GTR
傷心旅行と称して、俺は群馬を目指して車を走らせる。
青空の下、国道17号バイパスを突っ走る白のS660は絵になるだろう。
前に乗っていたのも同じホンダの車。青のNワゴンだった。
走りに関してはS660の方が良い走りをする。
しかし、車内の居住性に関してはNワゴンが勝っていた。
まあ、車中泊をするわけでもないから、これでもいい。
今日走るのは赤城山の山道。そして、赤城山南麗を走って、わたらせ渓谷鉄道の水沼駅にある温泉に入る。
熊谷から、上武道路を進むと、後ろをGTRが走っているのに気付いた。
R32日産・スカイラインGTRだ。
こいつは元々4WD。トランスミッションは5速MT。
まあ、ギアの数では6速MTのS660のほうが勝ってはいるけど、AT車では意味がない。
ちなみに埼玉県内の上武道路は片側1車線。
前を走るのはトロ臭え軽トラ。
50キロ道路なのに30キロで走られては後が溜まったものではない。
GTRはそれに気付いているため、俺を煽るようなことはしないが、GTRのようないかにも「早いぞ!」と言う雰囲気を出す車が後に付いていては、こっちは嫌になる。
かと言って、こっちも前の軽トラを煽る訳にも行かず、嫌々このまま進む。
だが、この軽トラによる渋滞がどんどん伸びていく。
徐々に、GTRから「煽れ!」という雰囲気が出てくる。
GTRの後は大型トラックの車列。GTRにとってもこれは嫌だろう。
上武大橋を渡る直前、軽トラが退いた。
その瞬間、アクセルを踏む。
すると、まるでダムの大放流の如く、詰まっていた後続車が一気に加速を始めた。GTRの後ろから津波のように押し寄せるトラックの群れを振り切る。
群馬県に入ると、二車線になる。
GTRが一気に俺のS660をぶち抜きにかかる。
お互い、いいスピードで走っている。
晴れ渡った空に、赤城山が微かに見える。
冬場なら、埼玉県内からもその姿が見える上毛三山だが、夏は群馬県内まで行かないと見えない。
群馬の奥地へと行くと、どんどん赤城山が大きくなってくる。
東武伊勢崎線の線路を越える。GTRも一緒だ。
(ふん。いいペースで走ってるな。)
と、言うような雰囲気がGTRから漂ってくる。
信号待ちで横に並ぶ。
「どこまで行くんだ?」
と、GT‐Rのドライバーに言われる。
「赤城山へ。」
「一緒だ!一緒に走るか?」
「はい。付いていけるところまで!」
純白のS660と、グレーの3代目日産・スカイラインGTRが一緒に、同じ場所を目指して上州路を走る。
BGMも、さっきまで悲しげな曲にしていたが、ここからは少しテンション高めに行こう。
せっかく、GTRが仲間に加わってくれたのだから。
それも、GTRの中でも俺が一番好きなR32スカイラインGTRだ。