初走行
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
「スポーツカーねえ。」
と、助手席の女の子。まあ、私と同い年なんだけど。
「普段、タクミや私がどんな事をやっているのか、雰囲気だけでも見ておいても損はないよ。」
私、坂口真穂はCR‐Zの助手席に、元カレの友達の友達という海老名芽美を乗せている。
「あーっもしもし。15時からの走行枠空いてます?えっ?えっええ。はい。ああ、私は大丈夫ですよ。ええ。はい。はい、分かりました。」
ハンズフリーマイクで、これから向かう安曇野サーキットstage2に連絡。
「甲府の専門学校の授業、こんなことなら今日休めば良かった。昨日、寝たの1時過ぎ。んで、また朝早く松本から電車で甲府行って。」
「そりゃ大変ね。」
「まったくよ。でも―。」
「ん?」
「昨日、高速でタクミの車を見たような気がするんだよ。白に青のラインが入って、後ろに、真穂の車と同じ翼?が付いていた。」
私のCR‐Zにもその後、リアウィングを付けた。翼というのは、リアウィングの事だろう。
「そうなんだ。」
「でも、雰囲気がおっかなかった。まるで、隕石でも落ちてくるかのように、後ろから、私の乗っている車を追い抜くと、流星のように消えていった。親と乗ってたんだけど、車内は恐怖で凍り付いたわ。」
「まるで、溜まっていたフラストレーションを吐き出していたみたいね。見てないから解らないけど。もしタクミ君なら、S660のエンジン音は、怒りの咆哮。あっ着いたわ。」
私は走行受付をして、更衣室でレーシングスーツに着替える。
明後日、ハイブリッドカーのワンメークレースがここで行われる。
その練習走行のため、今日は来た。
トランクに積んでおいたレーシングスーツに着替え、ヘルメットを被る。
「へえーっ。カッコイイねその服。」
「バーカ。これは職場の制服みたいなものよ。これを着る時は、生半可な事出来ないからね。練習から本番。本番は練習。車をピットに移動させるわ。一緒に来る?」
「行く!」
「えっ?まあ、良いですけど―。」
単独走行だと思っていた九重拓洋だったが、急にもう一台追加で走ることになった。
とりあえず、隣りのピットに挨拶しておこうと思い、そこを訪れる。
「タクミ!?」
「なっ!?」
思いっきり派手に驚いた。
「芽美。どうして―。」
「それはこっちのセリフよ。ずっと会いたい会いたいって思って―。なんでここにいるの?仕事は?」
「えっと、その、ちょっと込み入った事があって―。」
ピットの車を見た九重拓洋は舌打ちをした。
「なんだ?芽美も走るのか。CR‐Zかよ。クソ生意気な。この前俺、こいつにあと一歩のところで負けたんでね。少々ムカつくな。相手が誰であっても、俺は容赦しねえぞ。ここが初めてのサーキットであろうが関係無い。」
「おっと。どこ見てるの?走るのは私よ?」
CR‐Zの影から出てきたのは真穂だった。
それを見て、九重拓洋は気が付いた。
CR‐Zのナンバーは熊谷59す61‐20。真穂さんの車だったのだ。
「明後日のハイブリッドカーレースに参戦するんでね。相手がタクミ君なら、私も本気出せる。ところで、どうしてここに?」
「ちょっちょっと込み入った事が―。」
「まあいいわ。んじゃ、しっかり私の相手をしなさいよ。」
「上等。俺もちょっとね、昨日からムカムカしててな。」
「えっ?」
坂口真穂は、九重拓洋から只ならぬオーラが出ているのを感じた。
(まさか。芽美が見たのって、本当にタクミ君だったの?)




