アタックスタート
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
横川駅を発車する189系の後には、EF63重連。
横川―軽井沢間に待ち構える66.7パーミルの急勾配区間に向かって行く。
1997年9月30日。この日、この列車をもって、信越本線横川―軽井沢間は廃止となる。
EK9と俺のS660、AE86もそれを追うように発進した。
横川駅を発車した特急「あさま37号」は、立体交差を通過する場所でようやくタイフォンを切る。
EF63が、立体交差の上を通過。俺のS660が下を通過。
先頭に付くEK9。
夕陽が落ちた。周囲が暗くなっていく。
AE86もついてくる。リトラクタブルのヘットライトが点灯。
こっちもライト点灯。
坂本宿通過までは、ゆっくり行く。
列車は見えない。おそらく、丸山変電所付近を通過しているところだ。
碓氷峠を越える列車は、横川駅を出た瞬間、いきなりマスコン(車で言うとアクセル)全開。そうしなければ、勾配の途中で止まってしまう。
坂本宿通過。
EK9がアクセルを踏む。
「行くぞ。純白のS!お前の本気を見せ付けろ!」
こちらもアクセルを踏み込む。スポーツモードに変更。
後のAE86のエンジン音も高鳴る。
一つ目、一号トンネルを眼下に見ると、そこをキハ57系がED42電気機関車に牽引されて登っていく。
だが、今、俺は目の前の道に集中する。
この辺りは序の口。勾配はキツイがコーナーはまだ緩い。
坂本ダム通過。
アプト線との立体交差を通過。アプト線を、ED42が登っていく。EK9がペースを上げる。
(ここから先、碓氷第3橋梁からが大変だ。急な勾配とS字、ヘアピンが断続的に続く。コースは分かっている。後は、自分との戦いだ。)
山の夜は早い。もう、真っ暗だ。
EK9のライトが照らす灯りと、俺のS660の照らす灯りが頼りだ。
道の横を進むアプト線を、ED42に牽引されるキハ57系の列車が進んでいる。その車内の灯りが、木々の間から僅かに見える。
暗闇の中に、不気味なレンガアーチの碓氷第3橋梁が見えてきた。
一瞬、それに圧倒されたか、彼女の事を思い出したのか、S660の挙動が乱れた。だが、橋梁を進む列車の灯りが、道を指し示した。
(行け。登れ。登ってくれ。純白のS!)
EK9が、見事なドリフトを決めて、碓氷第3橋梁のヘアピンを越え、その先に待つ上り複合コーナーへ登っていく。
「行くぞ。導いてくれ。お前とはいつも一緒だ。そして、これからも。」
瞬きした一瞬、ラインが見えた。
センターラインを割らないギリギリのラインを、流れ星のようにS660は通過し、複合コーナーへ。
AE86もその後を通過しているが、リアが僅かに流れた。
列車は?
最後尾で列車を押し上げる3両のED42が、今、碓氷第3橋梁に差し掛かった。
その更に奥、碓氷新線を特急「あさま」が通過している。
めがね橋駐車場を通過。
直角右コーナーへ突入。EK9が近付いてくる。AE86も、目一杯まで接近。今まで経験したことのない、接近戦だ。
EK9がアウトから入る。こちらもそれに沿っていく。坂口さんも来る。
3台、同時にドリフトで一気に通過。
少しでもミスったら、崖にぶつかるか、谷底へ真っ逆さま。
限界ギリギリの攻防戦が続いている。
S660のGセンサーは鳴りっぱなし。
リアウィングがいい仕事をしている。
再び、アプト線が近付いてくる。
C57~C58への複合へ。
EK9が僅かにオーバーステアになっている。しかし、すぐにカウンターを当てて対処。こっちはクリッピングポイントを、C57の奥に。
そして、C58へ突っ込む。
C58の後はストレートからC59、C60(碓氷第5橋梁)の複合コーナー。
C59で左へ曲がった後、短いストレートからC60の左。
EK9がC59へ。
(ここは、大きな一つのヘアピンと捉える。だが、そうするとミスる。)
C59が接近。
(頼むぜミットシップ。)
だが、リアが流れる。
「このっ!」
カウンターを当てる。当てすぎたら修復不能。逆へ回ってドッカンだ。アクセルはいきなり抜かない。
一瞬、列車の灯り。碓氷第5橋梁だ。
スピンした碓氷第5橋梁が目の前に見え、列車が橋梁を渡っていく。その灯りが、コーナーを照らす。
続いて、C61が迫ってくる。
EK9の右フロントが、センターラインを踏む。
AE86も、びっちり俺のS660の後をついてくる。
C63からC64通過。C65はガードレールらしいガードレールが無い左コーナー。
それを抜けると碓氷第6橋梁。
アプト線の列車は速度を上げている。EK9も速い。
こちらも必死に追うが、ある程度のマージンを残す。
無理し過ぎたら、待つのは「死」だけだ。
長いストレートからC75へ突っ込む。
ここから先は、Mを描くように走って熊ノ平。
熊ノ平信号所の灯りが僅かに見え、189系とEF63重連、ED42とキハ57が入線している。だが、ここで峠はようやく半分だ。




