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純白のSと共に  作者: Kanra
5stage碓氷峠攻防戦
49/435

Dog fight

この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。

自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください

 海老名芽美は言われた通り、碓氷峠旧道の軽井沢側入口付近、バスの駐車場付近で待つ。

 本当に、九重拓洋は登ってくるのか分らない。

 我を失ったかのように、その場で2回転半のドリフトをした白い軽スポーツカー。その車内にいたドライバーと一瞬、目があったのを覚えている。殺意剥き出しの鋭い目付きだった。

 しかし、その向こうに悲しい目もあった。

 チャラい男子は、その日たまたま一緒になっただけだった。

 だが、やけにガッ付いて来てしまい、困っていた状態で、作り笑いを浮かべながら学校を出た時、その軽スポーツカーの存在に気がついた。

 もし、九重拓洋だったら―。

(いや、あれはタクミよ。そうじゃなかったら、あんなことしないよ。)

 そう思った時、僅かに暗闇からスキール音が聴こえてきた。

 だが、その時、

「もう、帰っていいらしいよ。」

 と言われた。

 

「クソォっ!一回前に出たってのに!」

「一回でも、私を追い抜いた。サーキットや峠バトルで負け無しの私を。それが出来たのは、タクミ君。ただ一人だけよ。」

「S660とタクミ。もう切っても切れない間柄になっている。」

 EK9とS660。AE86は、C128に突っ込む。

 木々の合間から、アプト線を行く列車と新線を行く列車の灯りが見える。

 ED42が汽笛と共に次のトンネルに吸い込まれて行く。

 189系を押し上げるEF63重連の最後尾で寂しく輝く紅のテールライトが闇に消えていく。

 信越本線の列車が見えるのはここまでだろう。

(ここから先は自分自身で越える。)

 C131手前のストレートを突き進み、C131へ突っ込む。ここから先は、この先の道が谷の対岸や崖の上に見える事がある。

 C133では、崖の上にこの先進む道のガードレールが見える。

 だが、街灯の無い峠道。見えるのは真っ暗な谷底と、星空だけだ。

 連続ヘアピンをクリア。

 対向車接近。

 すれ違う。

「はあ。はあ。」

 EK9の坂口真穂が疲れ始める。

(そうだ。登ったらそこに、タクミ君の彼女が待っているんだっけ。)

(あっ登ったら―。)

 坂口愛衣も思い出した。

 碓氷峠を登った所に、九重拓洋の彼女である海老名芽美が待っていると言う事を。

(行ったら、彼女に会いたくなってしまうか、完全に忘れてしまう事が恐くて越えられない。でもさ、それって逃げているよね。彼女のことを思う自分から。だったら、行きなさい。碓氷峠へ。)

 九重拓洋を碓氷峠へ来させるために言った事を思い出す。

 だが、今度は坂口愛衣が碓氷峠を越える事が怖くなってきている。

 九重拓洋はまだ、碓氷峠の最終コーナーを越えていない。

 碓氷峠は片峠故、最終コーナーを抜けると、そこはもう軽井沢。そこまでの山道が一転、一気に視界が開け、目の前には軽井沢の町並みが広がっているのだ。

 きつい右V字のC162を通過。残りのコーナーが少なくなっていく。

 坂口愛衣はもう力尽きそうだった。

 AE86の燃料計を見る。燃料は残り2メモリ。登ったら直ぐに補給しなければならなない。S660も同じだ。だが、EK9はまだ余裕。しかし、それ故に車が重い。

 C168からC169の複合コーナーに突入。

 EK9がオーバースピード。C168で外に膨らみ体制を崩す。

(行け!)

 その隙に、再度S660がインから抜きにかかる。が、クリッピングポイントをコーナー手前にしてしまったため、C169進入に失敗。EK9と並んでC169に進入するが、危険なためS660がEK9の後に引く。

 C172からC173の複合コーナーが接近。

「外から行く!変にインに付くな!対向車無し!」

 C172に外から進入。

「バカ!アウトから行くの!?」

 坂口愛衣が驚く。

 だが、コーナー進入速度は、S660の方がEK9より僅かに早く、進入した時、EK9より僅かに前にS660がいた。

 S660はここでインを閉める。貼り付けにされたEK9は前に出られない。

 C173進入時、S660が前にいた。だが、外から入れる絶好のポジションに居るのはEK9。

 今度はS660がインを閉められて前に行けない。

 残り10コーナーを切る。

 C175。

 再び、EK9がアンダーを出す。

 重い燃料に加え、タイヤも疲れてきているようだ。

(デートのために、さっき燃料を満載してしまったからね。タイヤも疲れてきている。重いしクリップ力も落ちている。お願いシビック。あと少し頑張って。)

 だが、S660が膨らんだEK9よりイン側をつく。

「ラインがクロス、ぶつかる!」

 EK9が引く。

「もらった!」

 S660が再度、前に出た。

 後ろからAE86が接近。

「お姉ちゃん。悪いけど、私も前に行ってもいいよね?」

 C176でAE86にも抜かれそうになるEK9。

 だが、S660がC177の立ち上がりでアンダー。

 アクセルを戻した隙に、EK9が前に出る。この先はC178までのストレート。

 だが、ストレート立ち上がりはミットシップの方がFFより上だ。

 ストレートで、S660が前に出た。

 C178進入時、には完全にS660が前にいた。

「クソ。親父の車以外、誰にも負けたこと無い私が―。」

「タクミがもし、NSXに乗ったら、誰にも止められない。私達姉妹が束になってようやく互角。今の軽スポでも、本気のタクミは強い。タクミがNSXタイプRと出会った時、タクミは最速最強の姿になる。」

 最終コーナーが見える。

「負けない。私が先よ!」

 EK9が最後の力を振り絞って前に出ようとする。

 最後の最後、S660がまたもアンダー。

 その間に、EK9が並ぶ。

 立て直すS660。クリッピングポイントは2台同じ場所。

「ピィーーーッ!」

(えっ?)

 一瞬聞こえた電気機関車の汽笛。

 それに反応してしまったEK9。その間にS660が前に出たところで終了だ。

 信越本線の線路を進んで来た列車の幻影は、軽井沢駅の灯りの中に消えていき、S660の後を走っていたAE86は、S660を約束の場所へ誘導する。

「負けた。この私が―。」


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