EK9の限界
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
「真穂。もうシビックはダメだ。エンジンがフロントから脱落しかかっている。脱落しかかったエンジンもカムシャフトがやられている。そしてフレームもひん曲がった。エアバッグも炸裂している。バケットシートとシートベルト。エアバッグのおかげで、真穂だけは助かったんだ。」
病室で、父の坂口正孝が真穂にシビックの状況を伝える。
「現実ってもんがよく分かっただろう。EK9は、限界が見えていた。今まで、S660のタクミって子に負けなかったのは、テクニックが真穂や愛衣のレベルにまで達していなかったからだ。どんなにドライバーのテクニックが良くても、車をどんなにチューニングしても、本来の性能の限界ってもんは変わらん。EK9は、真穂のテクニックや、今の車の性能に付いていけ無くなって来ていた。」
「浩一にも振られ、タクミ君のS660にも負け、そして、私の大好きなシビックは私が殺してしまった。」
「この際、他の車を見てみろ。車無けりゃ、走れないぜ。シビックと浩一の事は忘れろ。そうでなくっちゃ、お前の走りは、ここで終わりだ。」
そう言い残して、正孝は病室を出て行った。
「薄々は感じていたんだよね。愛衣。」
「―。」
「秩父サーキットで、BRZとやり合った時、勝てはしたけど、ギリギリで。その前の本庄サーキットでのクイックレースでも、ギリギリの勝利。次の筑波のレースではきっと―。」
「お姉ちゃん。シビック好きだったからね。最後の力を絞って、シビックはお姉ちゃんを守った。そう思う。私は、タクミと一緒の会社で、自分の持つドラテクと語学力を活かして、観光タクシーの運転士をやりたかった。でも―」
「せっかく取得した資格のために、車を下ろされ、こき使われて、うつ一歩手前で秩父へ逃げ帰って来た。でも、S2000AP1は受け入れてくれた。気難しいフロントミッドシップが。」
「お姉ちゃんも、ミッドシップに乗ろう?知恵にも、言っておく。これを気にみんなで―。」
「嫌!私はシビックが好きなの。EK9が。」
その目には、涙があった。
(そうなるとは思ってはいた。だが、もう程度の良いEK9はこの近辺にはない。しかしだ、S2000やDC5と違って、シビックタイプRは未だ、新車が出ている。その中から、EK9に似た雰囲気を持つやつを見つけ出して、それに乗るか、別の車に乗り変えて吹っ切るか、あるいわ―。)
正孝は廊下で愛衣を待つ間、ただ立ち尽くしていた。
「シビックは、世界一のFFよ。それは今も昔も変わらない。誰がなんて言っても、私は、シビックが世界一だと思っている。自分の乗る車が、世界一だって思わなければ、車はついて来ない。」




