三峰ヒルクライム1
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
先行で出て行ったS660。
海老名芽美は二瀬ダム展望台から、二瀬ダムを渡っていく2台を見送る。
ダムを越えたところで、2台から聞こえるエンジン音が一気に高鳴ったが、それも直ぐに小さくなってしまった。
「無事に帰ってきて。事故だけは起こさないでよ。タクミ。」
と、他の走り屋達が、結果がどうなるか予想している中で祈った。
S660は、その小さな車体で軽々と、見通しの悪く狭い道のコーナーを越えていく。だが、九重拓洋は碓氷以来の、夜間の峠アタック。
一応、坂口愛衣のS2000AP1の助手席で道は確認しているが、怖いことに変わりはない。
BRZは車体が大きいが、運動性能は良い。しかし、馬力はスポーツカーとしては200PSと非力。
だがS660の64psと比べれば、その差はおよそ3倍。
しかし、最小旋回半径は5.4mのBRZに対し、S660は4.8mで小回りの良さでは勝っている。
パワーで勝るBRZと、旋回半径で勝るS660。峠では、勝負の分け目はコーナリング勝負となるかもしれない。
(このコースは3セクションに分けて攻略していく。見通しの悪く狭い第1セクション。見通しは良いが急な勾配が続く第2セクション。そして、ストレートとアップダウンの第3セクション。おそらく、前のエスロクは第3セクションで、馬力の差に付いて行けず力尽きるだろう。)
BRZの朝倉は、九重拓洋のS660を後ろから観察している。
見通しの悪い第1セクション。道の右側には二瀬ダムのダム湖。ガードレールを突破ったら、このダム湖に落ちて死亡だ。
埼玉大学の秩父山寮のところにある、この道唯一のトンネルに突入する直前の右コーナーでは、道が広くなる。
内側をショートカットしていくS660に対し、旋回半径が広いBRZはアウトから入る。だが、S660が先にトンネルへ入った。
(流石はエスロク。小さな旋回半径でコーナーをクリア。そして、ミットシップの立ち上がりも速い。だが、馬力の低い軽スポ。どこまで逃げられるかな。)
秩父山寮のトンネルから350m進んだ場所の切通を通過。
真っ暗闇の中に、巨大な岩の壁がヘットライトに照らされて浮かび上がる。
(真っ暗な峠道。恐いらしい。小回りの良さで上回るエスロクは、この第1セクションでいかに後との差を付けるかが勝負だと思うのだが。)
コーナーの頂点に、小さな案内板。
女男の滝のコーナーだ。二筋の流れがあることから名付けられ、縁結びの滝でもあるらしいが、水量が少なくお世辞にも滝とは言い難い。
S660とBRZは女男の滝を通過。ここから次のコーナーまでのストレートで、S660が加速。
(この先の見返りの滝から先は少し道幅も広がる。その分、ペースを上げていく。この狭い場所じゃないと、BRZとの差を付けられない。もし、ダメなら、最初のヘアピンからの立ち上がりで引き離すしかない。FRのBRZに比べ、ミットシップは立ち上がりでは有利だ。)
見返りの滝を過ぎると、S字。
S660が、クリッピングポイントをコーナー奥にとった出口重視のライン取りで、S字をクリアすると、短いストレートを利用して一気に加速。
(道幅が僅かに広くなったところで、ペースを上げ始めたか。確かに、この道幅ではまだ、BRZには狭いが、エスロクなら余裕だ。だが、白石峠で走っている割には、狭い峠道の克服がなってない。)
朝倉は鼻で笑った。
ストレートから再度、S字。
これを抜けると少し長いストレート。
(見返りの滝からの道幅が僅かに広がるこのセクションは、この先のヘアピンで完全に片側1車線道路になる。それだけの道幅で、勾配もコーナーも無いストレート区間となれば、馬力で勝るBRZが速い。僅かなチャンスを活かさないと。)
だが、三峰神社には何度か来た事はあっても、夜間のこの道を走ったのはこれが初めて。コースは頭に入っているものの、夜間と言う未知の時間の恐怖が、九重拓洋を襲う。
ストレートからS字。どこの峠もそうだが、S字コーナーが多い。
道は山の斜面に対して正面から登っていく事はほとんどない。
正面から登っていくと、とてつもない急勾配になってしまい車は登れないからだ。そのため、山越えをする道は基本、谷や斜面に沿って作られている。そうすると、小さな沢や尾根を越える際にコーナーが生まれて行き、それらが重なってS字の複合コーナーを形成するのだ。
目の前に、左90度コーナー。
ここを過ぎると、もう片側1車線の見通しの良い急勾配だ。




