緊急事態
この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。
自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。
坂口愛衣が最後の1本とした横乗せアタックは、なぜか最後のコーナー手前で終わりにした。
「この先の景色、それは、明日のバトルの後にね。」
そう言われ、引き返す。
それを、EK9のドライバーは離れた場所で見ていた。
「愛衣。最後まで引っ張らせるとは。」
AE86のエンジン音が遠ざかる。
「ゴメン。新幹線で来てもらって。」
「良いんだって真穂。久しぶりに会えたんだから。」
「うん。浩一。」
「そっちこそ、良かったのかい?そば屋とレース活動の合間に―。」
「近くにいるのに、会わない訳にはいかないよ。」
普段は熊谷に住んでいる彼氏が、偶然にも軽井沢に来ていると聞いて、会うことにしてもらった。
「秩父鉄道で働くのも大変よね。」
「正直、好きじゃないし。」
(あのS660が聞いたらブチキレるね。その発言。)
「あっそうだ。待っている間、ネットで知り合った人と会っていた。」
と言って、彼の友人を紹介される。
3人の友人が一緒だったらしい。
その中の一人、
「海老名芽美。普段は安曇野住み。」
と言った、自分と同い年の25の女がEK9を見て
「彼氏が、スポーツカーに乗り換えたって言っていた。」
と言う。
「へえ。どんな車?」
「えっと、それが名前も教えてくれないんだよ。ただ―。」
海老名芽美は、彼女が通う甲府の専門学校を、偶然にもその日話していた男子生徒と一緒に出た瞬間、血相を変えたように目の前で2回転半のドリフトをして、昇仙峡ラインの方へ飛んでいった白いスポーツカーが気になると言う。
(まさか―。)
「その、彼氏の名前は?」
「タクミ。九重拓洋って言うんだけど―」
「ちょっちょっと失礼!」
坂口真穂は顔色を変えて、少し離れた所から大慌てで、坂口愛衣へ連絡する。
「なんですって!?」
横川でAE86の車内で、九重拓洋を待つ坂口愛衣は驚いた。
「うん。S660を一度殺した張本人が、軽井沢に―。」
「マジか。どうしよう。」
「えっと、とりあえずもう一発、上がってきてくれる?AE86とS660。またはどっちかで。」
「うっうん。ただ、乗るかどうか解らないよ彼が。」
「分かっている。でも、分かったの。S660が一度死んだ訳が。浮気じゃない!」
「じゃっじゃあ、S660は彼が勝手にキレて自爆したって事?」
「ピィーーッ!」と、電気機関車の汽笛が聞こえた。
「もしなんなら、これから急遽だけど、走る?上りを。」
「えっ?いきなり?」
「ちょっと彼女が何時まで居るか、聞いてみるから。」
そう言われて、真穂が電話を切った。
(なんてこと。)
「ホントに?」
「うん。私、芽美の彼氏に会っている。それも、今、近くにいる。」
「どこに?」
坂口真穂は、碓氷峠の方を指す。
「この峠の下。明日、私と妹と一緒に、ヤるの。でも、芽美がタクミの彼氏と知ったのならば―。」
「まさか、連れてくるってこと?」
それに、肯いた。
「何時まで居られる?」
「えっと、後1時間程度。」
「分かった。なら、連れてくるわ。えっと、あの辺りで待ってて!」
坂口真穂はEK9のエンジンをかけ、その場で半回転ドリフトを決めて、碓氷峠を下っていった。
「もう、俺と真穂はおしまいだ。」
と、誰かが言った。
「はっ!?」
「やるわよ。もう1本。今度はAE86とS660で。」
目の前を、EF63が通過する。
その線路の横には、色褪せたEF63‐11号機と12号機。
錆だらけの189系。
まもなく日が沈む。
「今日は終わりじゃないのか?」
「いいえ。後1本。」
九重拓洋はまた、線路の方を見る。
EF63‐24号機が再び、横川駅の方から登ってきた。
「ガスはまだ残っている。行けるでしょ?」
「まっまあ。でも―。」
「なら、行くわよ。」
そう言った時、坂口真穂のEK9がやって来たが、その場で向きを変える。
そして、何かを待っている。
運転席から手を出し、「行くぞ」と言っている。
「ホワイトインパルス。明日じゃなく今からやると言うのか―。」
九重拓洋はビビりながらS660に乗り込む。
EF63が、前方に見える立体交差を通過していく。
(やるしかないか。後1本が一番事故る確率高いのに―。)
「分かった。やる。」




