C121へ!
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
「ピィーーーッ!」
EF62が牽引する夜行急行「能登」が汽笛を鳴らしながら、熊ノ平信号所へ入ってくる。
AE86の坂口愛衣には、それが木々の合間から見えた。
そして、S660の九重拓洋にも、EK9の坂口真穂にも聞こえた。
だが、九重拓洋には、それは急行「能登」ではなく特急「あさま」に見えている。
(タクミのS660が、この峠に眠っている英霊達と、この峠を越えた記憶を呼び起こしている。)
バックミラーに熊ノ平信号所が見える。列車の灯りに照らされているカラフルな架線柱は、かつてこの鉄路が、JR東日本高崎支社管轄だった証である。
保線トンネルが近付いてくる。
その向こうに見える信越本線を、列車が登っていく。
EK9がドリフトを決める。
S660も登る。
AE86もついて行く。
FFとMRとFR。駆動方法の異なる車が、1つの列車のように登って行く様は、動力分散方式の電車が動力集中方式の電気機関車と手を組んで碓氷峠を登っていくようにも見える。
(さっきから、と言うより、スタートした時からずっと、信越本線を189系とEF63が走っている。あれは幻か、幽霊か。)
C96に突っ込む。大きな右ヘアピンだ。
EK9が進入。
S660がそのイン側を付こうとするが、対向車のライト。
「ちっ!」
S660が引く。ここは公道だ。
(バカ。ここはサーキットじゃないんだよ。でも、その気持ちが出てきているのは、誰にも引かれず、誰にも押されずに自分の中にある峠を越えようとしているって事よ。)
坂口愛衣は思う。
EK9が更にペースを上げた。
(嘘でしょ。さっきまで、越えられないでいた奴の走り?愛衣の指導じゃない。愛衣一人で、ここまでは―。)
前方にC105。ここから信越本線の線路が見える。そこを、列車が走っている。
(列車?バカな!この線路はもう廃線になっている!違う、あれは幻?なら―。)
バックミラーを見る。
S660からナイフのような鋭い視線が飛んでくる。
(S660からオーラが!?定峰で初見した時には、あんなの見えなかった!)
EK9が膨らむ。
「しまった!」
後ろに気を取られ、アンダーが出てしまった。
「行け!」
AE86がパッシング。S660が前に出る。
「あっ!」
S660が初めて、ホワイトインパルスを追い抜いた。
(凄い。S660とタクミが、自分のみの力で登って行こうとしている。)
坂口愛衣は感心した。
「抜かれたからには、抜き返す。仕掛けるポイントは、C121!」
EK9からも殺意のような雰囲気が出る。
「お姉ちゃんが本気出した!ハチロク。ちょっと無理しちゃうけど、我慢してよ。」
AE86も殺意を剥き出しにしてS660を追う。
唸りを上げる4A‐GEエンジンを積んだAE86が、DOHCエンジン全開で登るS660に狙いを定める。
だが、その前に居るEK9が邪魔だ。
「そいつは私の獲物よ!」
だが、名車とはいえ数十年前の物。AE86はついて行くのが精一杯の状態になりそうだった。
C121が見える。ここは登りでは狭いコーナーの入口に対し、コーナー内部で道幅が広がる。それを忘れていた九重拓洋は、オーバースピードで突っ込み荷重移動に失敗。アンダーステアだ。
「バカめ!」
インからEK9が再び前に躍り出る。
「この私を本気にさせたんだから、落とし前付けさせてもらうわよ!」