スタート
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
また、サーキット走行に関する描写は、岡山国際サーキットの走行規程を元にアレンジした物です。
実際のサーキット走行時には、サーキットごとに定められた規程に従って走行してください。
秩父サーキットを走行する場合、オープンカーは幌を閉めた状態ならロールバーの装着を義務付けてはいない。そのため、レースもそれに順守して実施している。
ほとんどの場合、サーキット走行ではロールバー等の安全装備を揃えていなければならないが、ロードスターやS2000等のオープンカーはロールバーを付けると屋根の開閉に支障を来す。そのため、サーキット事にオープンカーに対する走行を設けており、レースもそれに沿った形で行われている事が多い。(レース時の走行規程を別に設けている事もある)
グリーンシグナル。
スタート!
唸りを上げる10台のマシンが、全6周のレースに挑む。
4番グリッドからスタートした俺のS660は、前を行く朝倉さんのBRZの後を走る。
初レースにビビっている。だが、朝倉さんは一気に加速して1コーナーに。
ビビっている間に、後のアウディA3がアウトからぶち抜き、更にスイスポにも抜かれる。
(クソっ!)
ポジションを一挙に3つも落し、7番手。
だが、俺の後ろにいるのはMR‐2。
同じミッドシップだが、パワーはMR‐2の方が上だ。
2コーナーから3コーナーへ行く間に、MR‐2にも抜かれる。
メインストレートに戻ってきた時には、一挙に最下位だ。
前にいるのはスイスポとFD2シビックタイプRだ。
(こうなったらケツの2台を狙う!なんとかして、最下位だけは―。)
シビックはすぐ前にいる。
だが、抜くのが難しい。
「なんで―。走り熟れたこのサーキットが、まるで別物―。」
ギャギャギャアーーーーッ!
「うわっ!」
焦ってアクセルを踏み込んだが、コーナーでオーバーとなり、ビビってアクセル抜いたら、派手にスピンしてエスケープゾーンへさようなら。
どこにもぶつからなかったが、コースアウトしてこれで終了だ。
「クソッタレ!」
ハンドルにパンチしたって何にもならないのに。
レース終了後、坂口さんがニヤリと笑いながら近寄ってきた。
「現実ってもんがよく分かったでしょ?今のタクミは、腕はあっても所詮は走り屋程度。みんなそう。こんな低レベルのレースは、走り屋のお遊びよ。そんなお遊びにも勝てない。それが今のタクミ。お姉ちゃんに勝ったからって、早いわけじゃない。」
「―。」
「峠や高速道路と、サーキットの違いは、周回遅れや今のタクミみたいになった途端、ギャラリーの冷たい視線に晒される。逃げる場所もない。」
「なんで俺に目をつけたんだよ。」
「なんでだろ?それは自分の胸に聞いてみな。」
そう言い残し、坂口さんは自分の仕事へ戻る。
「ドンマイだ。俺も予選落ちだクソーっ。」
朝倉さんが言う。朝倉さんのBRZは5位だ。
決勝参戦は上位2台。
「朝倉さんは何で走っているのですか?」
「何でって言われても、好きだからって理由しかないな。」
「そうですか。俺は、よく解らないです。走っている理由が。でも、走っているときはこの世の嫌なことや辛いことを忘れられる。でも、何を求めているのかは解りません。好きだから、走りたいからって言う理由じゃ、理由にならなくなってしまいました。」
その日の決勝戦まで、なんとなく見ることにした。
予選の全4戦が終了。
決勝進出の8台が決まったが、皆、レーシングライセンス所持者。
審査員や新人発掘に来たらしきレーシングチームも面々はその中に、才能のある者を探している。
(ライセンスを取ったら、何か変わるのかな?)
昼飯はイベント時に出店する屋台で適当に済ませる。
朝倉さん達は帰ってしまい、予選落ちして残っているのは俺と、第4戦の後片付けをしている人だけ。
1台、ピットで泥を落として綺麗になった純白のS660が寂しそうだ。
「えーっここでイベントのご案内です。予選落ちした方々、決勝戦前のパレード走行を行います!参加ご希望の方は、第4ピットへお集まり下さい!」
おい!そこ俺のS660の隣じゃねえか!
慌てて車に戻る。
「参加するよね!」
「はい。」
強制参加だ。坂口さんがS660の所で待っていた。
というか、パレード走行に参加するのは俺だけだった。




