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純白のSと共に  作者: Kanra
5stage碓氷峠攻防戦
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相談

この物語はフィクションであり、実在の地名や団体とは一切関係ありません。

自動車を運転する際は、実際の道路交通法を守り、安全運転を心がけてください。

 ようやく本調子が戻ってきた俺の仕事。

 だが、頑張る理由を無くして居ることに変わりはない。

 今まで、彼女に会うため、彼女との将来のために仕事をしていたが、それが失われたために、頑張る理由が無く、それは仕事のモチベーションにも直結し、深夜時間帯のいわゆる青タン時間に仕事をする気が起きず、結局、おいしい時間をほとんど活かせず、平均売り上げは4万5千円程度である。会社の平均もこのくらいなので、平均的なドライバーとは見て取れるが、会社としては平均プラスαの部分を求められる。

 今日は珍しく、青タン時間に客を乗せている。

 だが、それは表参道でデートしていたカップルを、世田谷まで送るという物で、そこはおそらく彼女の自宅。この後、二人は(自主規制)をするのだろう。

 一方で、俺は3つの峠を越えて彼女に会おうとして、浮気現場を見た上、昇仙峡ラインでS660を壊したのだ。

 そのS660は、今は修理を終え、リアウィングを搭載し、カラーリングも少し変更して復活している。

 世田谷のマンションの前でカップルを降す。

 伝票を納金袋にしまって回送表示にし、会社へ帰るため環七通りへの出方を調べているとき、今乗せて来たカップルがキスしているのを見てしまった。

「クソッタレ!」

 ハンドルにパンチを食らわす。

「ビイイーーーーーッ!」

 クラクションの音が、バカらしく響く。

 環七通りへ出て、会社のある足立区へ戻る。

 今日の売上は珍しく5万円を越えた。

 ハンドルをぶん殴った左手が痛い。

 ハンドル殴ったってしょうがないってのに。

 会社近くのガススタンドで、燃料を入れるが、ここのスタンド、正直嫌い。

「アリガチュオォーーギョジャイマチュタアァァーーーーーーーーーーーッ」

 このバカにしたような言い方のおネエジジイ。生理的にもうぜぇし、傷付いている時にこんな言い方されたら、轢き殺してやりたくなる。

「死ねっ!」

「ビイイーーーーーーーーッ!」

 会社に戻る途中、またハンドルをぶん殴った。

「おいタクミ!うっせえぞ!」

 信号待ちで後を走っていた安斉一歩に怒鳴られる。

 会社に戻って共に洗車するが、二発もハンドルを殴った左腕が痛い。

 洗車を終えて納金に向かう。

 今日の当直は女性の細木さんだ。

 細木さんには、たまに相談にも乗ってもらっている。

「痛ぇな。二発もぶん殴ってら、痛ぇよな。」

 と、つぶやく。

「その割に、今日は久々に5万。まっ俺は、6万以上は行ったけど。」

 俺は舌打ちをした。

「何があったんだ?ハンドルぶん殴った感じだったが。」

「別に。こっちの問題だ。」

「また、彼女絡みか?」

 それに、頷きながら「碓氷峠」とボソっと言った。

「越えられない峠か?」

「ああ。実はな―。」

 俺はどういうわけか、仕事のモチベーションが上がらなくなっている事から、碓氷峠が越えられないでいる理由。そして、ホワイトインパルスと名乗るチームに碓氷峠へ来いと言われている事まで話した。

「だったら行けばいいじゃねえか。碓氷峠。」

「なんでさ。」

「いかねえで、こんなところでウジウジしていたって、何も変わらないだろ?だったら、いっそ試しに、碓氷峠に行ったら何か変わるかもしれねえだろ。まして、仕事のモチベーションにまで影響をもたらしているんだったら尚更だ。」

 とは言われたが、足が向かない。

 S660のエンジンをかけ、安斉一歩を寮まで送って行った後、鳩ヶ谷街道を北へ向け、家路を走る。

 東北自動車道の側道、国道122号に出るとそこはトラックが銃弾のような物凄いスピードで走っている。

 こんなところをノタノタ走るミニバンや軽ワゴンをたまに見るが、自殺行為だ。突っ込まれて潰されてあの世行きだ。

 こうやって、S660で走っている時間が何よりも楽しく、恋しい。

 1時間近く走って帰宅して、風呂入って、深夜2時半頃ようやく寝る。だが、朝7時頃、電話で起こされる。

「ゴメン寝てた?」

 それは、坂口さんからの電話だった。会社からだったらブチギレ必須だ。

「ちょっと会わない?」

 そう言われて向かうのは、ときがわ町。

 日帰り温泉に納品を終えて、秩父へ帰るまでの間、少し時間があるので会わないかと言うのだ。

 温泉に着く。

 坂口さんのパレットを探して、駐車場を見ていると興奮するエンジン音。

「驚いた?」

「なっ!こいつは―。」

 AE86スプリンタートレノ3ドアハッチバック。あの漫画の主人公の車と同じ、白黒のパンダトレノだ。

「Nワゴン?パレット?あんな軽ワゴンなんか乗ってられない。人生を諦めた連中の乗る車の中でも、カス中のカス!まっこれはお父さんの車なんだけどね。」

「サーキットで働いていると、軽ワゴンやミニバンがゴミに見えるってのはホントなんだな。」

「ねっ。ホワイトインパルスって奴に碓氷峠でバトルしようって言われたの本当?」

「またそれか。耳タコだよ。行く気ないし。」

「えーっ?」

 坂口さんは不満気な顔を浮かべる。

 なんなんだよどいつもこいつも碓氷峠に行け行けとうるせえんだよ。

「行きたくない理由って、やっぱり彼女?」

「ああ。」

 ぶっきらぼうに答える。

「行ったら、彼女に会いたくなってしまうか、完全に忘れてしまう事が恐くて越えられない。でもさ、それって逃げているよね。彼女のことを思う自分から。」

 図星だ。

「だったら、行きなさい。碓氷峠へ。越えられないのなら、私も一緒に行くわ。今度の明け公はいつ?」

(なんで勝手に話を進めるんだ。)

「後、2勤務したらダブ公だ。ただ、明けの日は集合会議で―。」

「集合会議、終わったら来なさい。碓氷峠に。来なかったら、秩父サーキットのライセンス取り消すからね。」


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