?ホワイトインパルスの方かな?)
そう思って居ると、芽美も部屋に戻ってきた。
(あっ。そうだ。芽美をどうしよう。)
急に思った。
「何?」
と、海老名芽美が聞く。
「えっいや―。」
「レーシングチームから、誘いを受けたみたいね。」
「―。」
「愛衣ちゃんが言っていた。愛衣ちゃんのチームの一員として、チーム同士の交流戦に行くんでしょ?」
何も言い返せない九重拓洋。だが唯一分かったこと、それは、自分はホワイトインパルスの一員として交流戦に臨む事だ。
ホワイトインパルスの正体は坂口三姉妹。全て白のHONDA車というワンメークチーム。九重拓洋の本来の搭乗車は白のS660。確かにこれなら、ホワイトインパルスに所属する条件はクリアしている。
「どうなの?」
「行くつもりだ。来るなら芽美も来ていいぜ。」
「そう―。」
芽美は何かを抑えているようだ。
下手に刺激しないほうが身のためだろう。
「今の仕事、どうするの?」
「やりながら、アマチュアレーサー。」
「結婚したら?」
「あっ―。」
そうだ。結婚か。車に夢中で、結婚ということがどこかへ吹っ飛んでしまっていた。
まあ、その原因作ったのはどこかのバカなんだけど。
「私の周りの人達、タクミが私に構ってない。むしろ、ほったらかしにしているって心配しているのよ。」
(どの口が言うか!)と言いたいのだが。
「今日、私がここに来た事も意外に思っていたでしょ?」
それに肯いた。事実だ。来れる訳ないと思っていたからだ。
いろいろあって、来れたらしいが。
「コウ、学校の先生、友人、皆に行けって言われた。親にはグタグタ言われたけどね。必死に峠を越えて、秩父で真穂達と合流して、ここまで来た。」
(いい加減いただけねえな。)と思いながら、携帯でスーパーGTの動画を見る。
富士スピードウェイで行われた第5戦のダイジェスト動画だ。
(敵の本拠地でやり合うのが良いんだが、昇仙峡ラインはちょっと行きにくい。ちょっと足を伸ばしたところにこんなデカイサーキットだってあるんだ。こっちでやりたいよ。)
不意に携帯を取られる。
「ねえ。タクミは私の事、どう思っている?」
「どうって―。」
(携帯盗んでこんなこと訊く奴なんか轢き殺すぞ。俺が声かけたくたって、テメエは携帯ゲームしているか、別の奴と電話していて声かけられず、我慢していたってのにいざ逆になったらこれか。)
「エアガンからは―」
「うるせえな。いつの時代の話だ。とっくの昔に、親父に押し付けてもう手を引いているってのに、またそれ引っ張り出すのか。いい加減にしろよ。早く結婚しろだのなんだの言っておいて、いざそうしようとしたら、やれあれダメこれ止めろだの、勝手もいい加減にしろよ。」
グイっと仰向けにされる。
芽美は俺の上に跨る。バイクじゃねえんだよ俺は。
だが、芽美は最近かなり大胆に来る。
ラブホに連れ込む、風呂に乱入、今日は何するつもりだ。今、携帯から流れる動画の音声以外、何も聞こえない。嵐の前の静けさだ。
「ああーーーーっと!GT500、2位の16号車、NSXがトップの3号車NSXにぶつかってしまったぁーーーーっ!!」
何やってんだよ!身方じゃねえかよ!NSX同士で潰しあってんじゃねえよ!NISSAN勢のごっつあんじゃねえかよ!ARTA頼むぞ!
「ちょっと前までは、タクミが上だったよね。でもビビって何も出来ず、一緒に寝るだけだった。」
「16号車にドライブスルーペナルティーです!現在トップは8号車、カルソニック坂野のGTRです!その後をARTA月夜野のNSXが追う!レースは残り5周!カルソニックとARTA、どちらに軍配が上がるのか!?」
「タクミはこうしようとしたんだよね。」
モゾっ
「っ!?」
「あーっと!?GT300クラス19号車BRZが停っている!!コカコーラコーナーです!!」
ゴソっ
「ひっ!?」
「―。変な声出して。」
モゾモゾっ。
「GT500は、月夜野が最終コーナーで坂野に並ぶ!立ち上がりではNSX速いぞ!逃げる坂野!」
「こうなって、それで―。」
吐息が首筋に命中している。髪の毛もヒット。くすぐったくて呼吸困難。エアインテークから空気が上手く取り込めない。
「NSXとGTRが最終周回に入る!GT500カルソニック逃げ切るか!?それともARTAが逆転か!?」
ゴソゴソモゾモゾ。
「タクミ。横向かないで。それから、力抜いて。」
スッ。
「こうなって、キスして―。」
目を瞑って芽美が顔を近付ける。
「最終コーナーを立ち上がる!並んでいる!並んでいる!!どっちだ!カルソニック坂野か! ARTA月夜野か!!」
観念してこちらも目を瞑る。唇に接触。
「ATRAだ!その差、0.4秒!!最後の最後に大逆転!激戦の富士を制したのはARTA月夜野だ!!」
唇が離れた。
「タクミ。こんなことしていいの、私だけでしょ?」
「―。」
「私、分かるよ。タクミの事なんでも。タクミだって、私以外の誰にも全て見せてくれない。タクミも私ほど、タクミの事思っている奴はいないって分かるでしょ?」
「いやさ、俺分らない。芽美が本当に俺のこと思っているのかなんて。」
ゼエゼエ言いながら言い返す。
「解ってよ。私しか居ないって―。」
そこから更に一戦が始まった。




