4WDとMR
この物語はフィクションであり、実在の地名、団体とは一切関係ありません。
公道での乗用車による高速・危険走行は生命に危害を及ぼします。
作中での行為は絶対に真似をしないで下さい。
また、自動車を運転する際は道路交通法を遵守し、安全運転を心掛けてください。
「ギャッハハハハハハハハハっ!」
海老名芽美は戻ってきた九重拓洋に大笑いだ。
「ダッセェーーーッ!超ダサい負け方してやーーんの!あっコウに報告しちゃおーーっと。」
ゲラゲラ笑いながら、海老名芽美は誰かに電話。
「笑い事じゃねえよ。バカじゃねえの。」
朝倉がイラつきながら言う。
「ホントです。アレ、あのバカぶつからなかったから良かったけど―。」
坂口愛衣も不機嫌だ。
S660の運転席に座ったままの九重拓洋は意気消沈。
「まっ、現実ってもんはこうよ。気を落とさないで。タクミ君が弱いわけじゃない。エスロクでここまで頑張れたのは、タクミの腕がよかったからよ。」
坂口真穂が慰める。
「さあさあ!コウに今のタクミの気分を―」
「いい加減にしろ!」と朝倉が言おうとしたが、その前に、「ゴッ!」っとかなり鈍い音が響いた。
「やりやがった―。」と誰かが言った。誰かがやると思っていたが。
九重拓洋は拳を降す。モロに顔面を殴られた海老名芽美はうずくまっている。
「何すんだよ!」
「うるせえ!ベンツの彼氏と仲良くやってればいい!俺に構うなヤリマン女!命を何だと思ってんだドライバーの!!」
そのまま、S660に飛び乗った九重拓洋は再び三峰山へアタックしていく。
今、スタートしたランエボとインプレッサを相手にバトルを挑む気だ。
「あのバカ。今度は死ぬ。」
S2000も飛び出した。
「殴られて当然です。タクミさんは、貴方の彼氏ではありましたが、貴方のペットではありません。コウとかいう男がどんな男か知りませんが、今の貴方の態度を見れば、貴方はタクミさんではなくコウと付き合っていると判断されてもおかしくありません。それからもうひとつ。もし今、タクミさんが事故ったら、貴方が責任を取ってくださいよね。」
坂口知恵が冷たい目で、うずくまる海老名芽美に言い放った。
群馬から来たSUBARUインプレッサWRX VAと須川のランサーエボリューションⅥ TMEのバトルに乱入したS660。先行はインプレッサで、後追いがランエボ。そのため、S660からはミスファイアリングシステム特有のアフターファイアが戦車の砲撃のように見えていた。
(ちっ!バンバンバンバンバンバンとうっせえなぁ!ランエボがよお!!)
「おい!乱入しやがったぞこいつ!」
須川がバックミラーを見て言う。
「4WD同士でバトルしてんだ。付いてこようったって、エスロクじゃ話にならん。突っ込んで死ぬぞ!」
インプレッサのドライバーも気付いた。
更にそこに、止めに入るS2000も加わり、第1セクションは四つ巴の大乱戦になった。
(ヤリマンに笑われたまま終われるか!あのときみたいに、コウだが誰だか知らねーが、4WDをボコボコにしねえことには、腹の虫がおさまらねえ。サーキットでは最強のMRが4WDに負ける分けねえんだよ!)
すぐ後ろにいるS2000が距離を詰める。
(坂口さん?上等じゃねえか。フロントミッドシップFRも乱入の大乱戦と行こうじゃ無いか。)
女男の滝のコーナーに突っ込む。
「退け退けーっ!退かねえとぶつけてダムに落っことすぞボケゴルァ!」
S660から真っ白なオーラが出始める。それは、徐々に彗星の尾のように、長く真っ白に伸びていく。
「エスロクが化けた。なんだ、あのオーラは!?」
「なんだか知らないけど、こりゃ全力で逃げるしかねえ。ランエボ、エスロク、S2000。こんな大乱戦は初めてだ。」
木々の合間を縫う見通しの悪い第1セクションを進む4台。
だが、S2000もまた不吉なオーラを出している事に、インプレッサは気付いた。
(後の2台は何かが違う。)
S2000から出るオーラは、S660を上回る程、強烈な物だ。そのため、須川にも、S660の背後にS2000がついてきているのが気配で分かった。
第2セクションへのヘアピンコーナーを通過。
S660がアウトからランエボの前へ行こうとする。だが、4WDのパワーを前に、歯が立たない。ここから、4WDのインプレッサとランエボはミサイルのように駆け上っていく。
「どうした純白のS!お前はランエボに一度勝ったのだぞ!吹かせ畜生!」
アクセルを目一杯踏み込んでいる。だが、追い付けない。
ここまで、なんとか2秒以内に収まっていた差が、徐々に広がっていく。
左、右、左とコーナーを抜けてストレートに。
「なっ!」
インプレッサとランエボは、既に次のコーナーに入っていた。
(追い付けないのか。ミットシップは、4WDに勝てないのか―。)
S660の後にいたS2000が、S660のオーラが弱まったのを見計らって前に出て、左ウインカーを出した。
「止まりなさい。」
と、言われるように、S660は減速。S2000は小径へS660を誘導し、小径に少し入ったところで止まった。
「畜生、畜生―。」
「気分は少し晴れた?」
「―。」
「まっ無理も無いね。あんなの見せ付けられたら。タクミ。悪いけど、あの彼女はもう捨てな。セックスしたのか知らないけど、セックスしたら別れられないってわけじゃないから。このまま行くと、タクミはあの彼女のせいで大クラッシュする。」
坂口さんは缶コーヒーを渡す。
「タクミの車から、彗星の尾みたいなオーラが出ていた。」
「彗星だと?」
「うん。タクミの車。碓氷でも薄らボンヤリとだけど、オーラを感じた。それが、徐々に大きく延びて、今や彗星の尾になっている。タクミが彗星の核。エスロクが彗星のコマ。そして、エスロクから放出されるオーラが彗星の尾。って言ったとこかしら。」
「何が言いたい?」
「彗星は尾が長く明るければそれだけ美しい。でも、それは彗星の死にゆく姿でもある。タクミの場合、彼女に対する思いがエスロクから出るオーラとなっている面が多いと思う。彼女に嫌な思いがあって、それによるストレスで、彗星の尾が延びて、長く明るく美しい姿を見せる反面、彗星は輝けば輝くほど死に向かって行き、最悪、核がバラバラに砕けて消えてしまう。分かるでしょこれで?」
「要するに、彼女のストレスで事故って死ぬと?」
坂口さんが無言で肯いた。
確かにそうだ。元に、一度、彼女のせいでクラッシュしている。
「このまま、ここで2台が降りてくるの見ていこ。今、降りると危ないから。」
「なあお前、好きな奴誰だよ。」
ドギャーーーーッ!とスキール音。
「私は、私の好きな事を解ってくれる人を好きになるね。」
その答えを、意外に思った。
この手の話は大概、「芸能人」「アイドル」「声優アーティスト」見たいなチャラい奴とか言い出すのだが。無論、あのバカも。
「それでいて、私と同じ走り屋。だけど、まだ腕はそこそこ。知識も微妙。それで、非力な軽スポで頑張っている奴かな?」
「けっ!」
後半は冗談だろう。
「なんなら、家に婿に来る?そうしたら、義理の姉、妻、義理の妹、全員走り屋になるよ?」
「走り屋に女は要らねえよ、バカ。」
とは言ったが、
「でも、案外それも良いかもしれないな。」
と、ボソっと本音を言った。
「冗談よバーカ。」




