ナビシートの景色
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
また、自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
「彼女をナビシートに乗せて、1本やってやれ。」
と言ったのは朝倉さんだった。
「インテグラDC5とCL7アコードユーロRのバトル。これに後からついて行って、彼女に見せてやれ。走り屋のバトルがどんな恐ろしいか。」
「ガスはまだありますけど―。」
「2台ともFFだから、なんとかついていけるだろ?それについて行けなくたって、軽スポとスポーツカーの違いってもんを見せてやれるだろう。」
(メンドクセエ。)
「芽美はどうするよ。」
彼女に聞く。
「笑ったのは謝る。私、タクミの居る世界を知らないから。だから教えて。」
「ちっ。命の保証はしねえからな。死んでも恨むなよ。俺は後で死んだってオメエに言われようが、オメエの親やダチに言われようが、責任取らねえからな。乗るのはテメエの自己責任だ。俺は嫌だって言ってんだ。」
「でも、教えて。口で言われたり、映像で見ても解らないから。」
周囲を見回す。
「みんな聞いていたな?俺は今、「自己責任だ。俺は嫌だ」って言って、こいつは「解らないから乗せろ」と言ったな?」
回りの奴等みんな肯く。これでは、まるで暴走族の族長だ。
「私たちの4号車が事故って同乗者殺しても、ドライバーに責任無しってことでいいよね!」
知恵ちゃんが叫ぶ。何なんだ。ホワイトインパルス三人姉妹は。
「じゃっ、やってよね。」
坂口知恵のインテグラDC5と、群馬からやって来たCL7アコードユーロRの後を、助手席に海老名芽美を乗せたS660が走る。
二瀬ダムを渡り終えると、アクセル全開だ。
第1セクション向け、二瀬ダムを渡る2台の後を、S660はしっかりついて行く。
更にその後から、もう1台来ている。
それに気付いた九重拓洋。
「芽美。本当に死ぬぞ。止めるなら今のうちだ。」
「止めないよ。」
「分かった。」
S660がアコードユーロRに接近しパッシングして下がる。それで、アコードも分かったらしい。
「四つ巴?良いわよ。」
坂口知恵はニヤリと笑った。
3台の後を追う1台のタイプR。
「お手並み拝見と行こうか。お前ら。」
リトラクタブルのヘットライトが接近してくる。
二瀬ダムを渡り終え、第1セクションに最後尾が入った。
ここで改めて、バトル開始だ。
最後部の車がパッシング。それを前に繋ぎ、バトル開始の合図だ。
一気に加速する4台。
「3台目。俺と同じトラクション方式だ。条件は互角だ。ウチのチームで走れるか、見定めてやろう。九重拓洋君。」
「ヘットライトはリトラクタブル。MR‐2か?RX‐7か?」
第1セクションの秩父山寮のコーナーに入る。
インテグラ、アコードと続き、S660もドリフトしながらトンネルへ。
「ちょっちょっと待って―。」
海老名芽美がビビって身を縮める。
「なっ!?」
九重拓洋はこのとき初めて、後の車の正体を知った。
「NSXタイプRじゃねえか!HONDAが誇る最強のスポーツカーじゃねえか!」
ドリフトからいきなりトンネルへ突入。トンネルを出ると、切通しの岩壁が目の前に迫る。
「ぶつかる!ぶつかる!ぶつかる!!」
海老名芽美が悲鳴を上げる。
(第1セクションでこれか。第2、第3と行けば更に恐怖だ。ビビっておしっこカスタムしたら、洗車代請求してくれる。中には女の小便で喜ぶ奴も居るが、俺の車は便所じゃねえんだよ。)
海老名芽美は恐怖で足元を見ている。だが、振り回される状態で車酔いしそうになる。
しかし、九重拓洋は必死に目の前のアコードを追っているため、芽美に声を掛けられない。
第1セクションは近接戦だ。勝負が動くのは、第2セクションだろう。
道幅が広がり始める。インテグラがアグレッシブにコーナーを攻める。
アコードもそれに続く。
S660もタイヤが鳴りまくる。
「恐い恐い!止めてくれーーっ!」
悲鳴を上げる芽美に、拓洋が指で「前を見ていろ!」と指す。
「恐くて見れない!」
「車酔いするぞ!死にたくなけりゃ、前見て座席に背中くっ付けて踏ん張ってろ!」
第2セクションへ入るヘアピンコーナーを4台同時にクリアすると、ここからバトルが動き出す。
NSXが一気に加速。インテグラ、アコードも続くが若干モタついている。その間にS660がアコードの横に並ぶ。が、NSXがかなり近い。
アコードが引いた隙に、S660が前に。だが、NSXがS660を抜く。
最初のストレートでいきなり、NSXが2番手に。その後をピッタリとついて行くS660。信じられないスピードで急勾配を登る。これはまるで戦闘機の空中戦だ。
インテグラの右にNSX。左にS660。だが、馬力が足りないS660はインテグラを抜くのに時間がかかる。その間にNSXがインテグラの前に。
左、右、左とコーナーを抜ける。芽美は必死に、座席に背中を付けて前を見て踏ん張るが、振り回されて何が何だか解らない。
アコードが後ろから接近。
再度、ストレートでアコードがS660に並びかけるが、S660はインテグラを抜こうとしている。
だが、次の左直角コーナーでインに付いたインテグラが外に膨らむ。
「ちっ!」
ラインがクロス。だが、膨らんだ隙に、アコードがインテグラのインを刺す。S660が引く。
S660を抜き返したアコードだが、インテグラを抜けない。
緩いコーナーに入る。その間にも、NSXはインテグラを引き離しにかかる。
直角右コーナー。ここで、アコードがアンダー。その間に、インからS660が刺す。
「壁!壁!壁にぶつかる―」
「黙ってろボケ!気が散るんだ!ギャーギャー言ってると、口ん中血まみれになるぞ!」
再度、戦闘機で急上昇するかのような登り急勾配のストレート。
インテグラを捉えるS660。だが、先頭のNSXとインテグラの差は5秒近く開いている。
緩い右の後、左コーナー。
そして、2つ目のヘアピン。道が無くなり、カタパルトで宇宙空間へ打ち出されるような錯覚に陥りながら、インテグラのアウトからクリアしていくS660。
更に登る急勾配。
インテグラと並んでいる。すぐ後ろにアコード。前にはNSXタイプR。
左コーナーの後、ストレートから右へ。完全なS字ではないが、このコーナーもかなり激しい攻防が繰り広げられる。
右側には谷。左は壁。
前には吸い込まれそうな星空。
インテグラはNSXに追いつこうとしていたが、S660に並ばれると、それを引き離そうとする。
だが、次の右コーナーで、立ち上がりに有利なS660がアウト側からインへ流れるように走り、インテグラは引いた。その間に、S660が前に出て、立ち上がり勝負。
「やりやがったな!」
坂口知恵はS660をロックオン。
だが、後ろからはアコードも来ている。
登り勾配で長い左コーナー。
インテグラとアコードがドリフトで流しながら登っていく。しかし、アコードのドリフトが続かず戻った。その間に、インテグラとの差が開く。
S660がNSXに食らい付く。だが、ストレートでNSXが差を広げる。更に、インテグラも食い付いてくる。
デットヒートは、まだ半分だ。




