敗北のアンダー
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
「アンダー!?」
ゴールラインを通過した坂口愛衣のマシンを、真穂は信じられないと言う顔で見る。
「愛衣がアンダー出して負けるなんて。あんな呆け無い負け方―。」
だが、海老名芽美だけはその理由が分かった。
(私とタクミと同じだ。ただ違うのは、私はニヤリと笑っていた。)
ピットに戻ってきた。
坂口愛衣に真っ先に声をかけたのは、海老原拓磨だった。
「あんなところでなぜ?」
「簡単よ。あんたに、追突されると思ったから。クラッシュしてあんたがケガでもしたら大変だから。あんたには未来がある。F1を目指すのでしょ?だったら、こんなところでケガ出来ない。」
愛衣はその時、後ろから来る拓磨のマシンを確認したが、勢い余って拓磨は愛衣に追突しかけていたのだ。
追突されれば、愛衣はバランスを無くしてクラッシュする恐れがあった。
「自分の名声を犠牲にして俺に勝利させたというのか?」
「逆に言うけど、他人を事故らせて勝ったって言われるのと、他人がミスをした隙をついて勝ったって言われるの、どちらが良い?私は、他人を事故らせて勝ったって言われるのは嫌。」
「俺は納得出来ない。どうしてお前が、走り屋から先へ行けないのか。俺よりもお前のほうが腕は上手だ。」
1位と2位の間に、何とも言えず、気まずい空気が産まれてしまった。
表彰式が終わり、撤収を終えて九重拓洋を迎えに第1パドックのコントロールセンターへ向かう。
夕方の景色の中、ロードコースを白いNSXタイプRが最後の試験に臨んでいた。
車を止め、連絡通路からメインスタンドへ行くと、日が暮れたサーキットに明りが灯っていた。
「あのとき、芽美さんとタクミを思い出したのです。」
と、坂口愛衣が芽美に言う。
「後を一瞬みたら、拓磨のマシンがかなり接近してきていた。しかもレコードラインを行けば追突されてしまう程の速さで。」
「―。」
「芽美さんとタクミのレースで、タクミは芽美さんを避けて、その後無理にアクセルを開けたためにクラッシュしました。芽美さんとタクミの間だったら、芽美さんが勝った。タクミが事故って負けた。それで終われます。しかしモータースポーツの世界ではそうは行きません。他人を事故らせて勝とう物なら、そのレーサーは一生、他人を事故らせたとバッシングを受けます。そして、下手をすればレースの世界からも追い出されます。拓磨に、そうなって欲しくない。まして彼は、F1を目指しているのですから、こんなところで不名誉な汚名が付いたら今後に影響します。引くときは引く。それもまた、レーサーというものですよ。」
「愛衣ちゃん。海老原拓磨の事が―。」
NSXタイプRが通過した。
「私に好きな人はいません。確かに、拓磨を同い年のレーサーとしてライバル心を抱いてはいました。でもそれは恋心とは違います。そして、タクミも違います。日に日に、走り屋へ足を踏み入れて行くのを見ていると、昔を思い出すのです。だからこそ、走り屋から私達の居るモータースポーツの世界へ進出してほしい。そう思うのです。」




